バカリズムが明かす『ベートーヴェン捏造』創作裏話!魅力あふれる会話劇と緻密な脚本の秘密

天才音楽家ベートーヴェンの秘書シンドラーにまつわるスキャンダルの真相に迫るかげはら史帆氏の歴史ノンフィクション小説を、山田裕貴主演、バカリズムの脚本で実写映画化する『ベートーヴェン捏造』(9月12日全国公開)。本作の創作裏話や見どころについて、バカリズムがオフィシャルインタビューで語った。
【動画】山田裕貴主演×バカリズム脚本『ベートーヴェン捏造』本予告
日頃から執筆作業中にクラシックを聴き、その中にベートーヴェンの曲もあり「普通に好きだった」というバカリズム。本作の執筆にあたり「あまりシンドラーを美化しないように、とは心がけていました。シンドラー目線で書くと同情を買うような描き方になりがちなのですが、決して味方をするつもりはないというか。映画を観る人が誰に感情移入するかは自由ですが、僕自身はなるべくそういう誘導をしないように意識していました」と語る。
ドラマ「ブラッシュアップライフ」など、女性が中心の会話劇で知られるバカリズム作品。しかし、本作はほぼ男性で構成されているのが特徴だ。ベートーヴェンを巡る嫉妬や愛憎が渦巻くなかでも、登場人物全員にどこかクスッと笑える愛おしさが感じられるのは、まさにバカリズム脚本ならではの魅力といえる。また、ベートーヴェンの耳が聞こえないという設定から、会話帳を介したコミュニケーションが必要というのも、本作の特筆すべき点だ。「シンドラーは誰にも、何も打ち明けずに一人で考えていることが多かったので、モノローグは絶対に必要だと思いました。相談するような友達も、そんなにいなかったんじゃないかな。僕が何よりも嫌なのは劇中で独り言を言わせることで、それを避けるためにもモノローグを使うんですけど、今まで以上にモノローグがないと成立しない脚本でした。会話帳の存在も一つのハードルで、モノローグを入れないと会話のテンポが悪くなる。とはいえ、会話帳を介するとまどろっこしさというのが、ある程度は感じられた方がいいとも思いました」と、通常の会話とは違う工夫について語っている。
そして、“現代の中学生が想像する世界”というバカリズムのアイデアで生まれた“登場人物全員が日本人の、19世紀ヨーロッパのクラシック音楽界”というユニークな設定については、「最初にお話を頂いた時点で、現代の日本パートは入れようと決めていました。今の日本人が19世紀のヨーロッパ人を演じる限り、ストレートに見せるとどうしても設定の無理が引っかかってしまう人は出てくる。現代人の想像という形で歴史を語る手法なら過去にドラマで使ったこともあったし、それ以外で自分自身を納得させられる解決策はないと思いました」と説明。
また、山田が2役で演じる中学校の音楽教師が、生徒にシンドラーとベートーヴェンについて語って聞かせるという物語の導入については「いわゆる日常会話の話題ではないんですよね。シンドラーのことをそこまで知っている人となると、ある程度は音楽の知識がないといけない。かといって関係者同士の会話では、今回のような物語にはならないから、どちらか一方は事情を知らない人じゃなきゃいけない。クラシックに興味のありそうな先生が、生徒に自慢気に話すシチュエーションだったら成立するし、生徒は生徒で、先生が熱心に喋っているからあんまり無下にもできないし、逃げ出せないというか。生徒に面白がられてはいるかもしれないし、嫌われてはいないかもしれないけど、親密になるのはリアルじゃないなと思ったので、そこの匙加減は結構難しかったです」と、裏話も明かしている。
そして最後に「ベートーヴェンはやっぱり圧倒されるというか、聴くとなぜか感情を揺さぶられる。それぐらいパワーのある曲ですよね。だからある意味これは、音楽劇みたいなもので、とにかく“ベートーヴェンを聴ける映画”を目指したので、映画館の爆音でベートーヴェンを浴びるという体験は、きっと特別な思い出として残るんじゃないかなと思います」とメッセージを寄せた。
『ベートーヴェン捏造』は、音楽史上最大のスキャンダルを追った歴史ノンフィクション「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」に基づく。脚本のバカリズムが斬新なアイデアを交え、ベートーヴェンの死後、彼の崇高なイメージを仕立て上げた秘書の奔走と、ベートーヴェンの素顔を描く。主人公のシンドラーを山田が演じ、ベートーヴェン役を古田新太が務めるほか、共演には染谷将太、神尾楓珠、前田旺志郎、小澤征悦、生瀬勝久、小手伸也など、豪華俳優陣が名を連ねている。(加賀美光希)


