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ヤクザ、死刑囚えん罪、水爆実験被害…テレビ局が制作する骨太映画の狙いとは【映画で何ができるのか】

ヤクザ、死刑囚えん罪、水爆実験被害…テレビ局が制作する骨太映画の狙いとは
『ヤクザと憲法』(2016年1月2公開)大阪の指定暴力団・二代目東組二代目清勇会(大阪市西成区)にカメラが入り、暴力団排除条例以降の彼らの日常を赤裸々に映し出す。取材中、組員が自動車保険の交渉がこじれて恐喝未遂で逮捕され、組がガサ入れされる瞬間も! 土方宏史監督。ポレポレ東中野ほか全国順次公開中。 - (C)東海テレビ放送

 大作映画で劇場が埋め尽くされる年末年始。そんな中、果敢にタブーに切り込んだ4作品がミニシアターで気を吐いている。

 米国が行った水爆実験の真相に迫る『放射線を浴びたX年後2』、暴力団事務所に密着した『ヤクザと憲法』、司法にメスを入れる『ふたりの死刑囚』、そして福島第一原発事故に翻弄された人々の“今”を描いた『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』。いずれもテレビ局が制作した作品だ。

 東京の地上波のドラマが、自由な番組作りを目指して動画配信や衛星放送へと重心を移す中、通常放送後にさらにバージョンアップしたものを映画館へと送り出している。その狙いは? 関係者に話を聞いた。(取材・文:中山治美)

『ヤクザと憲法』
『ヤクザと憲法』の阿武野勝彦プロデューサー。1981年に東海テレビに入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー制作へ。『神宮希林 わたしの神様』(2014公開)など一連の東海テレビドキュメンタリー映画のプロデュースを手がけている。

ヤクザも人間

 『ヤクザと憲法』は、東海テレビ放送(本社・愛知県名古屋市)制作のドキュメンタリー映画8作目となる。取材対象者は、大阪の指定暴力団・二代目東組二代目清勇会。1991年に制定公布された暴力団対策法によって、あの東映ですら任侠映画路線から撤退。さらに暴力団排除条例が各都道府県で施行され、メディアで取り上げられる機会もめっきり減っているだけに、東海テレビは怖い者知らずかと驚いた人も多いだろう。 土方宏史監督と制作しながら考えたのは、それでも彼らも人間であるということ。そこに依拠出来ないなら、番組は世に出さないと決めました。でも今回は最初、腰が引けていたのは事実ですけどね(苦笑)」。

 同局制作ドキュメンタリーは、どれも強烈な個性を放っている。主な作品は、1980年代に生徒の死亡や行方不明事件を起こした戸塚ヨットスクールのその後を追った『平成ジレンマ』(2011年公開)を皮切りに、和歌山毒物カレー事件や光市母子殺害事件などを担当している安田好弘弁護士の生き様を映し出した『死刑弁護人』(2012公開)、中退した元球児の再生の場に密着した『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』(2014年公開)など。カメラを向ける相手は世間からバッシングを受けていたり、社会からドロップアウトした人たちだ。

『平成ジレンマ』
『平成ジレンマ』(2011公開)1980年代に世間を賑わせた戸塚ヨットスクール(愛知県知多郡)に密着。体罰などが問題視されたにも関わらず、今も戸塚宏校長のもとには、子育てに悩む保護者が引きこもりやニートの子供たちを連れてスクールを訪れていた。同スクールからかい間見える教育現場の今。齊藤潤一監督(C)東海テレビ放送

天皇陛下からホームレスまで

 大手メディアとは常に真逆の位置からカメラを構え、1つの事件や事象を別角度から検証する。それが同局ドキュメンタリーの特徴であり、映画界でもファンが多い。『ヤクザと憲法』を筆頭に一連の作品をプロデュースした、東海テレビの阿武野勝彦が制作方針を明かす。

ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~
『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』(2014公開)高校を中退した元球児たちに、再び勉強と野球の場を与えるべく創設されたNPO法人ルーキーズ(愛知県常滑市)の選手たちをフィーチャーするはずが、カメラは次第に金策に走る理事長を追い始める……。無様だが、一度、挫折を味わった生徒たちの為にここまでやるか! の理事長の姿に胸が熱くなる。土方宏史監督。(C)東海テレビ放送

 「僕らはタブーに突っ込んでいったワケではないのです。この社会を描く題材として、出来れば天皇陛下からホームレスまでおしなべて取材したい相手がいれば取材をしていいと思っています。それが今回は、ここに行き着いた。(暴力団排除条例施行以降)今後、絶滅するかもしれないヤクザはいま、どういう状態にあるのか? 向こうに回ってカメラを回したら『こんな人生、こんな光景を見ている人たちなんです』というのが分かるだろうし、向こうから見える社会もある。もちろん、公共のメディアとしてヤクザを扱うのはいかがなものか? と 考えました。土方(宏史)監督と制作しながら考えたのは、それでも彼らも人間であるということ。そこに依拠出来ないなら、番組は世に出さないと決めました。でも今回は最初、腰が引けていたのは事実ですけどね(苦笑)」。

 これまで同様、映画版はテレビ放送版に未放送映像を追加して再編集したものだ。『ヤクザと憲法』の放送は2015年3月30日。青少年への影響を鑑み、時間は深夜24時35分から放送された。番組HPには視聴者からのメッセージ投稿欄が設けられ、批判も堂々と受け付けて議論の場とし、次のドキュメンタリー制作に活かす。それも同局のスタイルだ。

生徒への9連発ピンタシーンにより放送せず

 ただ地方局の宿命で、東海テレビの放送は東海地区三県のみ。どんなに優れた番組を制作しても、東京キー局でもドキュメンタリー番組が休日の午後や深夜に追いやられている昨今、なかなか全国ネットで放送される機会は少ない。フジテレビ系列の同局の場合、全国ネット放送が狙える「FNSドキュメンタリー大賞」という檜舞台が用意されているが、『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』の時には放送表現についてのトラブルがあった。

 問題となったのは、チーム監督が生活改善の見られない生徒に対して9連発ビンタをお見舞いするシーン。時は、大阪市立桜宮高校で体罰を苦に生徒が自殺する事件があったばかり。視聴者からの批判を受けることを恐れたのか、フジテレビからFNSドキュメンタリー大賞にノミネートするのは自由だが、「フジテレビでは放送しない」という旨の通達を受けたという。

ネット配信でなく映画館にこだわったわけ

 ならばと選んだのが全国津々浦々で上映出来る可能性のある映画館だった。その思いを阿武野氏が語る。「僕はテレビが好きなんです。常にテレビに軸足があると思っています。だからこそ、一生懸命自分たちが取材して2時間に凝縮したものに対して、これは全国ネットではダメとか不毛な話をするのが耐え難い。ならばテレビの制作費で映画版も作ろうと。でも最初は、映画館も冷たかったですよ。当たり前ですよね。各映画館とも土俵際で懸命に頑張っているのに、(採算がとれるかどうか分からないものを)一方的に上映して欲しいとお願いしている訳ですから。偏見もあったのかもしれません。

伊東英朗監督
伊東英朗監督 愛媛の町立幼稚園で16年間教諭を務めた後、南海放送入りした異色の経歴の持ち主。2004年から太平洋核実験の漁船被ばく問題の取材を開始。今も通常業務をこなしながら取材活動を続けている熱血人。(C)南海放送

 だけど『テレビ局という安全圏から、適当な表現で(映画を)作ったんでしょ』と十把一絡げで言われるのはイヤですね。個別単体でしょう」。とはいえ、劇場公開するとなると配給や宣伝で、それなりの手間も時間も予算も必要となる。時代の流れでテレビ局では動画サイトでの配信事業に積極的に参入しており、全国の人に視聴してもらうことが目的ならば、こちらの方が有益のように思える。だが、阿武野氏は反論する。

 「僕はテレビの良さというのは、複数の人間が同じ空間で同じものを見て、ため息をついたり、涙したり、キスシーンで家族がそわそわしたり(笑)と、共有するところにあると思います。ネット配信ではそれが出来ない。でも、映画館ならば可能です。1作目の『平成ジレンマ』が劇場公開された時、劇場の一番後方から見たのですが、この空間で皆に見てもらうことはなんて尊いことなんだと、しみじみ思いました。お金のことばかり考えている局員からはヤンヤ言われますが(苦笑)、同様にDVDにもしませんし、iTunesにも作品は売りません。理想としては、映画として世に送り出したものが、また放送の世界に戻ってくるということ。おかげ様で映画版は、チャンネルNECOなど衛星放送で放送されるようになりました。こうした流れを積み上げていきたいと思っています」。

『ふたりの死刑囚』
『ふたりの死刑囚』(2016年1月16日公開)冤罪を訴えるも再審が開かれず長年“死刑囚”と呼ばれ続けている名張毒ぶどう酒事件の奥西勝氏と、袴田事件の袴田巌氏の半生を描いたドキュメンタリー。再審の願い虚しく、奥西氏は2015年10月4日に享年89歳で獄死。長年、名張毒ぶどう酒事件を追い続けてきた東海テレビ報道部長の齊藤潤一氏がプロデューサーを務めた執念と怒りの渾身作。鎌田麗香監督。1月16日よりポレポレ東中野、名古屋シネマテークにて公開。順次全国公開。(C)東海テレビ放送

死刑囚のえん罪問題

 最新作は、1961年に三重で起こった名張毒ぶどう酒事件の奥西勝死刑囚と、1966年に静岡で発生した強盗殺人放火事件「袴田事件」の袴田巌死刑囚のいまを追った『ふたりの死刑囚』。特に地元局の使命として、名張毒ぶどう酒事件は代々の記者たちが長期取材を敢行。その過程で確証を得た奥西勝死刑囚の冤罪を訴え、映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(2013年公開)も発表している。

 同作は観客約2万5,000人を動員し、自主上映も全国130か所で行われた。同局の飽くなきジャーナリズム精神に刺激を受ける業界関係者も多いだろう。
「いや、僕たちに比べれば、伊東さんには頭が下がります。あの方はジャーナリストとしてずっと(王道に)立っていますから」。

水爆実験の実態を追い続けるジャーナリスト

 阿武野氏が敬愛する“伊東さん”とは、米国が1946年から1962年まで中部太平洋で行った水爆実験の実態を、2004年から取材を続けている南海放送(本社・愛媛)の伊東英朗氏だ。伊東氏が制作したドキュメンタリーは南海放送のみならず、日本テレビ系の報道ドキュメタリー番組「NNNドキュメント」(毎週日曜・深夜24時50分)でも全国放送されていたが、その集大成として映画『放射線を浴びた[X年後]』(2012年公開)を発表。一般的に1954年の第五福竜丸事件は知られているが、その期間に漁に出ていたその他の漁船も被ばくしていたことを詳らかにし、かつ日本のみならず太平洋上の多くの国々も汚染されていたという“機密文書”も公表。映画は反響を呼び、映画賞のみならずジャーナリズムの信用と権威を高めた個人に贈られる日本記者クラブ賞も受賞した。しかし伊東氏は謙虚な言葉を口にする。

『放射線を浴びたX年後2』
『放射線を浴びたX年後2』 前作『放射線を浴びた[X年後]』を観賞し、元漁師だった父親の死に疑問を抱いた川口美砂さんと漫画家・和気一作氏らの調査を中心に、ビキニ水爆実験による被ばくの傷痕を丁寧に追う。全国順次公開中。(C)南海放送

 「謙遜ではなくて、僕はジャーナリストと恥ずかしくて言えない。映画はおじさんの趣味じゃないですけど、テレビだけでは伝わらないから映画にして全国に届けるんだという単純な思いから始まりました。でも1作目の時は、映画のような長時間の作品を作った経験がなく、完全に自分のキャパシティを超えていた。そこで閃いたのが、(1本1本の番組をつなげるように)章立てにしたら出来るのではないかと。なので1作目は、無茶苦茶素人作業なんです」。

漁師だった父親の死の原因を調査

 映画は全国公開され、自主上映は200回以上に及んだ。それが一人の女性の心を動かした。高知県室戸市出身で、現在は東京で広告代理店を営む川口美砂さんだ。お盆で帰省した時に、妹に誘われて見たのが『放射線を浴びた[X年後]』だった。川口さんの父親は室戸の漁師。だが、36歳の若さで亡くなった。周囲からは「酒の飲み過ぎ」と揶揄され、悲しい思いをしてきたが、死因は別にあるのではないか? 川口さんの父の死を巡る調査が、続編『放射線を浴びたX年後2』のメーンとなっている。東京・ポレポレ東中野で行われた舞台挨拶で、川口さんは本作に関わった思いを明かした。

画像テキスト
『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』 阪神淡路大震災の15年後の神戸を舞台にした『その街のこども 劇場版』(2011年公開)の井上剛監督が、今度は神戸と福島を舞台に、被災者のやり場のない思いに迫った意欲作。2015年3月にNHKで全国放送されたバージョンに、26分を加えて福島と兵庫のみ放送された全長版を劇場公開。上映時間100分のドラマ枠はなかなか確保できず、作品が好評だったこともあり劇場公開へ。1月16日にフォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館で先行公開され、1月23日からはシアター・イメージフォーラムで公開。(C)2015 NHK

 「最初は父の事というより、伊東監督が室戸での聞き取り調査に苦労されていたようだったので、室戸の事なら私も何か手助けが出来るかも? と思い、連絡をしました。お会いした時に、伊東監督から『お父さんが乗っていた船の名前は分かりますか?』と聞かれて答えたところ、2、3日後に細かい調査メールが届き、ちょうど水爆実験と漁の時期が重なると知らされました。その時に、伊東監督の力になりたいと思いました。1作目の映画に出会った事で、私は自ら考えて行動すること、知ることの大切さを学んだと思います」。

データーの公表と謝罪を

 ただ伊東氏は、映画館に来るのはこうした題材に関心が高い人であり「勘違いしたらいけないと思っている」と語る。目的は、アメリカ原子力委員会が保有していると思われる水爆実験における人体への影響を示す明確なデータの公表であり、謝罪であるという。伊東監督は語気を強めて言う。「核兵器ビジネスのために水爆実験をガンガン行い、マグロ船などいろんな船を被ばくさせ、かつ日本全土も米国人も被ばくさせ続けた。そんな事が許されていいはずがありません。それをまだまだ言い続けなければいけないと思っています」。

 彼らのようなテレビ制作に情熱を傾けている人たちの作品が、テレビの世界から溢れてしまっている現実は哀しくもある。だが彼らの作品は確実に映画界に刺激を与え、かつメディアや地方局という枠を超え、映画館の新たな活用法を提示しているように思うのだ。


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