「べらぼう」葛飾北斎役にくっきー!起用の理由 制作統括・藤並CP「真っ先に浮上したのが彼でした」

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)でのちに葛飾北斎となる勝川春朗役に抜擢された、お笑いコンビ・野性爆弾のくっきー!。芸人のほか、「肉糞太郎」のアーティスト名で画家としても活躍しているが、北斎役にキャスティングした理由を制作統括の藤並英樹チーフプロデューサーが語った。
大河ドラマ第64作「べらぼう」は、江戸時代中期、貸本屋から身を興して書籍の編集・出版業を開始し、のちに江戸のメディア王として時代の寵児となった蔦屋重三郎(横浜)の物語。脚本を大河ドラマ「おんな城主 直虎」やドラマ「大奥」シリーズ(NHK)などの森下佳子、語りを綾瀬はるかが務める。勝川春朗は、重田貞一(のちの十返舎一九/井上芳雄)や滝沢瑣吉(のちの曲亭馬琴/津田健次郎)と共にドラマの後半を盛り上げるキャラクター。主人公・蔦重とは、師・勝川春章(前野朋哉)を介して知り合う。
くっきー!は近年、ドラマ「崖っぷちホテル!」(2018)、「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(2021)などで俳優としても活躍しているが、大河ドラマの出演は初。「べらぼう」では蔦重が見出す絵師や戯作者たちを誰が演じるのかが視聴者の関心を集めていたが、その目玉の一人である葛飾北斎役への抜擢となった。藤並CPによると、「くっきー!さんにお願いすることに迷いはなかった」という。
「くっきー!さんと共に発表した津田健次郎さん(曲亭馬琴)、井上芳雄さん(十返舎一九)は先に決まっていて、春朗役をどうしましょうかっていうお話を脚本の森下さんとチーフ演出の大原拓と話した時に、真っ先に名前が出てきたのがくっきー!さんだったんです。彼自身、絵を描かれてクリエイターとしても活躍されていますし、人としてもとても魅力的な方。当初、北斎は蔦重が亡くなった後に活躍するので、このドラマでどこまで出てくるのか見えない状態だったので、十返舎一九、曲亭馬琴と組んで蔦重の終盤戦を盛り上げていく、絵師の中の重要なキャラクターとして描いていきたいというのは、撮影直前に決まりまして。その中で、勝朗役は誰がいいだろうかと話したときに“インパクトのある人”“この人だったらすごい絵を描きそうと思える人”がいいなと。その中でくっきー!さんどうですかねっていう話が出てきて、オファーし、お引き受けいただきました」
多才なくっきー!は「ゲスの極み乙女」の川谷絵音がプロデュースするバンドでの音楽活動のほか、画家としても注目を浴びる。ニューヨークで開かれたアートフェア「Artexpo New York」に出展した際には“最も注目する5人”に選ばれたが、やはり絵画が得意である点は大きかったのか?
「絵を描けないといけないというわけではないのですが、くっきー!さんはカラフルな独自の世界を持っていらっしゃって、北斎もまた色についてもキャラクターについてもすごく特徴のある人です。なおかつ、北斎はこれまで多くのドラマ、映画で描かれてきましたけども、その中の誰とも重ならないような強いキャラクターにしたいという思いもありました」
本人の反応はどうだったのか……?
「びっくりされていました。“僕ですか?”と。でも衣装合わせでお会いした時にはすごく喜んでくださいましたし、キャラクターをどう作っていくのかという演出との話でも盛り上がっていました。本編を観ていただくとわかるんですけども、北斎がオノマトペ(擬音語、擬態語)の天才だと、森下さんがご存知だったらしくて。確かに彼の絵の中にたくさん出てきたりするんですけども、くっきー!さんに“オノマトペの天才なので、擬音をうまく駆使して喋る人です”というお話をしたら、かなりご興味を持ってくださいました」
なお、本作で描かれる北斎のキャラクターはビジュアルを含め「未完成」であることがポイントの一つだという。
「北斎っていうと、すごく奇抜、変人なイメージがあるかもしれないんですけれども、春朗時代の彼は史実でもまだ絵や自身を模索していて、師匠を模倣している段階にあり、完成されていない状態です。なので、衣装もあまり奇抜な感じではなく、むしろオーソドックスなものになっています。とはいえ、くっきー!さんなんで目立ちますが(笑)。津田さんや井上さんもそうなんですけど、この人物がのちの馬琴になる、のちの一九になるんだと化ける可能性が垣間見えたり、化ける期待をもっていただけるようなキャラクターにはなっていると思います」
くっきー!演じる春朗の初登場シーンの撮影を見て「面白かったですね。ワクワクしました」という藤並CP。絵を描くシーンも気になるが、これまで喜多川歌麿役の染谷将太、恋川春町役の岡山天音、礒田湖龍斎役の鉄拳らが絵を描くシーンは吹替えナシで行われている。
「くっきー!さんにも絵の稽古はしていただいています。ただ、描くのはあくまで若かりし時代なので、例えば『富嶽三十六景』など大成した後の絵を描くことはないと思うんですけれども、勝川派の絵師として描くシーンは出てくるんじゃないかなと思います」
今後、春朗が蔦重とどんな関係を築いていくのか。視聴者に注目してほしいポイントについては「晩年の蔦重、耕書堂の可能性を担っていくのが春朗、馬琴です。設定では蔦重よりかなり若い彼らのエネルギーと蔦重がどのように化学反応を起こし、新しいものが生まれるのか。蔦重が春朗と馬琴を組ませたらいいんじゃないかという発想に至るので、その過程も楽しんで頂けたら」と話していた。(取材・文:編集部 石井百合子)


