ニッケル・ボーイズ (2024):映画短評
ニッケル・ボーイズ (2024)
ライター2人の平均評価: 3
ドキュメンタリーで見せた美的センスが今回も光る
ラメル・ロス自身が撮影監督も兼任した「Hale County This Morning, This Evening」(2018)は、美しい映像を繋げつつ黒人コミュニティを見つめていく、詩的なドキュメンタリーだった。そんな彼のビジュアルセンスは、俳優を使った映画に初挑戦した今作にも顕著。だが、やや凝りすぎた印象も。特定の視点にこだわったのはわかるが、映画のはじめのほうではちょっと混乱するのだ。パワフルで意義のあるストーリーなだけに、もう少しまっすぐ語っても良かったかも。もっともこれがこのアーティストの個性なのだろう。アーンジャニュー・エリスらベテランから新人イーサン・ヘリスまで演技はとても良い。
『ムーンライト』の感性を、よりスタイリッシュに追求した印象
更生施設でエルウッドが経験する過酷な日常も、どちらかと言うと彼が冷静に運命を受け入れ、不屈の心で今を生き抜く姿が強調され、物語から想像する“嫌な感じ”が少ない。多くのシーンがエルウッドの視点のカメラで描かれたことで、彼自身の“こうでありたい”という思いが映像に宿り、優しさ、清々しさが全編に充満する。そのせいかエルウッドの表情よりも、親友となるターナーの真っ直ぐでピュアな瞳に心が洗われる。
ただ、ちょっとスタイリッシュに走った演出が目立ち、テーマとは裏腹におしゃれな映画を観てる感覚に陥ったりも。もっと素直に描いていれば感動が深まった気もするが、クリエイターとしての野心、志の高さと受け止めたい。