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タイの奇才、スピリチュアルな“光の療法”の秘密を明かす

タイの奇才、スピリチュアルな“光の療法”の秘密を明かす
眠り病を治癒する「光の療法」のビジュアルは一度見たら忘れられないインパクト - (C) Kick the Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films / GeiBendorfer Film-und Fernsehproduktion / Match Factory Productions / Astro Shaw (2015)

 『ブンミおじさんの森』(2010)で第63回カンヌ国際映画祭のパルムドールに輝いたタイの奇才アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が、最新作『光りの墓』の謎と秘密に満ちた世界観を明かした。

 本作は、原因不明の“眠り病”にかかった兵士たちが療養中の、タイ東北部の町コーンケンにある仮設病院を舞台にした現代のおとぎ話とも言うべき物語。医者の両親の間に生まれ、病院の中で育ったというアピチャッポン監督のルーツが色濃く感じられる。劇中に登場する“眠り病”を治癒する「光の療法」に用いられる機器が非常にユニークなデザインで、病院を取り巻く緑豊かな美しい自然と、SF映画を思わせる最先端の医療機器のビジュアルとのギャップが印象的だ。監督は、「数年前から、化学物質が記憶や脳にどんな作用をするのか、ということに興味があってリサーチしていてね。そしてあるとき、光によって脳細胞を操作して、特定の記憶を甦らせようとしたMITの教授の記事を読んだんだ。僕が医者なら、ぜひともその方法で眠り病を治療したいね」とスピリチュアルな「光の療法」の着想を語る。

光りの墓
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督(C) Kick the Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films / GeiBendorfer Film-und Fernsehproduktion / Match Factory Productions / Astro Shaw (2015)

 猿のような森の精霊や、女幽霊が登場する『ブンミおじさんの森』しかり、本作にも人の前世や過去の記憶を見る力を持つ女性や、彼女の前に現れる2人の王女など、ファンタジックなキャラクターが多々登場する。そんな独特の世界観について監督は、「生者と死者が一緒にいたり、亡霊が現れたりするのはタイの昔の小説や映画にとても多いんだよ。例えば、この映画を撮影したイサーン地方にはたくさんの伝説が残っていて、死んだ妻が夫のために食事を作りに現れる話がごくノーマルな話として受け入れられていたりする。それに、僕は子供のころ、タイのファンタジー、怪奇映画が大好きで、特にチャイヨー・プロダクション(※タイの映像制作会社)の映画の大ファンだった」と子供のころに観た幽霊やモンスターの映画がイマジネーションの源となっていることを明かす。

 さらに、本作は夢がモチーフになっているともいえるが、具体的に夢を描いた映画として影響を受けた作品に、フランシス・フォード・コッポラ監督の『カンバセーション…盗聴…』(1973)、フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』(1963)を挙げた。またツァイ・ミンリャン監督の大ファンだそうで、「『河』(1997)、『楽日』(2003)、『郊遊<ピクニック>』(2013)など、ある種のファンタジーをいつも感じさせてくれるから大好き」としている。

 なぜ、兵士たちは“眠り病”にかかったのか……? それには病院が建てられた場所に、はるか昔に王様の墓があったという過去が関係しているという数奇な事実が浮かび上がり、哀しい結末が用意されているが、これには現在のタイの状況を憂う監督の思いが込められているのだという。「この3年間、今日に至るまでタイの政治状況は行き詰まっていた。僕は眠ることに魅了され、夢を書き留めることに熱中した。それは、つらい現実から逃げる方法だったんだと思う。今の軍事政権下における環境というのが、僕が公の場で自分の映画について語ることを不可能にしている。僕は自分の仕事を、今の国の空気の中ではシェアできないと思っている。そこには自由がないから。だからこのような発言をするということは、一つの宣言でもある。今この国が行おうとしていることに対して、自分はそれとは違った場所で活動するという立場を表明しているんだ。将来的に国が変わったら、僕の気持ちも変わると思うけどね」。(取材・文:編集部 石井百合子)

映画『光りの墓』はシアター・イメージフォーラムにて上映中


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