『JUNK WORLD』堀貴秀監督、時間SFへの憧れ パズルのような『JUNK HEAD』前日譚「複雑だが何回も観たくなる」

不気味な地下世界での冒険を描いたSFストップモーション・アニメーション『JUNK HEAD』に続く、『JUNK』シリーズ第2弾『JUNK WORLD』。退廃的な世界観とアクの強いキャラクター、ブラックなユーモア、ダイナミックなアクションなど前作のテイストはそのままに、種を超えた友情などドラマチックなストーリーがプラスされている。同作を手がけた堀貴秀監督がインタビューに応じ、さらにパワーアップした本作の裏側を明かした。
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遥か昔ーー地下開発を進めた人類は、労働力として人工生命体マリガンを創造した。しかし、過酷な労働を強いられたマリガンは人類に宣戦を布告。激しい争いの末、人類は地上にとどまりマリガンが地下世界を支配することで停戦が実現した。それから280年、地下都市カープバールで謎のエネルギー波が発生。女性隊長トリスやマリガンの隊長ダンテ、ロボットのロビンなど人間とマリガン混成の調査部隊は、そこで謎のカルト集団や不気味なクリーチャーたちに遭遇する。
『JUNK HEAD』続編ではなく、前日譚になった理由

本作は『JUNK HEAD』の続編ではなく、1042年前の世界を舞台にした前日譚(プリクエル)という位置づけだ。この設定は前作の完成後に決めたという。「もともと『JUNK HEAD』の続きにするはずでしたが、完成後公開の目処が立たなかったんです。もしかしたら公開できないかも……と不安になって。そこでどちらが先に公開されてもいいように単体で成立する前日譚に変えました」と堀監督はふり返る。『JUNK HEAD』が公開されたのは、完成から4年後の2021年。『JUNK WORLD』の絵コンテがほぼ描き上がるタイミングで公開されることになったのだ。
人間とマリガンが手を組み邪悪なものと戦う本作には、過去と未来を行き来する時間SFの要素が加わった。「SF映画が大好きで、いつか自分で時間ものに挑戦をしたいと思ってました」という堀監督。時間を題材にしたお気に入りのSF映画をたずねると、『バタフライ・エフェクト』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『スパイダーマン:スパイダーバース』など新旧作品が並んだ。
本作は一幕から最終幕まで、4つに章分けした4幕構成になっている。前の章で起きた出来事の裏側を次の章で明かすなど、時系列も前後する凝った作りも特徴だ。「少し複雑な作りになっていて、1回観ただけでは繋がらない部分があるかもしれません。自分が目指したのは何回観ても楽しめる、何回も観たくなるような映画で、観るたびに新しい発見がある作品になったと思います」と堀監督。時系列を入れ替える構成は『パルプ・フィクション』や『カメラを止めるな!』の影響もあるという。ストレートなSFアクションだった前作に対し、パズルのような凝った作りも本作の見どころだ。
制作スタッフ増員でスピードアップ

丁寧なアニメーションでも評価された『JUNK HEAD』だが、着手から完成まで7年をかけ、長編コマ撮り映画としては異例の小規模体制で制作されたことはよく知られている。限られた時間と経験を補完するため、堀監督はキャラクターの演技を絵コンテ通りの画角で撮影し、その映像に合わせて人形を動かしていった。いわば立体版ロトスコープで、そのスタイルは本作でも踏襲されている。「基本的にすべてのカットを1秒24コマで撮影し、その映像どおりに人形を動かしていきました。元の動画を撮る時には、アングルやスピードなど納得するまで作り込んでいます。ただし激しいアクションなど、演技ができないところは経験で動かしました」。絵コンテは全カット手描きで描いた後、Storyboard Pro に送りVコンテ(簡易アニメーションのビデオコンテ)を作製する。「Vコンテを完璧に仕上げるまでが自分の役目だと思っています。あとはセンスの良いスタッフに分担していくスタイルですね」
日本語でのセリフが多い本作は、セリフとキャラクターの唇を合わせるリップシンクも行われた。「最初から日本語にするつもりだったので、演技する時にセリフをしゃべり、それに合わせて人形の口を動かしました」と堀監督。前作は謎の言語“ゴニョゴニョ”語が使われたためスタッフが声優も務めたが、セリフの多い本作でも声優を務めたのは堀監督らスタッフだった。「プロの声優さんを呼ぶ余裕がないので、ほぼ3人のスタッフでやってます。完全な素人ですが、声の出し方など工夫しながら収録し、音声ソフトで調整しました。前のゴニョゴニョ版(日本語字幕)が好評だったので、今回もそのバージョンを作りました。邦画でそんな字幕版を作るのは前代未聞だそうです(笑)」
前作に比べ作業量が増えたため、スタッフもわずかに増えた。「前作は1人で作りはじめ、途中から2人入ってくれてほぼその3人で制作しました。今回は6人ほどでスタートできたので、スピードアップしましたね。また、前作は人形など作り物は粘土をこねて作ってましたが、今回はパソコンでモデリングしたデータを3Dプリンターで出力したんです。同じ人形をいくつも出力できるので、2班体制で撮影しました」。コマ撮り以外にも3DCGを使用したほか、地下都市カープバールに出現する巨大モンスターにはロッドパペットも使われている。「今回初めて使ってみました。人形が大きいと骨格も大きくなってコマ撮りが難しくなるので、操演でやるしかないと準備しました」。どんな手法も積極的に取り入れる柔軟性が、最低限のスタッフによる作品づくりを可能にしているのだ。
監督ができる若い人材を育てていきたい

デザインやキャラクター、手作り感あふれる動きなどアニメーションの魅力あふれる本作だが、印象的だったのは実写映画を思わせる写実的な振り付け。堀監督は「JUNK」3部作を終えた後、実写映画を撮る準備も進めているという。「自分がコマ撮りをはじめた理由はアニメーションへのこだわりではなく、この物語を描く手法としてぴったりだからなんです。もともと実写映画を撮りたいという思いをもっていましたし、コマ撮りを経験した今は1秒で1秒の映像が撮れるのがどれだけ楽なことかと(笑)」という堀監督は、実写やコマ撮りなど、ストーリーに合わせたアイデアをいくつも温めているという。
『JUNK WORLD』が完成したいま、気になるのが続く完結編『JUNK END』だろう。『JUNK HEAD』の後日談で、パートンやニコ、地獄の3鬼神のほか、本作のトリスとダンテ、ロビンも登場する。現在はストーリーがほぼ固まった段階。「数年後の公開を目指していますので、楽しみにしていてください」
『JUNK END』にも、堀監督の制作会社やみけんのメンバーが続投予定だ。『JUNK HEAD』のために設立されたやみけんだが、堀監督は将来的にスタジオを広げていきたという。「自分ありきではなく、監督ができる若い人材を育てていきたいですね。いまは6人だけなので限界はありますが、まずは1、2年に1本は何かを作れるスタジオを目標にしています」と堀監督。将来的なユニバース化やスピンオフ製作の可能性を聞くと、「あり得ます」とのこと。「人間とマリガンの世界ができあがったので、やろうと思えばいくらでも作れます。もう少しスタッフが増えて体制的に余裕ができたら、地下世界の別の物語を作っていくかもしれません。“JUNK”という名前だけどアクション全振りにしたり、別の作品はホラー全振りだったりしても面白いですね」(取材・文:神武団四郎)
映画『JUNK WORLD』は6月13日(金)全国公開