『トイ・ストーリー』アニメーター、アニメに同性カップルを 古巣を出て描いた愛のカタチ
『モンスターズ・インク』『トイ・ストーリー』などを手掛けたアニメーター、ダグ・スウィートランドが監督を務めた映画『コウノトリ大作戦!』(現在公開中)には、一つの家庭のカタチとして同性カップルがはっきりと描かれている。スウィートランド監督がアニメーターとして参加した『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』が、同性カップルの件で話題になったことを踏まえると、彼が古巣を離れて新たな地で描いた『コウノトリ大作戦!』でこの描写が登場することは非常に興味深い。
【写真】メインとなる赤ちゃんの髪の色は、金でも黒でも赤でもない ピンク色だ
スウィートランド監督が、アニメスタジオ「ワーナー・アニメーション・グループ(WAG)」で本作の製作に取り組んだ。同スタジオはワーナー・ブラザースが、より良質なアニメーション映画を作るために組織したアニメーション製作チームで、代表作には『LEGO(R)ムービー』などがある。
スウィートランドと共に監督を務めたニコラス・ストーラーが、「この映画には、他のアニメーション・スタジオでは生き残れないようなアイデアが多く含まれている。こういった作品を描けるのは、WAGでなければ不可能だったと思うよ」と語るように、実際劇中には大手映画会社のスタジオでありながら、実験的な描写がいくつも存在する。まず『コウノトリ大作戦!』では赤ちゃん・育児・家庭と仕事のバランスなどをテーマに、赤ちゃんを運ぶコウノトリと彼と共に冒険する人間の女の子の奮闘ぶりが描かれるのだが、このメインのキャラクター同士がコウノトリと人間という種族を超えて絆を深めていく姿がユニークだ。
ご飯を嫌がる赤ちゃんに工夫を重ねて食べ物を口に運んだり、夜泣きする赤ちゃんを一晩中あやし続けたりする中で二人は、“家族の絆”にとどまらない“夫婦の絆”に近い絆を深めていく。人間の女の子がコウノトリに対してあらためて種族の違いを突きつけるシーンでは、コウノトリがショックを受けてすねてしまう。全年齢対象作品であり“愛し合う”シーンはないが、さまざまな垣根を越えた愛の可能性を提示させるような表現が差し込まれているのだ。
そして赤ちゃんがさまざまな家庭に届けられる場面では、人種や性別を超えたカップルが次々と映し出される。今年公開されたディズニー/ピクサー映画の『ファインディング・ドリー』では、映画に登場する女性2人組が「ピクサーが初めて同性カップルを登場させた」と注目を浴びたが、こちらの作品の監督はあくまでもそういう意図で描いてはいないと語り、明確な答えは出されなかった。つまりまだディズニー/ピクサーの作品では、同性カップルが登場したとは言い難い状況なのだ。ディズニー作品にもLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)のキャラクターを登場させてほしいという要望の声が大きくなりつつある昨今。愛のカタチは無数にあり、アニメで表現するタブーなんてない。スウィートランド監督が古巣を離れて挑んだアニメーション映画『コウノトリ大作戦!』には、さまざまなメッセージが込められているように思われる。(編集部・井本早紀)