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“木村信長”のキーワードは「倍倍」 大友啓史監督、偉人描くポリシー明かす

映画『レジェンド&バタフライ』より織田信長(木村拓哉)と濃姫(綾瀬はるか)
映画『レジェンド&バタフライ』より織田信長(木村拓哉)と濃姫(綾瀬はるか) - (C) 2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

 これまで数々のヒット作を世に送り出してきた大友啓史監督の新作は、歴史上最も有名な戦国武将と言っても過言ではない織田信長と、その妻・濃姫(帰蝶)の軌跡を描く『レジェンド&バタフライ』(1月27日公開)。大友監督と言えば、大河ドラマ「龍馬伝」や映画『るろうに剣心』シリーズなど、時代劇を独特の表現方法で描いてきたことで知られる。本作の舞台は戦国時代。しかも織田信長というある種、多くの人が共通認識を持つキャラクターにどのように臨んだのか。

【画像8点】木村拓哉の信長ビジュアルまとめ

偉人を偶像化したくない

 尾張の織田信長と、美濃・斎藤道三の娘・濃姫(帰蝶)の政略結婚から始まり、30年にもわたる壮絶な2人の生きざまを描いた本作。信長を演じるのは木村拓哉、濃姫(帰蝶)役は綾瀬はるか、脚本を『コンフィデンスマンJP』シリーズなどを手掛けた古沢良太という豪華布陣で描く。

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 大河ドラマ「龍馬伝」(2010)、『るろうに剣心』シリーズ(2012~2021)と、これまで幕末をテーマにした大作を手掛けてきた大友監督が、本作で戦国の世を描く。「戦国時代は『秀吉』(1996年大河ドラマ)で一度触れているんですよね。あのとき信長は渡哲也さんが演じていたのですが、その迫力とカリスマ性が印象に残っていて。そのときの手触りというのが、今の木村さんに共通しているなと直感的に思っていたんです」と信長のキャスティングに触れる。

 織田信長と言えば、これまで数々の映画やドラマの題材として取り上げられてきており、確固たるイメージを持つ人は多いだろう。大友監督も「我々の世代にとっては革命家でありながら、一方でまるで独裁者のような残虐非道な立ち振る舞いも伝わっているように、 “こういう人物だ”という固定概念の強いキャラクターですよね」と前置きすると、「僕は『ハゲタカ』(2009)のような経済や経営を巡る作品にも携わってきたので、シンプルに理解できることもたくさんあります。基本的には、尾張の田舎大名でうつけ者と呼ばれていた青年信長が、成長して天下布武を目指していくという物語ですから、企業のサクセスストーリーと考えればわかりやすいですよね」と自分なりのイメージを語る。

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 そして「『龍馬伝』でもそうでしたが、自分のスタンスとして、歴史上の偉人とか有名人であればあるほど、いわゆる“キャラ化”や偶像化はしたくない。坂本龍馬にしろ、織田信長にしろ、神棚に手を合わせてありがたがる存在ではなく、すぐ隣にいる“自分と同じ人間だよね”という感覚を多くの人と共有したいんですよね」とこれまで貫いてきたポリシーを述べる。

いまの価値観は必要ない

 偉人を偶像化したくないという大友監督が、もう一つ心掛けたのが「信長を令和の時代にリブートする」という意識。語り尽くされたキャラクターであるがゆえに「これまでの価値観にとらわれない」という意識が強かった。その一方で、映画の中で描かれる価値観については、できる限り戦国に則ることが重要だと大友監督。「信長が比叡山でどんなことをしたのかなど、歴史上はいろいろ言われていますが、この作品ではそれを道徳的に善か悪なのか……みたいなことは必要ないと考えました。当時のどんな事情に基づき、どのような価値判断で信長がその決断に至ったのか。その経緯を描くことが重要だと思ったんですね」

 戦国の時代に生きた信長や濃姫(帰蝶)の感覚を現場で捉えていく。フレームの外にいる人間が「これはいいこと、これはいけないこと」という判断をしない。具体例として大友監督は、織田家の菩提寺である岐阜県の崇福寺の血で染まった床板を挙げる。「関ヶ原の戦いのとき織田秀信が岐阜城に立てこもって戦ったときに血で染まった床板が崇福寺の天井板に使われているんですよね。それを見たときの戦国時代の血の香りがするような部分と、一方で信長直筆の書『雪月花』で書かれた文字などを見て、映画のイメージが膨らんでいきました」

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木村拓哉のパフォーマンスは最高

 大友監督の中で膨らんでいった信長像。そこにぴったりと合致した木村。「木村さんの信長は最高でしたね。若いころからいろいろな経験を重ね、いま信長が亡くなったとされる歳と同じ49歳(※取材時)。数々のドラマやライブはもちろん、『SMAP×SMAP』みたいな密度の濃いものを毎週1回やり続けてきた体力や経験値、その蓄積って、表現者としてシンプルにすごいと思うんですね。酸いも甘いも噛み分けてというのかな。現場で醸し出す空気が、もはや凄味の領域に達していますから」

 さらに大友監督は11月6日に岐阜市で行われた「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」の熱狂を回顧。木村が本作の織田信長の扮装で登場し、1万5,000人の観客が詰めかけた。「ぎふ信長まつりが開催されたとき、若い人からおじいちゃんおばあちゃんまで、木村さんと目が合ったって大騒ぎしている様子を間近に観てきました。本当は目なんて合っていないかもしれないけれど、そう思わせてしまう厚みというか……。もしかしたら最後のスターと呼べるような存在かもしれない。そういう木村拓哉という人と信長がコラボしたときのパワーを、しっかりと受け止め、逃さず表現すること、小さくしてはいけない、とにかく倍倍にしていくんだというのが今回の演出の肝だった気がします」と木村のカリスマ性を強調する。

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京都撮影所とのコラボで生まれた“眼福”の映画

大友啓史監督

 こうしたスケール感の一翼を担ったのが、京都撮影所の歴史とそこに生きる人たちのプライドだ。2020年、大友監督の渾身作である『るろうに剣心』シリーズ最終章2部作はダイレクトにコロナ禍にぶつかり、公開延期を余儀なくされた苦い経験がある。

 「本当に悔しい思いがありました。コロナ禍によって、グッと配信に舵が切られた。そんな中で、僕は『みんなが配信に向かうから、僕は映画の原点、京都に向かいます』という思いを密かに抱いていた。映画本来の楽しみって何だろうということが、映画の発祥地である京都に行けば、少しはわかるのかなと思ったんです」

 熟練の職人たちのいる東映京都撮影所に大友組が乗り込んだ。歴史に裏打ちされた技術と、それを増幅する大友組スタッフの技量と熱量によって、妥協することなく美しい映画が出来上がった。大友監督は「眼福」というキーワードを挙げると、「しっかりと時間と必要なコストをかけて、東映さんと一緒にでき得る限りのステージを作ったつもりです。戦国ならではの豪華絢爛さはもちろん、そのときの立場や状況によって作られている城も違う。そこもすべてこだわったものが映像に反映している。まさに目を喜ばせるような映画が出来上がったと思います」と自信をみなぎらせる。

 劇場で観てこその映画を作る--ビッグプロジェクトで大友監督がこだわったことだ。「多くの仕掛けが掛け算となって、満足のいく仕上がりになった。これが今のお客さんにどういう風に受け止められるのか」。大友監督の大きな挑戦を大きなスクリーンでじっくりと堪能したい。(取材・文:磯部正和)

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