「べらぼう」横浜流星の凄さとは?チーフ演出・大原拓が前半戦を総括

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)の第16回が20日に放送され、終盤では主人公・蔦屋重三郎(横浜)の節目となる出来事が描かれた。チーフ演出を務めた大原拓は「第16回ぐらいまでが蔦屋重三郎にとって少年期・青年期」といい、5月4日放送の第17回からは「壮年期がスタートする」と位置づける。圧倒的なエネルギーをもって前半を駆け抜けてきた横浜だが、大原の目にはどう映っているのだろうか? 大原が前半戦を総括した。
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破顔する蔦重が最高!

横浜演じる蔦屋重三郎は、江戸時代中期、花街・吉原の貸本屋から身を興し、書籍の編集・出版などに取り組み、後に江戸のメディア王として時代の寵児になった人物。序盤の16回までは、何者でもなかった蔦重が、幼なじみの花魁・瀬川(小芝風花)や、才人・平賀源内(安田顕)らの叱咤激励を受けながら、自らの夢を見つけ、大きな一歩を踏み出すまでのいわば準備段階が丁寧に描かれた。
大原は、これまでの横浜の演技について「一番の魅力は笑顔。僕は彼の笑顔が好きなんです。横浜さんの笑顔を見ると、元気になるし、本当に素敵です」と語ると「撮影を重ねるたびに、どんどん横浜さんの笑顔に魅了されていくんです」と虜になっているという。
特に印象に残っているのが、第3回「千客万来『一目千本』」の時だという。この回で蔦重は、女郎たちを花に見立てた「一目千本」という本に着手する。大原は「本を作っているときに浮かべる蔦重の笑顔については、横浜さんとお話しました。笑顔にもいろいろな表情があるじゃないですか。例えばはにかむのか、にっこりなのか、破顔なのか。蔦重と言えば、やはり明るく破顔する姿がトレードマーク。何気ないときの笑顔も素敵なのですが、やっぱり破顔している横浜さんは最高でした」と振り返っていた。
横浜流星はいわば“白いキャンバス”
カラっとした明るい笑顔を見せる蔦重を好演している横浜。大原は「役への入り方はとても繊細であり大胆」と特徴を述べると「台本に書かれていない部分の時間の埋め方を、非常に丁寧に考えていただいています」と語る。
物語には時間経過がある。シーンとシーンの間には、脚本に書かれていない“とき”が流れている。横浜は台本にない空白の時間をどのように過ごしていたのかを想像し、しっかり役に投影しているというのだ。「常に蔦重だったらどういう考えを思い巡らせているのか、どのように行動していたのか。(脚本を担当した)森下佳子さんが書かれた脚本の余白を埋めて、より立体的な人物にしてくれるんです」
以前から役に向き合うストイックな姿勢が高く評価される横浜。大原も「役を生きるという言葉がありますが、そういうレベルではなく、本当に蔦重なんです。言い方を変えると、横浜流星を全く出さない。役者さんによっては、どうしても『この人のお芝居だよな』と感じることがあります。それが俳優さんとしての一つの個性にもなるので決して悪いことではないのですが、横浜流星という俳優は白いキャンバスなんです。相手をどんな色にも変えられるし、自分もどんな色にでもなれる。これは大きな魅力です」と語る。
驚かされた第10回の小芝風花とのシーン

さらに横浜は、蔦重の人生をリアルに生きるからこそ、自然と脚本や演出から離れることもあるという。大原は「例えば(第10回の)「『青楼美人』の見る夢は」で、蔦重が制作した『青楼美人合姿鏡』を瀬川に渡すシーンがあったと思いますが、セリフを外に向かって大声で言うんです。ディレクターのイメージでは、ちゃんと瀬川に向き合って渡すのかなと思うのですが、横浜さんの蔦重ではあのような表現になる。なるほど……と思いました」と横浜のアイデアに脱帽したと大原。
長丁場の大河ドラマの撮影。しかも主人公として現場に入ることは、並大抵の集中力では太刀打ちができない。しかし、横浜には常に気持ちや行動は変わらず安定感があるという。
「基本的に全部一生懸命。もちろん(渡辺謙演じる)田沼意次のように普段会わない人に会いに行くときなどは、多少の温度差はあると思いますが、吉原の耕書堂にいるときも、忘八と会うときも、至って平常心というか、表面的にはあまり変わっているようには見えません。とてもリラックスしているように感じますし、だからといって気が抜けているわけでもない。基本的に感情の波はあまりないように感じます」と横浜の撮影現場での表情について語る。
第17回「乱れ咲き往来の桜」より、蔦重の「壮年期」に向けて新章がスタートする。大原は「やっぱり蔦重の笑顔は見どころです」とあらためて強調すると「ここから蔦重は舞台を吉原から日本橋に場所を変えます。先日撮影をしたのですが、日本橋で初めてのお客さんを迎えるとき『いらっしゃいませ!』という蔦重の笑顔は、本当に素敵でした。とても良い笑顔が撮れたと思うので、ぜひ楽しみにしてください」と期待を煽っていた。(取材・文:磯部正和)