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仲野太賀が思う「役者」という生き方の醍醐味

仲野太賀
仲野太賀

 俳優・松尾諭の半自伝的エッセイをドラマ化した「拾われた男」で、強運と縁に恵まれ、他人に“拾われ”続けて人生を切り開く俳優志望の主人公を演じている仲野太賀。一人の俳優の半生を演じるということもあり、共感することも数多くあったという仲野が改めて感じた“役者”という仕事の醍醐味とは?

 現在、配信サービスDisney+(ディズニープラス)「スター」にて配信されている「拾われた男」は、松尾の実話に基づいたヒューマンドラマ。ウォルト・ディズニー・ジャパンとNHKエンタープライズが共同制作し、ディズニープラス向けのコンテンツとして日本国内の制作会社との初の共同制作作品となる。

「役者同士が呼応しあっている」

 物語は、とあるきっかけで役者を目指すことになった松戸諭(仲野)が、上京した先で自販機の下に落ちていた1枚の航空券を拾うところから始まる。さまざまな偶然や強運が諭の味方をして、人生を切り開いていくことになる奇想天外なストーリーだが、実話がもとになっているというから驚きだ。

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 「一人の俳優が運と縁で引き寄せられいろいろな人と巡り合い、成長していく話で、半径の狭いストーリーではあるのですが、気がついたらとても壮大なドラマになっている。この飛躍がおもしろくて、この題材だったら普通のドラマでは撮れないだろうなと。松尾さんのことは俳優としてはもちろん知っていましたが、普段の様子はほとんど知らなくて、こんな思いでいたんだなという発見がたくさんありました。松尾さんのことをなんだか憎めない、とても愛おしいキャラクターだなと、演じていておもしろかったですね」

拾われた男

 名もなき男が役者として独り立ちするまでの流浪の日々。まるで朝ドラや大河ドラマを観ているような満足感があるが、それもそのはず、監督を担当したのは連続テレビ小説「あまちゃん」や大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」などの井上剛。「これまでも『あまちゃん』と『いだてん』でご一緒したことはあったのですが、ガッツリ組んだことはなかったので、オファーが来たことがうれしかったですね。完成した作品を見たら、グルーブ感があって、役者同士が呼応しあっているように見えて、登場人物全員が魅力的だなと思って、それにとても感動しました」

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「拾われて来た人生だなと思います」

 役者を演じるということで、共感することも数多くあったという。仲野といえば、今ではすっかり日本に欠かせない役者として認知されているが、そこに至る過程には「何者でもない」時間があった。

 「オーディションに落ち続ける日々や、手応えがあったのに落ちてしまう経験なんかは、たくさん身に覚えがあります。俳優ではあるけれど、お芝居していない時間のほうが長くて『俺って本当に俳優なのかな』と思ってしまう時間とか。若い頃は落ちて当たり前みたいなところもあるのですが、どこにも拠り所がない状態。松尾さんが舐めた辛酸も痛いほどわかる。たとえ小さな役であってもオーディションで受かったり、オファーをもらえたりしたとき、誰かに必要とされて『あなたはここにいてもいいんだよ』と言ってもらえるような、存在を証明してもらえたように感じるんです」

拾われた男

 そんな仲野も「拾われた男」の一人だという自覚もある。「事務所に入れてもらったこともそうですし、いろいろなオーディションで拾ってもらったり、あるいは飲み屋で出会って『お前、おもしろいな』と飲みに連れて言ってもらったりとか(笑)。そういう些細なことも全部が繋がっている気がするな、と。僕の場合は大きなきっかけというよりも、一つ一つの小さな縁の繋がりが今に至っているという実感があって、どこから感謝すればいいかわからないくらい。拾われてきた人生だなと僕自身も思いますね」

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 そのなかでも大きな変化といえるのは、岩松了が手掛ける舞台に出演したこと。「17歳くらいのときに、劇場でワークショップオーディションの告知を見て、事務所の人に受けたいと言ったのを覚えています。それに受かって岩松さんの作品(「国民傘~避けえぬ戦争をめぐる3つの物語~」)に出演させてもらい、そのときに『拾われたな』と思いました。そこで手を差し伸べてもらったことで、初めて自分が仕事をしてみたいなと思った人と、実際に仕事ができた経験で、自分のなかで一気に役者として展開していった気がしました」

役者とは「リレーのアンカー」

 オーディションで役を得た2007年の映画『バッテリー』で共演した林遣都と再び共演するドラマ「初恋の悪魔」も始まり、平野啓一郎の長編小説をもとにした映画『ある男』(2022年秋公開)が控える仲野。まもなく30歳を迎えようとしている今も充実ぶりを見せている。20代を振り返り、今後の生き方が重要なのだという。

拾われた男

 「やり残したことを言えばキリがないですが、やれる限りのことはやっている気がします。今はそれを肯定したいという気持ちがあって、そのためには、この先を頑張っていかなくてはいけない。やってきたことが間違ってなかったと思えるように、頑張り続ける。もちろん『ああしとけばよかったな』ということはあるけど、何も間違ってないと言い聞かせてます(笑)。考えるだけで苛まれそうですけど、あのときの人生を間違っていなかったとするのは、今後の人生次第だと思うので、振り返ったときにいい人生だったらいいな、限界を決めずに前進あるのみですね」

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 その一方で、若い頃の自分には物申すこともあるとか。「今の自分に技術的な武器がないので、習得できるものを習得しとけよ、と思います。『なんもねえぞ、今!』みたいな(笑)。英語を喋れるようになりたい、身体をもっと動かせるようになりたい、というのはあって、今はまだできていないですけど、やるぞという気持ちはある。ただ、進まない(笑)。なんとか40代までには」と冗談めかして語る。

 役者として生きてきた仲野太賀。改めて、その仕事の魅力とはどこにあるのか。「画面に映っていたり、舞台上にいる人間というのは役者だけ。でも、そこに至る背景にはいろいろなことがあるわけです。大勢のスタッフや関係者がいて、たくさんの打ち合わせが重ねられている。もちろん、そこには血と汗と涙があり(笑)。そうして、すべてのバトンを最終的に渡されるのが、僕ら役者の仕事かなと思うんです」

拾われた男

 「芝居をする」という重要な役割を仲野は「リレーのアンカー」と表現する。「託されることの重みや責任を感じながらやれるというのが、役者としての醍醐味かなと。それはスリリングでもあって、ほかの仕事ではなかなか味わえないことだと思います。(THE MATCH 2022の)那須川天心と武尊の試合を見て、なおさらそう思って(笑)。関わったすべての人が一喜一憂する。表に立つということはそういうこと。最後のバトンを渡される人なんだなと思うと震えます」。切々と思いを明かす仲野の今後に期待しかない。(編集部・大内啓輔)

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