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映画『8番出口』川村元気監督、二宮和也から「決定的な提案」

映画『8番出口』より名もなき主人公を演じる二宮和也
映画『8番出口』より名もなき主人公を演じる二宮和也 - (C) 2025 映画「8番出口」製作委員会

 累計販売本数190万本超のヒットを記録したゲームを二宮和也主演で実写映画化した『8番出口』(公開中)。二宮にとって独立後、初の主演映画となるが、メガホンをとった川村元気監督が二宮を起用した理由、彼の俳優としての魅力を語った(※一部ネタバレあり)。

【画像】『8番出口』メイキング<4枚>

 2023年にインディーゲームクリエイターの KOTAKE CREATE が制作したゲームは、無限に繰り返される地下道の空間を「異変を見逃さないこと」「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「8番出口から外に出ること」という4つのルールにのっとり、出口を探していく。正しく進めれば1番出口、2番出口と8番出口に近づき、異変を見逃したりあるいは異変と思い込んで引き返せば0番出口(振りだし)に戻る。映画ではゲームのプレイヤーにあたるのが二宮演じる「迷う男」で、主に彼の視点で物語が展開する。

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 川村監督が二宮を主演に起用した理由は大きく二つあるといい、一つ目が「ゲームに対するリテラシーが非常に高い俳優」であること。

 「今回やりたかったのが、ゲームの映画化というよりは“ゲームと映画の境目が曖昧な映画体験”をつくること。以前、『マリオ』シリーズを作った任天堂の宮本茂さん(※任天堂株式会社の代表取締役フェロー)と対談した時におっしゃっていたのが、いいゲームというのはプレイしている本人も楽しいけど、プレイしている人を見ていても楽しいものだと。最近のゲーム実況というのもそういう楽しみ方なんだと思うんですよね。YouTubeで誰かがゲームをしているのを見て楽しむっていう。そのようなゲーム体験のような、新しい映画体験を作りたいと思っていました。つまり、この映画はプレイヤーの目線でも楽しめるけど、プレイしている二宮くんを観て“あそこに異変があるのに気づかない!”“そっちじゃない!”などという楽しみ方もあって。ある意味、彼は主演であるのと同時に、ゲームのプレイヤーであってもらわなければならない。僕がやろうとしている演出を理解してもらうには、ゲームに対するリテラシーが高い俳優である彼が適任だと。実際、彼は映画の撮影中もカットがかかるとすぐスマホでゲームを始めるような人で、実人生とゲームの境目がないのがとても面白かったです」

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撮影中の様子。二宮(左から二番目)、川村監督(右から二番目)

 二宮は本作で「脚本協力」としてもクレジットされているが、ゲームプレイヤーの視点でさまざまなアイデアを提案したという。その一つが、主人公に喘息の持病があること。

 「ゲーム的な発想で言うとこうなんじゃないかみたいなアドバイスをたくさんくれて。それがヒントになることも多かった。例えば、主人公が喘息の持病を抱えているのは二宮くんの意見がきっかけです。主人公に足枷のようなものがある方がいいんじゃないかと。ある種サバイバルゲームとしての枷みたいなものを作った方がいいんじゃないかというところで。喘息に関しては、僕が当時脚本を書いているときに百日咳を患っていて、もしこの状態で地下通路から出られなかったら……と不安を感じたのをきっかけに、脚本に取り入れました」

 二宮からの提案の中で最も驚いたのが「メイク」。それは当初、想定していたプランと真逆のイメージだった。

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 「メイクテストをした当初は、初めは元気だった主人公がループを繰り返すうちにだんだんげっそりして、血の気がなくなっていくプランでした。でも、その日の夜に二宮くんから連絡が来て“逆じゃないか”と。日常のループに疲れ果てている冒頭が最も生気がなく、むしろ地下通路のサバイバルの中でだんだん顔色が良くなっていく、血が通っていく感じにしたらどうかと。確かにそっちの方が面白いなと思ったし、非人間的な毎日を送る主人公がサバイバルの中で人間性を取り戻していくというコンセプトが、彼のメイクの提案を受けてより明確になった。決定的な提案だったと思います。これも喘息と同様に身体性に伴うアイデアで、俳優の身体から出てくるアイデアを取り込んで脚本がどんどん良くなっていくという体験をしました」

 二宮を起用した二つ目の理由が、「無個性なキャラクターを演じられること」。

 「二宮くんが演じるのは、ゲーム用語で言うモブ、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)と言われる、役名がない役。無個性、無感情の人間が徐々に人間性を獲得していくグラデーションを描いているのですが、人間的な部分に関しては得意な俳優が多い気がするんですけど、無個性って難しいんですよね。特に最初の30分ぐらいの彼の無個性感は凄いなと。非人間的というか、何を考えているのかわからない感じ。それと人間的な部分の両方をやれる才能がとてつもなく、そこを期待していたところもありました」

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 二宮の撮影現場での様子を尋ねると、「ゲームプレイヤー的な、フラットな状態」と川村監督。

 「そこも彼の素晴らしいところで、彼はめちゃくちゃ感情移入してとか、綿密に役づくりして……ということではなく、行動で感情、人間性を示していく人。ラストシーンもその延長で生まれたものです。シナリオにはなかったのですが、彼と探し続けて最後の最後で“見つかった”ものです」と試行錯誤の上つかんだラストシーンの撮影を振り返った。実際、出来上がったシーンは“この表情のためにこの映画がある”といっても過言ではない、余韻が残る名シーンとなっている。(取材・文:編集部 石井百合子)

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