えなりかずき「べらぼう」“暴君”役で射撃の自主練も 想定外の苦戦「最終的には幸楽でラーメンを運ぶのと同じニュアンスに」

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で、松前家第八代当主・松前道廣(まつまえ・みちひろ)を演じるえなりかずき。えなりにとって本作が大河ドラマ初出演。「こんなに悪い役をやるのは初めて」だといい、想定していた芝居が覆されたという撮影を振り返った。
6月1日放送・第21回で初登場し、火縄銃を手に人の命をもてあそぶ姿に「サイコパス」「恐ろしい」と反響を呼んだ道廣。ドラマの公式サイトの人物紹介には「時には行き過ぎた行動も平気でやってのける奔放な性格を持つ。御三卿の一橋治済(生田斗真)などとも親交があり、蝦夷(えぞ)の上知を進めようとする田沼意次(渡辺謙)に対して、政治的な駆け引きを実行していく」とある。(※編集部注:上知(あげち)=領地を召し上げること)
10歳の頃にNHKのスタジオで収録現場を目にしてから、大河ドラマへの出演を夢見ていたというえなり。出演が決まった際、くりぃむしちゅーの上田晋也やカズレーザーらクイズ番組「くりぃむクイズ ミラクル9」(テレビ朝日系)の共演者たちにも報告したそうで、「朝ドラ、大河は局をまたいでクイズ番組の問題として取り上げられるんですよね。そのたびに“いつか出たいな”とつぶやいておりましたので、上田さんやカズ先生が“良かったね”と喜んでくださいました」と振り返るえなり。念願かなっての大河ドラマ出演となったが、役へのアプローチは一筋縄ではいかなかったようだ。
「ここまでの、一般的に言うと悪いベクトルの役をやらせていただくのは初めて。もともと時代劇が大好きで、制作統括の藤並英樹さん、チーフ演出の大原拓さんとの最初の打ち合わせには悪代官が出てくるような時代劇をたくさん観て臨んだのですが、大原さんは“怖いという風に思わないでほしい”と。“(人の命をもてあそぶことが)道廣にとっては普通のことだし、普段やってることだから怖いと思わないでほしい”とのことで、そこから台本を読む角度、マインドを変えたと言いますか。何も考えないというか、爽やかに演じた方が、多分客観的に見た時に怖くなるんじゃないかなという結論に達しました」
チーフ演出の大原が本作で思い描く道廣のイメージとして参考例に出したのが、2010年公開の映画『十三人の刺客』(三池崇史監督)で稲垣吾郎が演じた明石藩主・松平斉韶。公開当時、無表情で息を吐くように残虐な行いを繰り返す暴君ぶりが話題を呼んだ。
「『十三人の刺客』の稲垣吾郎さんは、本当に“怖ッ”というのが第一印象でございまして。バイオレンス描写がすごくて、思わず目を背けたくなるようなシーンもたくさんあったのですが、やっていることは道廣とあまり変わらないので、“そうか、これぐらいのことをこれからするんだぞ”と気合が入りました。大原さんは“松平斉韶がもっとニコニコして人を刺す感じ”ともおっしゃっていたので“日常の楽しいことをしているようなイメージの方がいいってことですかね”といったふうにイメージのすり合わせをさせていただき、悪役という概念は一切取っ払いました」
芸歴30年以上のえなりだが「悪役」の概念を捨てたとはいえ、いざ撮影が始まると試行錯誤があったとも。
「火縄銃を人に向けて脅すというシチュエーションなので、どうしても“悪いことをするぞ”“撃ってやるぞ”みたいな気持ちが出てきてしまうんですね。何回かテイクを重ねたのですが、“力を抜いてください”“もっと楽しく、明るく”と修正いただいて。最終的には(某ドラマで)『幸楽』でラーメンを運んでいた時と変わらないようなニュアンスのセリフの言い方になって(笑)。そのテイクを採用していただいたので、こういうことなんだなと……。“やってやるぜ!”と意気込んだシーンではなく、自分でもよくわからないまま演じたシーンが意外にも評価をいただき、人生の面白さと、お芝居の面白さと難しさを実感しております」
なお、えなりはその射撃のシーンのために自主的にグアムで射撃練習を行ったという。
「これまで人生で銃を撃ったことがなかったので、グアムに行き、練習してきました。火縄銃って撃った時の反動があまりないんですよね。練習ではライフルだったのですが僕、クラッカー(の紐)もひけないぐらいビビりでして……。グアムの練習では防音のイヤーマフをつけるので音は聞こえなかったんですけど、撮影では発射音を聞かなくてはならないので、つい驚いてビクッとしてしまって何テイクかNGが出されました」
そんな苦労も実ってか、そのシーンでは田沼意次役の渡辺謙から「ベストキャスティング」と高い評価を受けた。
「最初の収録の時に言っていただいて、嬉しかったのですがさらに嬉しいことがありまして。その1か月後ぐらいですかね、くりぃむしちゅーの上田さんとゴルフをご一緒した際に、“そういえばさ。(意次の側近・三浦を演じる原田)泰造が謙さんから“まだ、えなりと同じシーンやっていないのか”って聞かれて、まだだと答えたら“えなりの殿様こえぇぞ~”って言ってたらしいよ”って。謙さんのお言葉を、上田さんと泰造さんを経由してうかがったんです。直接いただくお褒めの言葉も嬉しいんですけど、間接的な褒め言葉って3倍ぐらい嬉しいんですよね。“本人がいないところで言ってくださっているということは、本当なのかもしれない!”みたいな気持ちがございまして、本当に嬉しかったですし、ありがたかったです」
劇中、ロシアとの抜荷(密貿易)で私腹を肥やそうとする描写もあり、奔放な性格で権力をふるう道廣だが、なぜ彼はそのようになってしまったのか。えなりは、その背景を考えると「かわいそうな人」だとも語る。
「事前に道廣の人生を時系列で追うと、12歳くらいで家督を継がされたんですよね。松前ってお米が全く取れない土地で、その中でアイヌの方々と交易をして商売をしていくんですけど、それを12歳から、助けはあったとしても責任者としてやらなければならなかったという重圧はずっとあったと思うんです。おそらく、その重圧の中で感情が壊れてしまって、(暴君ぶりが)都市伝説のように語り草になったのではないかと。また、イギリスの船が漂着した時には、隠居していたのに先陣をきって立ち向かったといいますから、松前家を守りたいという思いはあったと思います」
なお、6月22日放送の第24回では女郎屋・二代目大文字屋を演じる伊藤淳史と33年ぶりの共演シーンが。「お会いするのが20年ぶりぐらいで。20歳ぐらいの時にバラエティー番組でご一緒しましたが、お芝居では33年ぶり。本当にうれしかったです。“この33年間、どんな感じで生きてました?”といったところから始まって、連絡先を交換して、この間初めてゴルフをご一緒させていただきました」と久々の再会を喜んでいた。(編集部・石井百合子)


