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ミニシアターの灯、消したくない…88歳の映画館主が訴える切なる思い

別府ブルーバード劇場の岡村照館長
別府ブルーバード劇場の岡村照館長

 政府の緊急事態宣言発令を受け、多くの映画館が休館を余儀なくされている。なかでも存続の危機に瀕しているのが、国内外の映画文化を伝えてきたミニシアター。現在、映画人たちの呼びかけで、複数の支援プロジェクトが発足している。大分県別府市にある「別府ブルーバード劇場」を切り盛りする、88歳の岡村照館長は、活動に賛同し、SNSを通して全国の窮状を訴える一方で、自身は支援金の分配を辞退した。そこには、39歳で夫を亡くしてから40年以上、女手一つで小さな映画館を守ってきたからこその特別な思いがあった。

 現在国内では、多くの映画人の呼びかけにより、賛同者の募集、政府への要望書提出、クラウドファンディングなどを活用した、ミニシアター存続のための具体的な施策を断続的に実施する「#SaveTheCinema『ミニシアターを救え!』プロジェクト」が発足し現在も多くの支援が寄せられている。映画監督の深田晃司濱口竜介が発起人となったクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」は、13日にスタートし、3日間で目標金額の1億円を突破した。人々のミニシアターへの関心の高さがうかがえる。

 別府ブルーバード劇場が位置する日本有数の温泉地である別府は、緊急事態宣言の対象地域ではないが、客足が遠のきホテルが休館するなど、街全体が新型コロナの影響を受けている。通常は賑やかな飲食店もテイクアウト中心に移行して、必死に生き残ろうとしている現在、収容人数80名の小劇場である別府ブルーバード劇場の現状はどうだろうか。

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 「保健所の方からアドバイスをいただき、空気の入れ替えやアルコールでの除菌などを徹底しながら営業を続けています。でも、監督さんや俳優さんたちが来てくれるイベント以外で、お客さんが10名を超えることは普段からあんまりないのでね。もちろん客足は衰えています。でも今日は1日で3人お客さんが来てくれた。映画館を広々と独り占めして、ニコニコしながら帰ってくれています。私はそれで大丈夫」と岡村館長は話す。

 今、岡村館長が心配しているのは、全国のミニシアターだ。「うちは先代館長の父・中村弁助が残した映画館だし、(営業に携わるのは)私と家族とボランティアさん。従業員の生活を背負った上に、家賃や、光熱費を支払わなければいけない劇場さんのご苦労は、本当に大変なものだと思う」。大分県内にも「シネマ5」「日田リベルテ」というミニシアターがあり、どこも状況は切迫しており、岡村さんも「どちらの支配人も知っているけれど、映画が大好きな映画少年やけん。絶対に閉館にしたらいけん」と心配は尽きない。

 岡村館長が思い出すのは、県内に大きなシネコンができたときのことだ。「あのとき、初めて劇場を閉めようと思った。お客さんはぐんと減ったし、当時は大手の映画会社と契約していたから映画料も高くてね。借金して。もう諦めようかと思った」。そんな岡村館長を救ったのは、観客や映画人の声、そして、同じ劇場主たちの励ましだった。「シネマ5の田井支配人も、こんな映画をかけたらどうかとか、助言をくれた」という岡村館長。ミニシアターを支えるのは、支配人の映画への深い愛情と、映画の灯を消さないという強い思いだ。

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 かつては別府も、数多くの映画館が軒を連ね、連日行列ができるほどの賑わいを見せていたという。だが、時代の流れと共に閉館していき、現在は別府ブルーバード劇場が、唯一の映画館。「どの劇場さんも無くなっていくのはやっぱり寂しい。私は、ある監督さんから言われた、“映画館は映画のゆりかご”って言葉を大切にしている。だからこそ、これ以上映画館をなくすことは辛い」と岡村館長は訴える。これまで多くのミニシアターが、「映画のゆりかご」として、若い才能たちの作品を上映してきた。それは、支配人たちの情熱があってこそ実現したことだ。しかし、家賃や人件費などの支出を、映画の上映のみで支えるミニシアターは、たった1か月の休館が命とりになりかねない。「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」は、そんな劇場を救う、映画ファンによる緊急支援策といえる。

 岡村館長は先日、SNSを通して「(前略)私は戦中派! 39歳で夫を亡くして以来、昭和一桁代の女館長として長年努めてまいりましたので苦難には慣れっこでございます。関東圏、関西圏を始め、全国には素晴らしいミニシアター様が多くございます。(中略)金銭的な支援の申し出は大変ありがたいのですが、今この時点においては、前述の通り、経営が危ぶまれておられる他の劇場様を優先してご支援いただきますようお願い申し上げます」と力強いメッセージを送った。劇場の灯りが消える姿を見てきた彼女だからこその「映画館の灯を守りたい」という切なる願い。国民だけでなく、自粛を余儀なくされ、経済的に追い込まれている音楽、映画、演劇業界に、具体的な救済策も打ち出していない政府、そして文化庁にもまた、この想いが届くことを願う。(森田真帆)

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