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多様な作品が観られるために、今求められるミニシアター支援とは?

シンポジウム“「上映活動支援」制度を実現するために”の様子
シンポジウム“「上映活動支援」制度を実現するために”の様子 - (撮影:中山治美)

 各地の映画館や映画祭、自主上映団体などが集う全国コミュニティシネマ会議2022が11月18日、19日に岩手・盛岡の岩手県公会堂で開催された。ミニシアターを筆頭に、長期に及ぶコロナ禍で苦境を強いられる中、文化庁がコロナ禍からの文化芸術活動の復興支援事業として令和2年度(2020)補正予算事業「ARTS for the future!」(以下、AFF)と令和3年(2021)のAFF2の報告も行われ、日本映画の振興のためのディスカッションが繰り広げられた。

 2021年の映画公開本数は959本で、1,000本を下回るのは9年ぶり(日本映画製作者連盟調べ)。司会でフィルム・アーキビストのとちぎあきら氏によると、うち72%がミニシアターで上映されたことを踏まえ、「ミニシアターが日本における映画文化、芸術文化の多様性を保証する拠点になっているのは数字上明らか」と説明する。

 にもかかわらずミニシアターに対する支援は手薄で、コロナ禍の緊急事態においては、深田晃司監督や濱口竜介監督らが発起人となったミニシアター・エイド基金が一時的な救済となったことは周知の通り。基本的には2003年の文化庁長官が実施した「映画振興に関する懇談会」の提言で、非映画館も活用した上映機会の拡大の重要性を述べつつも、「国の製作支援策,上映支援策は,事業者の自助努力を前提としたものとすべきである」との指針がいまだ根底にある現状を指摘した。

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渡辺祐一
「現代アートハウス入門」を企画した映画配給会社「東風」の渡辺祐一氏(撮影:中山治美)

 その中で実施されたAFFは「映画館として、主体的に特色ある映画作品群を積極的に選定し、広報・上映公開する活動」が対象となり、補助対象の経費には人件費や劇場の賃借料も対象となる画期的なもの。とちぎ氏によると、AFFの映画事業に関しては511件が採択され、総額約7億8,000万円。AFF全体の予算約500億円の中での割合は小さいが、この助成を活用して多様な企画が生まれた。

 その代表が、2021年12月11日~17日に東京・ユーロスペースなどで行われた連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜 Vol.2」。アートハウスの歴史を飾ったロベルト・ロッセリーニ監督『イタリア旅行』(1953)、アッバス・キアロスタミ監督『クローズ・アップ』(1990)などを深田晃司監督ら2000年以降にデビューした気鋭映画監督の講師付きで上映するもの。全国24館のミニシアターで同時開催した。

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 企画・運営した映画配給会社東風の渡辺祐一氏は「一見するとイベントのように見えるが、日本のミニシアターが日々果たしている機能や役割を濃縮してわかりやすく提示できた」と語る一方で、「ユーロスペースでは観客の37%が30代以下で希望を感じたが、動員数が少なく年齢層の高い劇場もあった。このような企画はAFFのような公的助成があって成り立つが、(今後は)どのような社会的同意や仕組みが必要なのか」と課題を述べた。

岨手由貴子
コミュニティシネマ会議に登壇した『あの子は貴族』の岨手由貴子監督(撮影:中山治美)

 また大分・シネマ5の田井肇代表は「苦しんでいるのは配給会社も同じ」と「アジア ドキュメンタリー傑作選」を企画し、あえてさまざまな会社の作品をピックアップ。東日本大震災以降、被災地での巡回上映活動を延べ1,000回以上行ってきたみやこ映画生活協同組合や鹿児島・ガーデンズシネマのような地方では、予算上実現が難しかったゲスト付きの上映を実現し、新たな観客層を動員できたという。

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 ただし今回の助成は補正予算事業として一時的に実施されたもの。映画館経営という通常業務を行いながらの複雑な申請手続きを行うのは時間も労力も必要となるが、ガーデンズシネマの黒岩美智子代表は「(ゲスト付きの特集は)お金がかかるので赤字覚悟で行っており、こうした支援がないと厳しい。今後も続けていただけるとありがたい」と引き続きの支援を訴えた。

 この日は特別登壇者としてフランス大使館オーディオビジュアル担当官のギョーム・ゴベール氏も参加し、フランスの事例も紹介された。フランスでは2021年時点で2,028の映画館があり、うち日本のミニシアターにあたるアートハウスは1,305館。人口が1万人に満たない地域の28%、同1万人~2万人の地域の73%には映画館があるという。

 フランスは映画共助システム・フランス国立映画映像センター(以下、CNC)があり、映画館の少ない地域に対して新設・改修費用の助成や、競走市場において苦戦が強いられる上映プログラムに対する支援を行っていることが大きいだろう。また公教育に映画鑑賞を取り入れていることから、ゴベール氏によると映画館の年間入場者数の16%が3歳~14歳の若年層で、年間100万人の子供たちが映画館に足を運んでいるという。

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 他にも、映画館を文化施設と捉えていることから、映画館の家賃は一般商店より低額に抑えられていること。また市場の均衡法に則って、アートハウスが長年育ててきた監督が大作映画を撮ったとき、シネコンだけではなく、その小さな映画館でも上映出来るよう法的に助言するシステムもあるという。

 その手厚い助成システムはコロナ禍でも発揮された。それは国内だけでなく海外にも及び、CNCによって管理されフランス映画を国際的に宣伝・支援する組織ユニフランスは、フランス映画を2本以上上映する日本の映画館に対して、1館につき50万円の支援を行っている。

 登壇者の一人で、「日本版CNC設立を求める会」(通称:action4cinema)の岨手由貴子監督は「上映支援制度は映画館だけの問題ではなく未来の観客も含めて、多くの人に関わる問題なのだと実感した。フランスや韓国は、業界が危機にさらされたときにCNCや映画振興委員会(KOFIC)ができたと聞いている。今の日本はそういう危機にあると思っており、作り手も観客も巻き込んで、議論すべきテーマだと改めて思いました」と力強く語った。(取材・文:中山治美)

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