こんな事があった (2025)：映画短評

なぜ過去形のタイトルなのか？と、考えずにはいられない。確かに設定は2021年の福島。しかし描かれているのは、原発関係者と地元住民の壁、賠償金がもたらした格差、被ばくの不安、やり場のない感情を呑み込んでこの世を去った多くの命……。「あった」では済まされない、今も続く問題がモノクロの映像から鮮明に浮かび上がってくる。この違和感。モヤっとした気持ち。この感情を見る者に抱かせることが松井監督の狙いなのだろう。メディアも政治家も3.11頃にしか被災地に触れないが、あえて時期外れとも言える9月の公開。物語はあくまで淡々と描かれるが、作品の根底にある「福島を忘れるな」というざわめきが、心を捉えて離さない。