『仮面ライダーガヴ』杉原輝昭監督、劇場版に詰め込んだ謎&アクション 異世界で描く“完全悪”の仮面ライダー

令和仮面ライダーシリーズ第6作「仮面ライダーガヴ」(テレビ朝日系・毎週日曜午前9時~)の集大成を飾る映画『仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者』(全国公開中)。テレビシリーズに続いて監督を務めた杉原輝昭がリモートインタビューに応じ、劇場版での挑戦や、本編とは異なる世界観の構築、佳境に突入したテレビシリーズへの思いを語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
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テレビシリーズで描かれていない謎
Q:仮面ライダーの劇場版は『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』(2020)以来5年ぶりとなります。杉原監督の中で、劇場版とはどのように位置付けられているのでしょうか?
撮影時期にもよりますが、テレビシリーズの終盤もしくは終了後に撮影することが多く、「番組の集大成」という位置付けで考えています。
Q:コロナ禍で製作された『REAL×TIME』は、制約がかなり多かったと思われます。同作での経験が、今回の『仮面ライダーガヴ』で生かされた瞬間はありますか?
『REAL×TIME』は特殊すぎて、『ガヴ』の撮影現場のあり方と大きく違いました。当時は、映画を撮ること自体ができるかわからない状況の中、手探りで進めていました。『ガヴ』の場合は「何としてもやりたい!」という思いが強かったです。1年間の締めくくりでもありますし、何より子どもたちが(映画を)待っていますから。『REAL×TIME』で夏に公開できなかったことがあったので、何としても完成させて、映画をお届けしたいと思いました。
Q:メインライターの香村純子さんと劇場版でタッグを組むのは、2018年の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー en film (アンフィルム)』以来7年ぶりです。香村さんとは、どのように劇場版の物語を構築しましたか?
香村さんだけでなく、武部直美プロデューサーらスタッフのみなさんと企画会議をした時に、「ショウマを助けに来るストマック家を描きたい」など、やりたいことを言い合ったんです。その時に、武部プロデューサーから「お菓子の家の仮面ライダーはどうでしょう?」という話が出まして、最終的に香村さんが「ショウマの夏の冒険」という形で脚本にまとめてくださいました。
ストマック家については、ジャンプアニメの劇場版で見られる「敵キャラが一時的に味方になる」という展開に憧れて、どうしてもやりたいと思っていたんです。テレビシリーズでショウマと敵対していた彼らが、共闘する話ができないかというところから、「舞台を異世界にしましょう」と脚本づくりが始まっています。
もう1つ、僕がどうしてもやりたかったことは、テレビシリーズで描かれていない「扉の間」(グラニュート界と人間界をつなぐ空間)についての謎です。あの空間はグラニュート界にあるものの、誰が作ったのかわからない謎の存在でここまできました。本当は誰が使っていたものなのか、今作で描いた方がいいのではという話もあり、舞台が異世界になったところもあります。
5人揃ったらとんでもなく強い!異世界のストマック家
Q:異世界に迷い込んだショウマに襲いかかる謎の種族「ミューター」の設定は、どのように構築していきましたか?
ミューターは「絶対悪」という設定にしました。『ゼロワン』もそうでしたが、悪役には何かしらの悲しき過去があり、それがきっかけとなり悪に染まるバックボーンを作っていました。今回は、子どもたちが本気で嫌う悪役を目指して、ミューター側のキャスト(世界&木村慧人)にも、ひたすら悪いヤツを演じてくださいとお願いしています。
Q:ミューターの王・カリエスが変身する仮面ライダーカリエスは、「虫歯」(※カリエス=歯科用語で「虫歯」)がモチーフになっています。
仮面ライダーガヴはお菓子がモチーフなので、打ち合わせの段階から、敵は「虫歯」だという声があがっていました。お菓子の世界の虫歯ということで、完全なる悪い仮面ライダーを目指し、デザインがあがってきた時から歯の要素をたくさん入れてもらっています。
Q:ストマック家も5人そろって登場します。テレビシリーズと設定が異なるキャラクターもいますが、劇場版における彼らの描き方で意識したことはありますか?
異世界のストマック家は、家族がお互いのことをちゃんと大事にしていて、5人揃ったらとんでもなく強いということを特に意識しました。テレビシリーズでは諸悪の根源みたいになっていますが、闇菓子が存在しなければ、この家族が崩壊することはありません。テレビシリーズの出来事がなければ、ストマック家はもっと兄妹思いな家族になっていたと思います。
Q:丸太を担ぐグロッタの姿も、公開前から話題になっていました。
あれは……完全に悪ふざけです(笑)。劇中には、自分たちの武器を持ってかっこよく並ぶ別カットもありますが、テレビシリーズとは違う世界ということを見せたかったのと、グロッタが怪力という設定なので、少し面白いことできないかなと、結果的に丸太になりました。ちなみに、グロッタ役の千歳(まち)さんは、丸太を実際に担いでいます。作り物ではありますが、けっこうな重さでした。
やりたいことを詰めんだアクションシーン
Q:杉原監督といえばダイナミックなアクションシーンです。劇場版のアクションで目指したものはありますか?
藤田慧アクション監督と「観たことがないような画づくり」を目指しました。観ている子どもたちを飽きさせない、アトラクションを体験しているような感覚になれる画を、随所に盛り込んでいます。
Q:変身前のショウマのアクションシーンも盛り込まれています。
テレビシリーズでは放送尺の都合上ハマらないことがあるので、今回チャレンジしてみました。また、ショウマは人間とグラニュートの間に生まれた子なので、もともとの強さを見せたいと思い、藤田アクション監督にお願いして変身前のアクションを入れてもらいました。
Q:アクションの見どころ、特に手応えを感じたアクションシーンを教えてください。
本編後半、仮面ライダーガヴが劇場版限定フォーム(仮面ライダーガヴ ヘクセンハイム)に変身してからのアクションです。仮面ライダーカリエスとのスピード感あるバトルは、今作のアクションの中で一番の見どころかなと思います。藤田アクション監督や僕のやりたいことを詰め込みまくったら、最終的にこうなりましたという仕上がりになっています。スーツアクターの縄田(雄哉)くんをはじめとするアクションチームも協力してくれて、彼らのアイデアもたくさん入っています。
キャスト陣の成長
Q:主演として1年間作品を引っ張ってきた知念英和さん(ショウマ役)の魅力、劇場版で目撃した成長について教えてください。
知念くんは1年でかなり成長して、顔つきもスタート時とは全然違います。最初はかわいらしいふわっとした男の子で、自分ひとりで考えこんで答えが見つけられないこともありましたが、座長として1年間走り抜き、しっかり相談もしてくれるようになり、芝居の向き合い方も変わったと感じています。
Q:知念さん以外のレギュラーメンバー(日野友輔さん、宮部のぞみさん、庄司浩平さん)はいかがですか?
日野くんは本当に場を和ませてくれる子で、お芝居も真摯に向き合ってくれました。宮部さんはギャル社長の役づくりに苦戦したみたいですが、甘根幸果を演じ終えた後、自分で「良かった!」と言えるくらい成長できていたと思います。
庄司くんは、4人の中では最年長ということもあり、しかも「魔進戦隊キラメイジャー」で一度特撮作品を経験しているので、みんなを引っ張っていく立場になってくれてすごくありがたかったです。
Q:テレビシリーズも残り数話となりました。杉原監督にとって「仮面ライダーガヴ」とはどのような作品になりましたか?
僕にとって、新しい挑戦でした。仮面ライダーのモチーフにお菓子を持ってくること自体が初の試みだったので、正直どこまで面白くできるのか、最初に企画をいただいた時は不安な部分もありましたが、武部プロデューサーや瀧島(南美)プロデューサー、脚本の香村さん、藤田アクション監督、カメラマンの植竹(篤史)さんたちが、手探りで面白いものを作り上げてくださりました。「お菓子の仮面ライダー」という新しい挑戦を成功させてくれた、ありがたい番組でした。


