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『アメリカン・スナイパー』クリント・イーストウッド監督 単独インタビュー

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『アメリカン・スナイパー』クリント・イーストウッド監督 単独インタビュー

160人を射殺した男の姿に込めた反戦メッセージ

構成:編集部・入倉功一 Photo by Yoshi Ohara

イラク戦争において160名以上の敵を射殺し、米軍最強とうたわれた狙撃手クリス・カイルの自叙伝を名匠クリント・イーストウッド監督が映画化した『アメリカン・スナイパー』。ブラッドリー・クーパーが製作と主演を兼任し、子供さえ手にかけなくてはならなかった戦場の記憶に苦しむ兵士の姿を克明に描き出した本作は、本国アメリカで、戦争映画歴代ナンバーワンの興行収入を記録する大ヒット。第87回アカデミー賞でも6部門ノミネートを果たす高評価を獲得した本作に込めた思いを、イーストウッド監督が語った。

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西部劇との共通点

クリント・イーストウッド監督

Q:主演のブラッドリー・クーパーは、この映画と『許されざる者』には共通する部分が多々あると語っています。

ブラッドリーは『許されざる者』が大好きなんだ(笑)。でも『許されざる者』は、若かったころの自分の生き方にとりつかれた男を描いている。それが彼をずっと苦しめていて、やること全てに影響しているんだ。たぶんブラッドリーは、『アメリカン・スナイパー』に西部劇のようなフィーリングがあると感じたんじゃないかな。西部劇というのは通常、銃の腕が立つような、防御に秀でた人物を描くものだからね。

Q:カウボーイのことですね。

そうだね。人々が西部劇について探るのは、それが人間対自然を描いているからだ。自然の広大な土地の中で、(カウボーイは)一人で生きている。そういう人々は、全てにおいて似た動機で動いていて、それが興味深いストーリーになるんだ。侍たちの関係や、用心棒みたいなものだと思う。それに、クリス・カイルの物語は歴史的に見てもごく最近に起きたことだから、登場人物が、悪いやつらや荒れた土地、タフな状況と闘うような架空の出来事よりも、ストーリーをよく理解できると思う。

兵士たちが抱える深刻な問題

クリント・イーストウッド監督

Q:映画の中であなたは、イラク戦争から戻った兵士たちが抱える PTSD(心的外傷後ストレス障害)問題の深刻さを描こうとしたのでしょうか?

実際にクリスもその影響を受けていて、乗り越えるのに時間がかかった。映画の中で描かれているのは本当の出来事だよ。彼は自分で乗り越えないといけなかったけど、病院で精神科医と話をしたことがある程度、助けになった。それから彼は、同じ問題を抱える他の兵士たちの手助けをすることに決めたんだ。それは、結果的に彼にとってひどい状況をもたらした(クリスは2013年にPTSDを抱える元兵士に射殺された)。運命の悪い巡り合わせだったんだ。

Q:あなたはかつて『硫黄島からの手紙』を撮り、今回『アメリカン・スナイパー』を監督されました。戦争映画のどういった部分にひかれるのでしょう?

戦争というのは、究極の葛藤みたいなものだと思っている。そして葛藤というのはドラマの基本であり、興味深くドラマチックな物語を生むんだ。『硫黄島からの手紙』は僕の大好きな映画の一つだよ。あれは『父親たちの星条旗』をやったことで生じた好奇心から生まれた。(調査中に)アメリカ人の将校が、島を守ってい栗林忠道大将のことをすごく尊敬していると言っていて、「興味深いな」と思った。それから「島を守りに行き、戻って来ると思うな」と言われた日本軍の兵士たちの側から、戦争を分析してみようとしたんだ。ドラマチックな状況を通じてね。そういう好奇心が、あの映画の企画につながった。

Q:では、イラク戦争がテーマの本作を選んだ理由は?

スナイパーとしての才能に秀でた男に興味があったからだよ。160人以上を射殺するという状況は、ドラマとしてとてもダイナミックだ。一方でクリスは、他の人々の面倒を見たり、助けたりするためにこの世に存在したようにも感じられる。それに彼は、家族と一緒にいたいという思いと同時に、海外にいる戦友と一緒にいたいというジレンマも抱えていた。とてもドラマチックな状況にいる人物で、興味深いよ。

原作にない描写に込めたもの

クリント・イーストウッド監督

Q:クリスが子供を撃つのか、選択を迫られるシーンも強烈でした。普通の映画であれば避けるような直接的な描写に挑んだのはなぜでしょう。

自軍の部隊を守り、助けるのがクリスがやるべき任務だった。しかしそれは同時に、自爆要員として任務に送られる7歳~10歳といった子供を撃たないといけないということにもなる。実際の戦場でもクリスはそういうことをやっていたが、原作にそういう描写はなかった。彼は本に書くのは怖かったと言っていたよ。読者の多くが、そんな状況を理解できないだろうと思ったからだ。でも、僕は映画の中に(子供を撃つシーンを)出さないといけないと言った。誰かが子供の命を奪うという究極的な決定を下さなければいけない状況というのは、とても劇的なものだからだ。後になってまた同じことをしなくてはならなくなったときも、以前の経験の影響で、ものすごく内面的な葛藤が生まれるはずだからね。

Q:妻子あるイラク人スナイパーが登場しますが、これも原作にはなかった演出です。

そう、(原作には)出てこなかった。でも、僕はスナイパーを出さないといけなかった。そして彼の人間的な状況を見せなければならないと考え、妻と子供がいることにした。彼の仕事は、向こう側から(クリスと)同じことをやること。彼がどこの出身であろうと、イラク人としてのメンタリティーを持っている。でも、こちら側の視点において、彼は敵対者になる。クリスが排除しないといけない誰か、なんだ。劇中では、彼のストーリー全体を語る機会はなかったけどね。それは、またもう一つの物語になる。『硫黄島からの手紙』のようにね。

イラク戦争は支持していない

クリント・イーストウッド監督

Q:国際社会は、イラク戦争のことを論議を呼ぶ戦争だと見ています。そういったアメリカ以外の国の人々に、あなたは何を語りたいのでしょうか?

映画を観た誰にでも同じことを語りたいよ。僕は個人的には、イラク戦争を支持した人たちの一人じゃない。それでも、戦場に送られた人々について語ることはできる。彼らが政治的に戦争を熱心に支持していたかどうかはわからないけど、きっと「オッケー。できる限りベストな仕事をしに行くぞ」と思っていたのだと思う。クリスの物語も、イラクやアフガニスタン戦争中に起きた多くのストーリーの一つなんだ。そしてもし、それについて映画を作ろうとすれば、僕は徹底した調査をしないといけない。人々と話をして、歴史的な事実を探り、どこで何が起きたのか、どういうふうに見えたのかをね。でも時々、軍事的に僕たち(アメリカ)は何も調査をしていないんじゃないかと思うんだよ。アフガニスタンにしたって、侵略しようとした人々は最終的には諦めているのに、ただそこに飛んで行き、その後でなぜうまくいかなかったのかを考えている。僕は、第2次世界大戦から今日までずっと生きてきて、多くの変化を見てきた。そして、多くの過ちが、何度も、何度も繰り返されているように思えるんだよ。


クリント・イーストウッド監督

アメリカ軍最強といわれた狙撃手を、戦場の英雄ではなく、戦場の記憶にむしばまれ、PTSDのために壊れてゆく一人の父親として活写した本作。戦争が、一人の人間と、その家族に取り返しのつかない影響を与えるさまを克明に描き出した内容からは、これまで数多くの作品で、さまざまな形の「正義」について問い掛けてきたイーストウッド監督が明確に示した、強い反戦の意思が感じられる。

(C) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

映画『アメリカン・スナイパー』は2月21日より全国公開

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