吉沢亮、コメディーは「恥を捨てることが大事」

30代に突入し、ますます役者としての存在感を高めている吉沢亮。現在公開中の映画『国宝』では歌舞伎役者の壮絶な人生を体現し、7月4日より公開される『ババンババンバンバンパイア』では、450歳のバンパイア役としてコメディー力を炸裂させるなど、それぞれタイプの異なる映画で思い切り躍動。変幻自在な魅力を爆発させている。「面白い=カッコいい」と持論を述べる吉沢が、「積極的にやりたい」とコメディーに注ぐ特別な思い、幅広い作品へと挑みながら、よりシンプルに研ぎ澄まされていく役者業への情熱を明かした。
板垣李光人&眞栄田郷敦との再共演に感慨
本作は、月刊少年漫画雑誌「別冊少年チャンピオン」で連載中の奥嶋ひろまさによる同名漫画に基づくラブコメディー。吉沢演じるバンパイアの森蘭丸が、銭湯のひとり息子である立野李仁(板垣李光人)の「18歳童貞の血」を求めて奮闘する姿を描く。メガホンを取った浜崎慎治監督とは、2020年公開の映画『一度死んでみた』以来の再タッグとなる。
原作から抜け出してきたような、実写版の美しい森蘭丸がスクリーンに登場する。ビジュアルのこだわりについて、吉沢は「漫画原作の作品をやらせていただく上で毎回思うのは、髪型はとても重要だということ」だとコメント。「原作とまったく同じ髪型にすればいいというわけでもなくて、顔の形と髪型をマッチさせることも大切。僕はわりと丸顔なので、どうすれば原作の森蘭丸の雰囲気を保つことができるだろうか、この部分はもうちょっと長い方がいいのではないかなど、ヘアメイクさんたちと細かく調整しながら作っていきました。衣装では、マントの素材感や広がり具合などにもこだわっています」とあらゆる試行錯誤を重ねたという。
蘭丸が見守り続けるピュアボーイの李仁を演じるのは、板垣李光人。原作者の奥嶋は板垣をイメージしながら李仁を描いていたそうで、実写化に際して最高のキャスティングが叶った形だ。板垣とは、吉沢主演の大河ドラマ「青天を衝け」(2021)でも共演しており、「久々にご一緒させていただき、今回の現場では仲良くいろいろな話をさせてもらった」と撮影を懐かしんだ吉沢は、「個性的な登場人物がたくさんいる物語の中でも、李仁は一番難しい役だと思います。李仁くんの純粋さはあざとくやったら、見ている方が冷めてしまうかもしれない。あのピュアさをナチュラルに表現していたので、すごいなと思いました。本当にかわいらしくて、こちらも自然と愛することができました」と蘭丸が李仁に傾ける愛情も、板垣のキュートさが引き出してくれたと感謝しきり。
そして眞栄田郷敦が、蘭丸に恨みを抱く兄・森長可にふんした。映画『東京リベンジャーズ』シリーズ(2021・2023)では、総長マイキー(吉沢)&三ツ谷(眞栄田)という暴走族仲間として共演していたが、吉沢は「郷敦と初めて会ったのは『東京リベンジャーズ』の1作目で、そこから続編でもご一緒させていただきました。こんなことを言うと偉そうですが、どんどん彼のお芝居に対するモチベーションや現場での佇まいが進化しているのを肌で感じています。今回もワンシーン、ワンシーンに強いこだわりを込めていて、すごくカッコいい兄貴だなと思いました」と兄弟役としての共演に感慨深げ。「もちろんカッコいい役ですが、抜けている部分もあって。郷敦のコミカルな演技は、新鮮に映る方も多いんじゃないかと思います」と話すように、眞栄田の新境地も見逃せない。
“面白い”への憧れ「コメディーは積極的にやりたい」
「ズキュン!」と李仁への愛情がダダ漏れになる蘭丸の様子、勘違いを繰り返すカオスな展開など、観客の笑いを誘うシーンが満載。吉沢のコメディーセンスが炸裂している本作だが、吉沢は「蘭丸のバンパイアとしての姿と、人間臭さ。そのギャップが笑いになるといいなと思っていた」と吐露。「蘭丸は李仁くんのこととなると、“片想い女子”のようになる」と蘭丸の人間臭い一面について楽しそうに話す。
蘭丸の“片想い女子”のような表情がよく出ているのが、李仁に向かってルンルンと走り出すシーン。吉沢は「僕、やりすぎてしまうほどのコメディーをやりたくなる瞬間があって。李仁くんに向かって走り出すシーンは、まさに“ここだ!”と思った場面でもあって。思い切りルンルンして、李仁くんへの愛情を全身で表現しました」とニッコリ。そう語る姿からも「コメディーが大好き」という気持ちが伝わってくるが、「昔からコメディーに対する憧れがあり、コメディー作品は積極的にやりたい気持ちがあります。自分にとっては、“面白い=カッコいい”というイメージがあって。お芝居のうまい役者さんたちが真面目にふざけているのって、最高ですよね」と熱を込める。
コメディー作品に臨む際に心掛けているのは、「恥を捨てて、そのキャラクターとして真面目に笑いと向き合うこと」と強調。「あと声量は大きい方がいい。困ったら声を出していけ! という気持ちで乗り切る」と持論を述べて、インタビュー現場も笑いに包んでいた。
30代に執着したいこと
この夏は、『国宝』、そして本作というまったくジャンルの違う作品で、吉沢のさまざまな表情を見ることができる。「どちらも好きな方向性の作品。まったく毛色の異なる作品をやらせていただけるのは、とてもうれしいこと」と微笑んだ吉沢。作品選びで大切にしているのは、「そのキャラクターを愛せるかどうか。それに尽きます」とキッパリ。「20代前半くらいまでは“今回こういったテイストのものをやったから、次は違った作品がいいかも”と考えたり、“見え方”を意識しながらやっていたところもあります。でも今は、自分がその作品、そのキャラクターを愛せるかどうかだけになっています」
昨年公開された『ぼくが生きてる、ふたつの世界』ではコーダ(children of deaf adults/きこえない、またはきこえにくい親を持つ聴者の子どもという意味)の青年の葛藤を演じるために手話を習得。『国宝』では、役づくりに1年半をかけて歌舞伎の稽古と向き合った。
「挑戦」も今の吉沢にとってテーマになっているようにも感じるが、「以前に比べると、一つ一つの作品にかける時間を多く取れるようになってきています。そうすると自分の限界や壁に挑戦したくなっちゃうのかも」と照れ笑いしつつ、「大きな壁があると、やりがいもある」とタフな一面をのぞかせる。携わる作品への覚悟や責任感も一層、色濃くなっている様子だが、「これからもお芝居に執着しながら、きちんとやっていきたいと思っています。“これでいいかな”という限界を自分で決めず、“やれるところまでやってやる”という精神を持ち続けたい」と脂の乗った30代の抱負を口にし、「役づくりって地味なことの積み重ねなので、とてもしんどいことでもあります。でも、そこを乗り越えた先にしか見えない景色がある。すべては、お芝居が好きだからやれることだと感じています」と晴れやかな表情で語っていた。(取材・文:成田おり枝)
ヘアメイク:小林正憲(SHIMA)/スタイリスト: 荒木大輔


