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長谷川博己、大河主演から次回作までの時間 つらい思い出と向き合う主人公にシンクロ

長谷川博己
長谷川博己 - 写真:上野裕二

 2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」で約1年半にわたって、主人公・明智光秀をまっとうした俳優の長谷川博己。そこから約1年4か月ぶりの主演作が、映画『はい、泳げません』(6月10日公開)だ。本作で長谷川は水恐怖症ながら、泳ぐことを決心する大学教授を演じているが、出演に至るまでには、さまざまな思いがあったという。

長谷川博己インタビュー撮りおろし<10点>

大河以来の主演作、決め手は?

写真:上野裕二

 2005年に発売された高橋秀実(高は、はしごだかが正式表記)の同名エッセーを大胆にアレンジして映画化した本作。長谷川が孫家邦プロデューサーを介して最初に脚本を読んだのは、今から2、3年前。それ以前に原作を読んで「面白い」と思っていた長谷川は、この話に不思議な縁を感じたという。しかし、そのときは大河ドラマ撮影のさなかとあって「ちょうど大河ドラマをやっていたので、僕のモードが戦国時代だったんです」と笑うと「正直脚本を読んでもなかなかすんなりと頭に入ってこなかったので、ひと段落ついてから改めて考えよう」と返事を保留したことを打ち明ける。

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 そうして大河ドラマの撮影が終わったとき、長谷川にはある思いがあった。「『麒麟がくる』の撮影が、思い切りコロナ禍の影響を受けてしまっていたんですよね。本当に続けられるのかわからない手探り状態での撮影でした。いつ止まるかもしれないと思いながらの現場は、心に大きな負荷がかかっていました。だからこそ大河の撮影の後は、これからどうしていきたいか、一度自分を見つめ直す時間にしてもいいかな……という思いが強かったんです。『これをやろう!』と思って始めたものの、延期や中止になったらすごく落ち込んでしまうじゃないですか。それが嫌だったんです」

 大河ドラマの主演という大役を担った次の一手。そういった意味でも注目が集まるが、長谷川自身は「特にそういう仰々しい感じでは考えていなかった」とのこと。良い意味で意気込むこともなく、とにかく自然にフラットに。ゆっくりと余裕を持って「本当に何がやりたいのか」を考えた。

 そんなとき、ふと孫プロデューサーから預かっていた脚本を読み返したという長谷川。「何より面白いなと感じたのが、主人公が水の中に入って自分の記憶をたどるという行動。そこでこれまでのつらい思い出と向き合う姿が、どこかいまの自分の感覚に似ているなと思ったんです」

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 そして“いま”自分にとって、やるべき作品なのではないか……と心が動き、「俳優という仕事は、自分の感情の奥深くにあるものを、いろいろな過去の出来事に照らし合わせて掘り起こしていく作業だと思うのですが、その点でも、いまの僕がこの主人公を演じることはいいんじゃないかなと思ったんです」とオファーを受けるに至った。

本当は泳げるのに泳げない演技、どう挑む?

『はい、泳げません』より水泳コーチ・薄原(綾瀬はるか)と、カナヅチの大学教授・小鳥遊(長谷川博己)(C) 2022「はい、泳げません」製作委員会

 長谷川演じる小鳥遊雄司(たかなし・ゆうじ)は、過去のトラウマから水恐怖症に陥ってしまった男。劇中では、そんな男が水と格闘するシーンが多々登場する。「脚本を読んだとき、なかなかお目にかかれないような、幻想的でキレイな画になるのかなと思ったし、一風変わったユニークな作品になるのかなと」と期待に胸を膨らませての撮影だったというが、実際は想像を上回る苦労が。「とにかく大変でした。こんなにも大変だと思わなかった。一度でも水中での撮影を経験していたら『ごめんなさい』と断っていたかも」と笑う。

 実際、長谷川自身は普通に泳ぐことができるという。そんな彼がまったく泳げない演技をするというのは、難解なことなのでは……と感じるが「できるものをできないように見せること自体は、そこまで難しくなかったです。むしろ、本当にできないことであれば、できるようになってから、できない芝居をしなければいけない気がします」と持論を述べる。

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 泳げない演技よりも「水が怖い」という芝居をいかにリアルに見せるかの方が難しかったとも。「水恐怖症の方たちをリサーチしていくなかで、自分にもある恐怖の感情にリンクさせていくことはできるのですが、徐々に克服していく姿をしっかりと見せていくのはすごく難しかったです」

8年ぶりの綾瀬はるかとの共演

『はい、泳げません』より。綾瀬はるかとの共演は大河ドラマ「八重の桜」以来 (C) 2022「はい、泳げません」製作委員会

 そんな小鳥遊に泳ぎの魅力を伝えるのが、スイミングスクールのコーチ・薄原静香(うすはら・しずか)だ。演じるのは、2013年の大河ドラマ「八重の桜」以来、8年ぶりの共演となる綾瀬はるか。大河では夫婦役だったが、今回は水恐怖症の小鳥遊を叱咤激励する役回りだ。久々の共演も「現場での居方もそうですが、役の説得力もすごかったです。以前にも増して素敵な女優さんになられたと思いました」と絶賛。「彼女が持つ雰囲気は、現場がピリッとした時でも、その空気を一気に柔らかくしてくれました」と笑っていた。

写真:上野裕二

 物語は、長谷川と綾瀬の軽快なやり取りなどコミカルな部分がありつつ、後半は徐々にトーンが変わっていく。特に長谷川演じる小鳥遊は、前にも進めず、後ろを振り返ることもできず、がんじがらめになってしまう。長谷川自身も「僕も俳優を始めたころは、演じることに対して悩みが消えないと感じたことはたくさんありました」といい、「でもだからといって、それを無理に克服しようとはしなかった。そういう時期なんだと考えていたら、時間が解決してくれた気がします」と振り返る。

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 とは言え、大河主演を経た現在も悩むことはあるという。「特にいまはニュースを見ていても、がっくりするようなことが多いですよね。役者は時代の鏡というか、世の中のことを自分と結びつけて、受け入れてしまうことがあります」と率直な胸の内を明かしながら、「でもそういった負のことも全部吸収して表現として吐き出すというのも、役者の仕事というか職業病みたいなもので。そう考えると面白い仕事だなと思うこともあります」と語っていた。(取材・文:磯部正和)

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