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天皇映画とそのタブー

コラム

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イッセー尾形が演じる昭和天皇 映画『太陽』より - Lorber Films / Photofest / ゲッティ イメージズ

 昨年12月1日、政府から天皇の退位日が2019年4月30日に決定したことが発表された。それに伴い皇太子さまが同年5月1日に即位され、新元号も施行される。そこで平成生まれの日本大学芸術学部の学生たちが、これを契機に改めて天皇や日本を考えようと「映画と天皇」(2017年12月9日~15日)と題した特集上映を東京・渋谷ユーロスペースで行い、2030人を動員する反響を呼んだ。日本の象徴で誰もが実情を知りたいと思いながらいまだタブー視とされる天皇。改めて映画でどのように描かれてきたか追ってみた。(文:中山治美)

映画『この世界の片隅に』より - (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 実は日本映画の中で、最も出演本数が多いのは昭和天皇かもしれない。それは声での出演で、太平洋戦争時代を描いた作品では終戦を告げる象徴的なシーンとして玉音放送が使用される。大ヒットアニメ『この世界の片隅に』(2016)でも玉音放送が流れ、それを聞いた主人公すずが敗戦に納得できず、「暴力で従えとったということか。じゃけぇ暴力に屈するいうことかね。それがこの国の正体かね」とやり場ない怒りをあらわにする。同様に当時の兵士たちは、現人神(天皇)に仕える神軍という認識で戦地に赴いており、姿は見えねど日本の戦争映画の支柱となっていると言っても過言ではないだろう。

 そもそも1946年1月1日に昭和天皇がいわゆる人間宣言するまで、天皇は現人神と崇められ、ドキュメンタリーの中で記録映像が流れることはあっても、フィクションで描くとは恐れ多いという意識があったのだろう。渥美清演じる純朴な兵士“山正”こと山田正助を通して戦争に翻弄された人たちを描いた野村芳太郎監督の戦争喜劇『拝啓天皇陛下様』(1963)に、当時の天皇の存在の大きさを示す興味深いシーンがある。秋季大演習に天皇陛下が観戦に見えるのだが、「当時天皇陛下を実際に見たものはなく、山正に至っては写真ですら見たことがなかった」というナレーションが入る。山正らは、盗み見るように天皇陛下の顔を初めて拝むのだが、劇中ではその姿は映しても顔は見せない。

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 当時も今も「描いてはいけない」というお達しはないはずだが、神と信奉する人たちの批判を恐れての自主規制が働くのか。実際、今上天皇が皇太子時代に、同級生らが東宮侍従らをだまして銀座に連れ出した“銀ブラ事件”を中心に日常を描いた西河克己監督『孤獨の人』(1957)では、製作の日活に脅迫の手紙が届いたり、学習院大学在学中にご学友役で出演した三谷礼二は出演を理由に退学処分を受け、その後、日活に入社し、秋津礼二の芸名で俳優、そしてオペラ演出家になっている。

 もう一つ、いまだ論争のある昭和天皇の戦争責任についての問題が、触れにくくさせてしまっている点も否めないだろう。しかし毅然(きぜん)と責任追及を突きつけた映画がある。結城昌治の直木賞受賞小説を映画化した深作欣二監督『軍旗はためく下に』(1972)だ。「わが国の軍隊は世々 天皇の統率し給う所にぞある」という軍人勅諭から始まる本作で暴かれるのは、南方戦線での陸軍の実態。餓死した日本兵の無数の遺体が写った記録写真も挿入されれば、飢えをしのぐために人肉に手を出したことや上官殺害のエピソードも盛り込まれている。

 そして最後、主人公の冨樫軍曹は「天皇陛下!」と叫んで戦地で処刑されるのだが、それに続く言葉は「万歳」ではなく「何か訴えるような、抗議するようなそんな叫び方だった」と同じ部隊にいた元兵士が回想する。今観ても十分刺激的な内容で、やはりどこかで自主規制が働いていたのか、本作は長らく上映される機会がなかった。戦後70年を迎えた2015年を機会に戦争映画特集に組まれたり、「東宝・新東宝戦争映画DVDコレクション」(ディアゴスティーニ・ジャパン)の1本としてようやく初DVD化されている。

映画『終戦のエンペラー』 - Lionsgate / Photofest / ゲッティ イメージズ

 日本の映画関係者が天皇を戦々恐々と扱っている中で、風穴を開けたのが、ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督『太陽』(2005)だ。太平洋戦争終戦直前の昭和天皇の苦悩を描いたもので、陛下の内面に迫った初めての作品と言われている。ただし日本人を刺激しないよう製作は慎重に行われ、昭和天皇をイッセー尾形が演じること以外は、他のキャストの情報は完成直前まで秘められた。日本の関係者に圧力が及ばないようにとするロシア側の配慮だったようだ。

 続いて、アメリカ側が昭和天皇をなぜ戦犯として裁かなかかったのか? その裏側を描いたアメリカ映画『終戦のエンペラー』(2012)で、歌舞伎俳優の片岡孝太郎が昭和天皇を演じた。当時の日本人が衝撃を受けたというダグラス・マッカーサー(トミー・リー・ジョーンズ)と昭和天皇の記念写真シーンも再現。また世界で初めて皇居内での撮影が許可されている。これは宮内庁側の商業映画とはいえ歴史を検証する意義と、一般に門戸を開こうとする意識の変化の表れでもあろう。

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 この海外の流れと、公開された時に日本でトラブルが起きなかったという安心感が後押ししたのか? 日本映画界でも、終戦直前に起こった陸軍将校たちによるクーデター“宮城事件”を描いた原田眞人監督『日本のいちばん長い日』(2015)で、本木雅弘が昭和天皇を演じて話題となった。1967年製作の岡本喜八版では役者名も明かさず、後ろ姿しか写していなかっただけに、時代の変化を大きく感じるシーンである。

 それでも未だ事象の中での天皇は登場しても、『太陽』のように人間性や存在意義に踏み込んだ作品は日本ではまだ誕生していない。しかし2014年には宮内庁から昭和天皇の活動記録をつづった「昭和天皇実録」が公表され私生活の一部がつまびらかとなり、漫画界では能條純一半藤一利原作による「昭和天皇物語」(小学館刊)がスタートした。映画界でタブーに斬り込むのは誰か? 意欲ある者の登場を期待せずにはいられない。

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