ADVERTISEMENT

角川春樹監督、人情モノに目覚めた理由

角川春樹監督
角川春樹監督

 数々の大ヒット作品を世に送り出してきた映画監督・プロデューサーの角川春樹(78)が、生涯最後の“監督作”としてメガホンを執った映画『みをつくし料理帖』がいよいよ16日より公開となる。くしくも角川映画の第一回作品『犬神家の一族』(1976)と同じ公開日となった本作は、角川がその才能を見出した作家・高田郁の同名時代小説を映画化した人情劇。これまで娯楽大作で勝負してきた角川が、なぜ、最後の監督作に人情劇を選んだのか。意外にもその理由は、東日本大震災をきっかけに結婚を決意した40歳年下の妻(歌手のASUKA)と、7歳になる息子の存在だった。

【動画】角川春樹、生涯最後の“監督作”を語る!

きっかけは震災で気付いた家族の大切さ

 角川映画は、今日までに73作品が製作(うち監督作は8作品)されているが、人情劇と明確に言える作品は『蒲田行進曲』(1982)のみ。つねにエッジの効いた挑戦的な作品で映画界を突っ走ってきたが、最も縁遠かったその“人情劇”で監督人生に幕を下ろそうとしている。泣く子も黙る熱血漢が、なぜこんなにも心変わりしたのだろうか。その理由は、2011年までさかのぼる。「いま、40歳離れた妻と、7歳になる息子がいるんですが、そもそも70歳(当時)手前で結婚を決意したのは、東日本大震災で、改めて“家族の絆”の大切さを思い知ったからなんです。そういう気持ちの変化が根底にあったので、人情味あふれる物語に自然と惹かれていったような気がします」

ADVERTISEMENT

 そんな時に目を引いたのが、高田郁の時代小説「みをつくし料理帖」シリーズ(ハルキ文庫)だった。「刊行当時、高田郁をハルキ文庫のメイン作家として売り出そうと積極的にセールス展開したんですが、山本周五郎さんの『さぶ』以来の感動作で、いつか映像化したいと思っていたんです。その思いが結婚を機にさらに強くなり、映画の制作会社に話を持ちかけたんですが、チャンバラではなく料理が軸の物語であること、何千万部も売れるコミック全盛の時代に小説のベストセラーなど飛び抜けた数字ではないことなど、いろんな要因が重なって、ことごとく企画が潰れたんです」と悔しさをにじませる。

 一方、テレビの方は、映画とは逆に企画が前向きに進み、2012年と2014年に北川景子主演(テレビ朝日系)で、2017年と2019年には黒木華主演(NHK)でドラマ化され、いずれも好評を博している。「このドラマの成功も映画化できない大きな要因でしたね。テレビでやったことをいまさらお金を取って観せる必要はないという理由から、配給会社がなかなか乗らなかった。でも、どうしても大スクリーンでこの小説の世界観を描いてみたい、という思いが治まらない。だったら、もう自分がメガホンを執って映画化するしかないなと。家族の後押しもあったのですが、何より自分自身が酸いも甘いも経験し、人生の機微に触れる映画を撮れる年齢になっていたので、これが最後という条件で決断することにしたんです」

ADVERTISEMENT

監督としての代表作ができた

松本穂香と石坂浩二 - (C) 2020 映画「みをつくし料理帖」製作委員会

 念願かなって、原作シリーズの第3巻までの物語をメインに脚本を練り上げた角川は、美味しい料理に彩られた人情劇を見事に描き上げる。だが、有能な実業家であり、プロデューサーでもある角川は、ただ闇雲に映画は作らない。そこには生来の勝負師としての顔が見え隠れする。「ある程度、観客層を決めないとブレてしまうので、まずターゲットを30~40歳代の女性に絞りました。さらに、観客の気持ちになって、『感涙ポイント』を3つ作ったんです。ぜひご覧になって確かめて欲しいんですが、観客のみなさんがもしそこで泣かなかったら僕の負けということですね」

 ところが、試写での反応をチェックしてみると、「女性だけでなく、男性陣も泣いていて驚いた」と目を丸くする角川。「しかも意外だったのは、予想以上にみなさん、高い評価をくださったこと。音楽を担当したユーミン(松任谷由実)なんかは『集大成ですね』と言ってくれたけれど、まるで他人の作品みたいで少々困惑しているんです。ただ今回は、スタッフ、キャスト全員が自分の力以上のものを発揮して、この映画を豊かなものにしてくれたことだけは間違いない。おかげさまで僕の代表作ができましたよ」。なにより角川の晴れやかな笑顔が「いい作品ができた」という手応えの証し。あとは映画の公開を待つだけだ。

ADVERTISEMENT

 本作は、シリーズ累計400万部を突破した高田郁のベストセラー時代小説を初映画化した人情ドラマ。幼いころに両親を亡くした主人公・澪(松本穂香)が、さまざまな苦難を乗り越えながら女料理人として成長していく姿を描く。澪と離ればなれになってしまった幼なじみ・野江を奈緒が演じるほか、窪塚洋介小関裕太藤井隆の初参加組に加え、薬師丸ひろ子浅野温子若村麻由美石坂浩二中村獅童反町隆史野村宏伸榎木孝明鹿賀丈史渡辺典子ら角川映画ゆかりの俳優が勢揃いする。(高田郁の「高」は「はしごだか」が正式表記)(取材・文:坂田正樹)

映画『みをつくし料理帖』10月16日より全国公開

角川春樹監督、最後の作品は悔いのないようにしたい 映画『みをつくし料理帖』インタビュー » 動画の詳細
  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

おすすめ映画

ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT