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美術監督・種田陽平、映画美術の過去・現在・未来を語る

美術監督・種田陽平、映画美術の過去・現在・未来を語る
「伝説の映画美術監督たち×種田陽平」について語る美術監督の種田陽平

 『思い出のマーニー』『清須会議』『キル・ビル Vol.1』など、国内外で活躍する映画美術監督・種田陽平自らが聞き手となって、映画の黄金期を支えた先達たちの生の声を収録した渾身(こんしん)の一冊「伝説の映画美術監督たち×種田陽平」が、約7年の歳月をかけてついに完成。本書に込めた思い、インタビューを通して見えてきた映画美術の過去、現在、そして未来について、種田本人が語った。

未来を探求するため、20世紀映画美術の神髄に触れる

 本書は、2006年から2007年にかけてキネマ旬報で連載された対談に大幅に加筆を施し、貴重な写真やイメージスケッチなどをふんだんに盛り込みながら再編集したインタビュー集。溝口健二監督の『元禄忠臣蔵』で日本で初めて美術監督を名乗った水谷浩をはじめ、黒澤明監督作品を数多く手掛けた村木与四郎、鈴木清順監督作品で斬新な様式世界を創造した木村威夫、相米慎二監督らの作品で異彩を放った横尾嘉良など、20世紀の日本映画を支えてきた伝説的な映画美術監督たちがずらり顔をそろえる。

 キネマ旬報でインタビューの連載を始めた当初より「単なる懐古的なエピソード集ではなく、日本映画のジャンルを超えて映画美術の神髄を紹介したい」という意思を持って臨んだという種田。その真意を「映画美術監督として作品集はそれぞれ単独では出版されているが、20世紀の日本映画美術の全体像を捉えきれていない。だから、彼らの言葉を一冊にまとめたかった」と説明。さらに「僕自身、CMや映画美術展など、美術監督としてさまざまな仕事をしているが、本質はあくまでも『映画美術監督』。さまざまな仕事をしていても、いつでもその立ち位置に戻れるよう、もう一度、映画美術というものを見つめ直したかった」と付け加えた。

監督が足りないと感じていることを補うことも映画美術監督の大切な仕事

 そもそも映画美術監督とはどんな役割を担っているのか。表面的なイメージは容易に湧くが、作業の幅や監督との関係性が今一つわからない。「具体的に言えば、シーンごとにセット撮影が良いのか、ロケーション撮影なのかをさまざまな要因を考慮して提案し話し合い、セットならばデザインし、つくり、ロケーションならば最適な場所を選び、さらに両方のマッチングを考え、監督が映画で実現したい世界を一緒につくり上げる仕事」と種田は言う。ただし、日本と海外ではやり方も違うし、ベテラン監督と新人監督でも美術の仕事のありようは変わってくるという。

 『清須会議』はどうだったのだろう。「三谷(幸喜)さんのよう舞台出身の監督と組む場合は、映画の空間設計をどうつくっていくかについては僕がサポートできたかもしれない。その代わり、舞台をご一緒したときは三谷さんが舞台美術のエッセンスを示唆してくれた。お互いに足りない経験や知識を補い合う、という感覚でしょうか」。監督の経験や実現したいこと、またプロジェクトに合わせてアプローチを調整していく映画美術監督の苦労と立ち位置がうかがえる。

種田陽平
今、僕らが作っている映画の中で50年後も面白いと思ってもらえる作品が何本あるのか? - 種田陽平

伝説の映画美術監督は偉大なる大うそつき!

 世界の映画シーンはますますデジタル化が進み、フィルム撮影もいよいよ終焉(しゅうえん)を迎えようとしている。映画美術監督の在りようも変わりつつある今、映画黄金期を支えた先達たちの生の声から、種田は何を吸収したのか。「まず、この本の面白いところは、世界に誇る黒澤作品からカルト的人気を誇る増村保造監督の『盲獣』のような異色作まで、偏りなく紹介されているところ」だと強調する。

 「公開当時はお客さんが入らず映画史に埋もれてしまっていたが、50年後の今見直しても斬新ですごく面白いという作品もたくさんある。つまり、何が言いたいかというと、今、僕らが作っている映画の中で50年後も面白いと思ってもらえる作品が何本あるのか? ということ。映画の作り手は、自分の時間軸を広げて、『今かっこいい』だけじゃなくて、もっと後の時代に上映されても『なんてかっこいいんだ!』と感嘆してもらえるような作品を作ろうという気概を持つことも大切なのではないか」と述べる。

 では、伝説と呼ばれる映画美術監督たちは、なぜそれができたのか。「例えば、僕が助手だったころ、(鈴木清順作品などを手掛けていた)木村(威夫)さんは『大言壮語のオヤジ』と呼ばれて煙たがられていた。若いときはわからなかったけれど、経験を重ねた今では木村さんのこの姿勢を理解できる。映画美術が思想や哲学も語らずに、ただ言われたことをやっていても映画には何も生まれない。大うそつきと言われるくらいの想像の飛躍が時には必要なんだということだ。もちろんその方法は人によって違うが」と本書の中で種田は語っている。

 さらに「(伝説的な美術監督たちと)対談を続けてわかったことは、伝説と呼ばれる映画美術監督たちも、大変さは僕たちと変わらなかったということ。予算も時間も限られた中でアイデアを瞬発的にひねり出し、監督やプロデューサーとやり合いながらも、なんとかクリエイティビティーを優先させて、それが映画史に残る『ルック』(色調や粒子の具合、ピントの加減などで形成される画面全体の雰囲気)を生み出した。つまり、このインタビュー集は、そういう賭けもいとわない『偉大なる大嘘つきたち』の貴重な記録」と述べる。

種田陽平
「昔の映画、もう一度観てみようか」と思ってくれたら大成功 - 種田陽平

タランティーノ最新作、そして映画美術監督・種田が目指すこと

 『キル・ビル Vol.1』以来となるクエンティン・タランティーノ監督とタッグを組むことになり、現在、多忙を極める種田。ほぼ同世代でお互い映画好きなことから、顔を合わせればコアな映画の話で大いに盛り上がるという。「タランティーノはタランティーノで、大好きな映画をもう一度、自分の表現で作り世に送り出したいと思っている。僕は僕で、自分が好きだった映画のエッセンスを、自分が携わる作品を通して表現したいという思いがある。それは、映画に慰撫(いぶ)されてきた僕たち世代の使命だとも考えている」と表情を引き締める。

 さらに「この本は、これからの映画と昔の傑作を現代、そして未来につなぐ映画好きのための本です。美術監督たちの手掛けた映画を劇場公開で観てこられた方はもちろんですが、若い世代の方がこの本を読んで、『種田がそんなに言うなら、昔の映画、もう一度観てみようか』と思ってくれたら大成功」と締めくくった。故(ふる)きを温(たず)ね新しきを知る映画の旅、種田と共にゾクゾクするような異空間に出掛けることのできる1冊となっている。(取材:坂田正樹)

「伝説の映画美術監督たち×種田陽平」は10 月24 日発売(発行:スペースシャワーネットワーク 価格:4,700 円+税)


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