北川景子、お忍びで20年ぶりカラオケ 一人ひたすらフラカン「深夜高速」を猛練習

『ミッドナイトスワン』(2020)の内田英治監督の新作映画『ナイトフラワー』(11月28日公開)で主演を務める北川景子。演じるのは、二人の子供を一人で育てるなかで困窮のあまりドラッグの売人になることを決意する母親。自身も2児の母である北川が出産後に感じたキャリアの変化、役づくりのために20年ぶりにカラオケに行ったというエピソードまでを語った。
本作は、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が、同作に続いて“真夜中シリーズ”と銘打つサスペンス。幼い子ども2人を抱える主人公・永島夏希(北川)が、子どもの夢をかなえるためドラッグの売人に身を落とし、懸命に生きようとする。共演は、北川と同じく内田組出演経験のある森田望智、Snow Manの佐久間大介のほか本作がスクリーンデビューとなるSUPER BEAVERの渋谷龍太ら多彩な面々。社会の片隅に生きる孤独な人々の痛みや葛藤が描かれる。
北川にとって映画主演は4年ぶり、内田監督とのタッグは2023年放送のドラマ「落日」(WOWOW)以来2年ぶり。本作ではブルーに染めた髪にほぼスッピンというビジュアルで主人公・夏希になりきった。映画の冒頭ではスナックで働く夏希が、「生きててよかった」と連呼するフラワーカンパニーズの楽曲「深夜高速」をシャウトする。身も心もギリギリの生活を送る夏希の、行き場のない怒りややるせなさが表出した場面だ。マイクを握って叫びながら歌う夏希。このシーンは、北川にとって本作で一番の挑戦だったという。「もともとわたしはカラオケが苦手。高校生の頃から人前で歌うのはどうしても恥ずかしくて。いつもタンバリン担当なんです」と告白する。
北川が歌うシーンを撮影したのは、俳優デビュー作のドラマ「美少女戦士セーラームーン」(2003)以来。そのためかなりのプレッシャーを感じていたそう。「普段、台本は子どもたちが寝静まった後に覚えるのですが、歌はそうもいかなくて。兎にも角にもこの曲だけをループで歌う、“ひとりカラオケ”に行きました」。意を決しての、20年ぶりのカラオケ。夏希が初めてドラッグをさばくシーンさながらに、ものすごくドキドキしたのだとか。「お店の人に“北川景子が一人で来たんだけど……しかも同じ曲ばっかり歌ってる……”と思われたら恥ずかしいじゃないですか! だから、バレないように帽子をしっかりかぶって小声で……」とこっそり入店したと打ち明ける。
本編での歌唱シーンの出来栄えについては「初号(関係者のための初お披露目上映会)の時、隣の席が渋谷龍太さんだったんです……。“なにが悲しくて、プロの歌手と(このシーンを)見なきゃいけないんだろう……”と」と気が気じゃなかったという。しかし「上映が終わった後、渋谷さんが“(歌に対して)本当に素敵でした!”と言ってくださったんです」と太鼓判をもらったことでようやく自信を持てたと話す。
昨今の北川は、主演ドラマ「あなたを奪ったその日から」(2025)や映画『ラーゲリより愛を込めて』(2022)など母親役が続く。本作でも、夫が蒸発して以来、バイオリンの才能を秘めた小学生・小春(渡瀬結美)と、やんちゃなトラブルメーカーの保育園児・小太郎(加藤侑大)を一人で育てる母親を演じている。バイオリンが上手な渡瀬は本作が演技初挑戦。そして、加藤は撮影当時4歳というまだまだ甘えたい盛りの年頃だった。北川は母親を演じるうえでのポリシーを「たとえ“仲が悪い親子”の役だったとしても、わたしは(子役と)仲良くなれるようにしっかりコミュニケーションをとるようにしています」と明かす。今回も親子関係を育むリハーサルレッスンを経て、すぐに“仲良し親子”の絆を育んだ。
子役たちには「とにかく楽しくやってほしい!」という北川。「(子役は)ずっとこの世界に身を置く方ばかりじゃない。だから、子役時代の経験がその後の人格形成に悪い影響を及ぼしたりしないように、たとえ他の道を歩んだとしても“昔、子役をしていた経験もあるけど楽しかった”と言える大人になってほしい」と俳優の先輩として、子を持つ親として、子役たちに温かい視線を送る。
結婚、2度の出産と自身のライフステージが変化するなかで、プライベートの経験がキャリアにどんな影響を及ぼしたのか? 北川は「子どもを授かったあとは、いただける役の幅がわぁっと広がった」と振り返る。
「若い頃からいろいろな役に挑戦したい気持ちはあった」と言う北川だが、20代はどちらかというと映画『パラダイス・キス』(2011)やドラマ「LADY~最後の犯罪プロファイル~」(2011)など、タフで華やかな役柄が多かった。「でもわたしはホームドラマや母親役もやりたいし、正義のために働くのではない“悪人”もやってみたいという思いもあって……」と当時の本音を吐露。しかし、出産をきっかけに「母親役がすごく増えました。そうするとこれまで演じたことのない役柄に自然とチャレンジできるようになった」と目を輝かせる。
「今は子どもがいるので年がら年中、仕事をするわけにはいかず、働く時間を限定せざるをえないので、前より“挑戦できる時間”は減っているかもしれませんが、逆に“挑戦できる幅”は広がりました。それが、自分にとってはすごくうれしいこと」とキャリアの変化を実感している。
実際、NHK大河ドラマ「どうする家康」(2023)では可憐なお市の方と、“ラスボス”的な茶々の一人二役を演じ分け、視聴者を驚かせた。さらに、現在放送の「ばけばけ」では朝ドラ出演を果たすなど女優としての広がりをみせており、来年40歳を迎えてからのステージも楽しみでならない。(取材・文:水越小夜子)


