ADVERTISEMENT

奇跡のヒット『侍タイムスリッパー』ヒロイン・沙倉ゆうのと安田監督の20年 大ヒットのその先は?

20年来の仲となった『侍タイムスリッパー』安田淳一監督と女優の沙倉ゆうの
20年来の仲となった『侍タイムスリッパー』安田淳一監督と女優の沙倉ゆうの

 第48回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を獲得した『侍タイムスリッパー安田淳一監督の過去作『拳銃と目玉焼』(2014年)、『ごはん』(2017年)の配信が各種ストリーミングサービスではじまっている。この安田監督率いる未来映画社製作の3本の作品でヒロインを務めているのが、看板女優・沙倉ゆうのだ。8万円のカメラと平均3.5人のスタッフで作り上げたヒーロー映画『拳銃と目玉焼』では、喫茶店で働く幸薄なユキを、米農家と兼業する安田監督の思いが込められた映画『ごはん』では、亡き父のために米農家を継ぐことになった主人公・ヒカリを演じている。そして『侍タイムスリッパー』では、助監督・優子役を演じる一方で、撮影現場でも実際に助監督として奔走した。

【画像】『侍タイムスリッパー』キャストが名場面再現!

 そんな沙倉と、安田監督のインタビュー記事を敢行。安田監督とは家族ぐるみの付き合いで、ふたりの歴史は20年にもおよぶが、そんな気心知れたふたりならではのやり取りとともに、20年におよぶ軌跡を振り返った。(取材・文・写真:壬生智裕)

ADVERTISEMENT

奇跡のはじまり『拳銃と目玉焼』のヒロイン役

『侍タイムスリッパー』への道はここから始まった『拳銃と目玉焼』(C)未来映画社

ーー元々おふたりがはじめてお仕事をしたのが、イベント用のオープニングムービーでした。そこから20年という年月を経て、長い付き合いになりました。

沙倉ゆうの(以下、沙倉):ただ『拳銃と目玉焼』までは、3~4年くらい間が開いていたんです。それこそそのオープニングムービーも5分くらいだったんですけど、1年後くらいに37分くらいの短編にしたいということで追撮をすることになった。それからまた1年後くらいに、もうちょっと撮りたい、ということで呼ばれて、という感じでした。

安田淳一監督(以下、安田):ちゃっちゃと撮れよということですけどね。その短編『シークレット・プラン』も3年くらいかかりましたから。

ーーその時から、いつ完成するか分からないサグラダ・ファミリア状態が続いてたわけですね。

ADVERTISEMENT

沙倉:そうです(笑)。やはり気にはなっているけど、監督は普段、別のお仕事もあるので。手が空いた時に呼ばれて行く、という感じでしたね。

安田:やはり彼女は見た目も変わらないし、髪型もずっと一緒だから。それと関西なんで、割とスケジュールも押さえやすい。この日空いてます? と聞くとだいたい空いているから……って言ったらいつも怒られるけど(笑)。でも追撮にピッタリな女優なんですよ。

沙倉:ただ、そもそも『拳銃と目玉焼』には脚本がなかったんですよ(笑)。もともとは「Black indie!」というプロジェクトに合わせて作ることになった映画でした。プロジェクトでオーディションもやったんですけど、監督のイメージに合う人がいなくて。それで2~3年ぶりにわたしのところに連絡が来た。ただもともと監督の中でユキちゃんは大人のイメージで、主人公も30歳くらいの設定だったんですけど、それが小野さんに決まって。そうしたら逆にわたしみたいなタイプがいいんじゃないかということで決まりました。

ーー撮影現場の雰囲気はどんな感じだったんですか?

沙倉:とにかく脚本がないので。当日、現場に集まって。スタッフさんや助監督さんに「今日は何を撮るんですか?」って聞くところからはじまるんですけど、みんな「わかりません」って感じで。それでしばらくしたら、監督が寝ずに書いたその日撮るシーンをプリントして持ってくる、という日々でした。

ADVERTISEMENT

安田:そこから俳優はセリフを覚えるわけだけど、それを見ながらロケ場所や衣装などを決めたりして。だいたい僕が買いに行くことが多いんですが、簡単な衣装だったら、ゆうのちゃんに、自分で衣装を買いに行ってくださいとお願いすることもありました。

ーー本当に手作り感あふれる現場だったんですね。

安田:でもちゃんと皆さんにギャラはお支払いしてましたからね。今日の撮影は遅くなりそうだなと思ったら、晩ご飯に焼肉をごちそうしたりもしましたし。

沙倉:確かにそうなんですけど、実はわたしは焼肉の日は一回も行けてない(笑)。遅くまで撮影しているのはわたしなのに、焼肉に連れていってもらえるのは時間に余裕がある人たちばかり、だったんですから。

一作目は赤字…厳しい現実

2作目『ごはん』では主演を務める(C)未来映画社

ーーそうした苦労を重ねて完成した『拳銃と目玉焼』ですが、シネコンでも上映され、一部観客に熱狂的な支持を集めました。

沙倉:友達や知り合いから「面白かった」と言ってもらえるのは嬉しかったんですが、なかなか広がっていかないな、というもどかしさはありました。まずはじめにミニシアターから上映がはじまったんですけど、当時はわたしもSNSをほぼやってなくて。SNSで広がるということも少なかったので、本当に宣伝する方法がなかった。初日や2日目は知り合いや家族が来てくれて満席になっても、それ以降は本当に厳しかった。それこそ今となっては『侍タイムスリッパー』を応援してくださる方々が、『拳銃と目玉焼』も『ごはん』も楽しんでくださっているので良かったです。

ADVERTISEMENT

安田:ただその当時から応援してくださっている方も多くて、今はすごく喜んでくれているからね。当時はあれが精いっぱいだったんです。でも僕が目標としていたのは、シネコンで上映することだったので、それは達成できた。ただあれは500万円くらいの赤字でした。

沙倉:6都市くらいで1週間、夜の上映となると、なかなか行けないという人も多かった。

安田:もちろんミニシアターでは3週間くらいやったりもしましたけど、Twitter(現X)で反響が出ても、そこから観に行こうとなるにはやはり2週間は必要なんですよ。1週間という期間だと観に行こうと思っても、終わってしまっていますからね。

沙倉:観てもらえたら面白いと思うんですけどね。

安田:ただ万人にウケる内容ではないから。熱狂していたのも40代以上の男性でしたから。

ーー沙倉さん演じるヒロインは3本とも、主人公らから思いを寄せられますが、その後の展開が……というところに、安田監督のお好きな『男はつらいよ』イズムを感じたのですが。

沙倉:『ごはん』も台本がなかったので、ヒカリに彼氏がいるという設定で撮ってみたこともあったんです。『拳銃と目玉焼』の(主人公を演じた)小野さんが相手だと不倫ぽく見えてしまうということで、あかんなということになりました。その後(彼氏役)矢口くんでも撮影。それを(主人公にほのかな思いを寄せる)ゲンちゃんがうらやましそうに見ているというカットもあって。

ADVERTISEMENT

安田:あれはめちゃめちゃええ芝居だった(笑)。

カットされた『侍タイ』恋愛要素

『侍タイムスリッパー』からは恋愛要素がカットされていたという(C) 2024未来映画社

沙倉:ただあれはお米づくりの話なので、そういった恋愛要素はいらんのちゃうかということになって。最終的にカットされました。『侍タイムスリッパー』でも、もうちょっと好意があるように見えるというか、かわいい感じで(主人公に)あいさつするというところもあったんですけど、そこも全部カットされてなくなっています。

安田:それも言うほど優子ちゃんが好きになっているという描写にはなっていなかったんですけどね。ただそういったほんわかな恋愛要素が多過ぎるかなと思ったので、けっこうカットはしました。

ーー『拳銃と目玉焼』の回想シーンで登場する劇団の芝居のシーンも、ちゃんとしたホールを借りて撮影されていましたし、『ごはん』に4年かけたこともそう。『侍タイムスリッパー』でも自主映画では珍しい時代劇に挑戦するなど、予算がないからと言って妥協することなく、しっかりとこだわって撮影されている印象があります。

ADVERTISEMENT

安田:それは僕が自主映画をベンチマークにしていないということが大きいと思います。もともとシネコンでも上映できる商業映画を目指して、自主映画として取り組んでいるという感じなので。そこはこだわりたいと思いました。

沙倉ゆうの「これからも多くの方に楽しんでもらえる作品に携わっていきたい」

ーー『侍タイムスリッパー』が大ヒットを記録し、そして配信で『拳銃と目玉焼』『ごはん』が多くの方に広がるなど、沙倉さんへの注目が高まっていいます。改めて今後の目標を教えてください。

沙倉:第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で、監督や(山口)馬木也さんが賞を受賞されたんですけど(作品賞、主演男優賞、監督賞の3冠)、その時のコメントに「この功績を長く記録します」と書かれていて。それを読んだ時に「これからも多くの方に楽しんでもらえる作品に携わっていきたい」と思いました。それから配信がはじまった『ごはん』ですが、ちょうど今、お米不足になっています。日本人にとっての主食である米づくりをもう一度見つめ直す時期だと思うんです。この映画ではそうしたお米づくりを丁寧に描いていますし、それを通じて、家族、親子の絆も描かれています。普段、そうした大切なことって見過ごしがちだと思うんですが、これをきっかけに、そうした大切なものにも目を向けてほしいなと思っています。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT