「べらぼう」渡辺謙、“見えない抑圧感”と戦った田沼意次役 6度目の大河クランクアップ

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)で田沼意次を演じた渡辺謙。初回から約9か月にわたって登場した意次だが、7日放送・第34回が最後の回となり、渡辺がクランクアップを迎えた心境を語った。意次役を「“見えない抑圧感”みたいなものは常にありました。上からも下からも、その抑圧感みたいなものを一身に受けながら、必死で何かを模索し続けるという役でした」と振り返っている。
田沼意次は、足軽出身の出自から遠江相良藩(現在の静岡県牧之原市)の五万七千石の大名に昇りつめた人物。米による幕府の財政運営に限界をおぼえ、金を動かしてこそ経済がまわる商業重視の政策に方針を転換。印旛沼の干拓、蝦夷地の開発、優秀な人材を幕政に積極的に登用するなど、“新しい日本”を作るべく力を尽くした。渡辺にとって、大河ドラマへの出演は「山河燃ゆ」(1984) 、「独眼竜政宗」(1987)、「炎立つ 第一部・第三部(1993~1994)、「北条時宗」(2001)、「西郷どん」(2018)に続いて6度目、7年ぶりの出演となった。
「べらぼう」は主人公の版元・蔦屋重三郎(横浜流星)のいる吉原や日本橋のパートと、意次ら江戸城のパートを中心に展開。渡辺はクランクアップ直後の心境について「江戸城からの開放です。裃(かみしも)からの解放でもありますね(笑)」と率直なコメント。
最後の出演回となった第34回は、老中首座となった松平定信(井上祐貴)が「万民倹約を心掛け遊興におぼれず分をわきまえ務めよと」という旨の厳しい統制を開始。蔦重は「これからはふざければお縄になる世が来る」と危惧し、「田沼様、わたしは先の上様のもと、田沼様が作り出した世が好きでした」「みながよくまみれでいい加減で。でも、だからこそ分を越えて親しみ、心のままに生きられる隙間があった。吉原の引手茶屋の拾い子が日本橋の本屋にもなれるような」と意次の功績を称えた。対して意次は「俺はお前と同じ成り上がりであるからな。持たざる者にはよかったのかもしれぬ。けれど、持てる側からしたら憤懣やるかたない世でもあったはず。今度はそっちの方が正反対の世を目指すのはまあ当然の流れだ」と冷静に返す。
そこで蔦重の決断を受け入れるシーンについて、渡辺は「最後にようやくお互いが同じような境遇で「成り上がり者だよね」ということを共有し合うシーンでした。蔦重と意次は、ある種の敵対関係というところもあったので、その辺の兼ね合いの難しさみたいなものを感じながらやっていました」と述懐。
これまでの、意次を演じるうえで印象的なシーンについては、前半は「松平武元(石坂浩二)との茶室のシーン」、中盤以降は「徳川家治(眞島秀和)とのシーン」を挙げる渡辺。武元は米による幕府の財政運営を重んじ、金を重んじる意次とは水と油。武元がことあるごとに意次を「足軽上がりが」といびる描写もあったが、次期将軍として将来を期待されていた徳川家基(奥智哉)が暗殺されると、事の真相を突き止めるために共闘関係に転じた。そして、家治は意次を「まとうどの者(正直者)」と評し絶大な信頼を寄せ、意次を除いて唯一、一橋治済(生田斗真)の謀略を見抜いた人物として描かれていた。
渡辺は、武元とのシーンについては「ようやく2人の関係が氷解していくという中で、非常に緊迫感もあり、ミステリー感もあり、非常に長かったですが、やりがいのあるシーンでした」と言い、家治とのシーンについては「非常に厚い信頼を受けながら、でも家治自身が抱えている悩みを意次は解決できない。そのジレンマみたいなものもありましたし、家治自身が追い込まれていく時に、会うこともかなわなくなってしまうという中で、それを想定しながら、それまで家治とのシーンを積み上げていったので、意次にとっての家治というのは非常に大きなポジションでした」と語っている。
そして、視聴者に「これからもハラハラドキドキ、蔦重もそうだし、世の中的にも波乱万丈な時代がやってくるので、楽しんでいただけたらいいんじゃないかなと思います。ご愛顧よろしくお願いします」とメッセージを送った。(編集部・石井百合子)


