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ソダーバーグ流映画の作り方&スタジオに頼らない新たな映画ビジネスとは?

裏側も詳しく話してくれるスティーヴン・ソダーバーグ監督
裏側も詳しく話してくれるスティーヴン・ソダーバーグ監督 - 写真:奥野和彦

 映画監督復帰作『ローガン・ラッキー』を引っ提げ来日したスティーヴン・ソダーバーグ監督が取材に応じ、映画作りの裏側と本作のために立ち上げた新たな形の映画ビジネスについて語った。

これ本当にダニエル・クレイグ?映画『ローガン・ラッキー』本編映像

 近所でもツイてないことで有名なローガン兄弟(チャニング・テイタムアダム・ドライヴァー)が変人爆弾魔(ダニエル・クレイグ)らを仲間に、起死回生の現金強奪計画に挑む本作。ユーモアに満ちた小気味よい強盗ものでありながら、父と娘のエモーショナルなドラマでもあり、そのバランスが絶妙だ。

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 実は、チャニング演じる主人公ジミーが娘に手伝われながら車いじりをしているオープニングシーンはもともと予定されていたものではなく、再撮影で新たに追加したのだという。「1回目のプレビュー試写の時点で観客の反応はよかったものの、僕が予想したほどではなかった。それで追加撮影をしたんだ。やらなくてはいけなかったのが、ジミーと娘のシーン。彼らの関係は本作において重要なパートだったから、ちゃんと掘り下げる必要があった。それにこのオープニングは二人の関係を表しているというだけでなく、映画を観た後にこのシーンに戻ってみてもらえれば、これから起きることの前提が四つ、五つ、そこで組み立てられていることがわかる。このシーンとかほかのちょっとしたシーンを加えて2度目の上映したら、反応はずっとよかったんだ」。

 その日撮影したものをその日のうちに編集していくスタイルを取っているソダーバーグ監督。撮影前に思い描いた理想の形に近づけていくというより、そうした日々の作業で新たなものを見つけようとしているのだろうか?「それは両方だと言えるね。音楽となぞらえるとわかりやすいと思う。まず“これで行こう”というコード進行を決め、そのコードの間の音符を提供してくれるような、とても技術のあるミュージシャンたちを雇う。だけど映画の場合は、コード進行を即興でやるのはとても危険なことだと思う。コードは筋が通るようにしなければいけないし、全体にぴったりはまらないといけないから。だから僕はコード進行の構造を事前にしっかり把握するために準備を万端にし、日々の現場ではそのコードにはまる音符はどれなのかを見つけようとしているんだ」。

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 しかし、時にはその“コード進行”自体がうまくいかないこともあるという。例としてソダーバーグ監督が挙げたのが、未知の致死性ウイルスが爆発的に広がっていく恐怖を描いたスリラー『コンテイジョン』だ(上映時間1時間46分)。「最初に編集したものは2時間20分あったんだが、何かが間違っていてうまく流れていかなかった。いろんなバージョンを作ったが全くダメで、本当にイライラしていた。そこで脚本家で監督の友達に映画を観てもらったら、『90分のバージョンを作ってみるっていう実験をしてみたら? 銃を頭に突き付けられて、この映画は90分にしなくちゃいけないと言われたと想像して。それで何が残るかを見つけるんだ』と言われたんだ」。

 そして2時間かけて90分に削ったところ、映画の構造が見えてきた。「初めてうまくいくと思えた。編集したものから45分も抜き出したわけだから完全にストリーラインは失われたが、光が見えた。とても戦略的な追加撮影をすれば、このバージョンをうまく生かすことができるとね。それが、僕たちがあの映画でやったことなんだ。この話が示しているのは……全部のことがあらかじめわかるわけではないということだね(笑)」。

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『ローガン・ラッキー』
撮影も自分でするソダーバーグ監督と、囚人服姿のダニエル・クレイグ

 いかに自分の作品を自分でコントロールできるかに重きを置くソダーバーグ監督は、『ローガン・ラッキー』で『サイド・エフェクト』以来4年ぶりに映画監督復帰を果たすにあたり、自身の配給会社フィンガープリント・リリーシングを立ち上げ、映画のマーケティングおよびファイナンシャル面(どうお金を集めてどう分配するか)でも自ら舵を取るという、大手スタジオに頼らない新たな映画ビジネスの形を打ち立てた。

 「マーケティングとファイナンシャル、この二つが長編映画から身を引いた理由でもあった。大規模公開された時には、それをコントロールできなかったから。映画を愛しているから本当は辞めたくなかったが、あの時はそれしか選択肢がなかった。今回、映画界に戻って来るにあたって、自分に合った映画ビジネスのバージョンを作ることができた。他の誰かがすでに形作ったビジネスの中でやるのではなくてね。今は自分の条件で映画を作ることができ、自分の映画ビジネスの中で仕事ができるから快適なんだ。実際、公開後にいろんな映画監督から電話がかかってきて『どうやったのか、何をやったのか詳細を教えてくれ』と聞かれたから、このアプローチを前進させるのは僕だけではないと思う」と今後、監督主導の映画ビジネスが進むことになるだろうと予想した。

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 ソダーバーグ監督は新たなビジネスモデルを確立させるにあたって、今までやったことのないような契約の数々を数々の会社と結んだといい、特にアマゾン・スタジオとの契約が大きかったと語る。「アマゾンには映画の権利の一部を買ってもらい、その契約書を担保に銀行でローンを組み、映画のマーケティング費用に充てた。この交渉にはすごく時間がかかった。なぜならアマゾンにとっても新しいことだったから。彼らは普通、映画の全権を買うからね。僕たちにとってはすごくいい契約だったよ」とにんまり。

 「もちろん両者にとっていい契約だった」と補足したソダーバーグ監督は、アマゾンともっとたくさんの映画をこのモデルに乗せる交渉も始めたことも明かし、「だから彼らもハッピーに違いないよ」と続ける。「プロデューサーが映画の制作費を払うために海外配給権を売るというのは60年もやってきたことだから、新しくはない。ただこうした契約全てを一つの映画でやったのは、普通ではないことなんだ。(アマゾンのような)ストリーミングプラットフォームの出現が、クリエイティブなアプローチを可能にした。僕らが『ローガン・ラッキー』でやったようにね」。ストリーミングサービスが映画業界に与えたインパクトはこんなところにもあったようだ。(編集部・市川遥)

映画『ローガン・ラッキー』は公開中

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