「べらぼう」生田斗真、一人二役の理由 制作統括が明かす

横浜流星主演の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(毎週日曜NHK総合よる8時~ほか)の7日放送・第47回では、一橋治済役で出演していた生田斗真が能役者・斎藤十郎兵衛を演じていることが明らかになったが、生田斗真が一人二役を担うことになった理由を制作統括の藤並英樹が語った。
生田演じる一橋治済は、八代将軍・徳川吉宗の後継者対策に端を発して作られた「御三卿」の一つである一橋徳川家の当主。吉宗の孫にあたり、十代将軍・徳川家治(眞島秀和)とは“いとこ”。次々と将軍後継者が早世する中、最後に残った治済の息子・家斉が十一代将軍となり、治済は「将軍の父」としてすべての富と権力を得るようになる、という役どころ。これまで自身は手を下さずして、将軍候補だった徳川家基(奥智哉)、老中首座・松平武元(石坂浩二)、老中・田沼意次(渡辺謙)の嫡男・田沼意知(宮沢氷魚)、家治ら多くの命を奪い、人を意のままに操る傀儡(くぐつ)師のような恐ろしい人物として描かれた。
前話のラストから47回にかけて、斎藤十郎兵衛という新たな人物が登場。斎藤十郎兵衛は阿波蜂須賀家お抱えの能役者で、絵師・東洲斎写楽の正体とも言われる人物。これを演じているのが生田で、事前告知なしのサプライズ展開となったが、藤並は経緯をこう語る。
「生田さんの一人二役が決まったのは、確か今年の4月、5月頃。元々、斎藤十郎兵衛役をどうしようかっていうのはずっと考えていたんですけども、生田さんに演じていただいた一橋治済がドラマの中で魅力的な、憎らしいキャラクターになっていった。史実では治済は長生きするのですが、脚本の森下(佳子)さんと何かしら罰を与えたいよねっていう話になって。その罰の1つのトリックとして、斎藤十郎兵衛、要は素性があまりよくわからない人物をうまく使えないかという話が春先ぐらいに出て“面白そうですね”“せっかくなので生田さんに1人2役でやってもらいましょう”という話になりました」
斎藤十郎兵衛を生田に依頼した理由については「十郎兵衛は能役者なんですけど、主役じゃなくて脇役なんですよね」と切り出す藤並。「森下さんとチーフ演出の大原(拓)とも話したところ、これはこの時代の全ての人に共通することであり、実は「べらぼう」の大きなテーマでもあるんですけど、みな生まれながらの分とか家に縛られていた。そこから脱却したのが、蔦屋重三郎(横浜流星)や老中・田沼意次。十郎兵衛も蜂須賀家の家臣としての出自、脇役という分に縛られながら、どこか主役に憧れていたり、もっと面白いことを目指したいといった欲がある人として描いた方が面白いんじゃないかと。彼はある意味哀しい人であり、実は治済と真逆。だからこそ、治済を演じる生田さんご自身にやっていただけたらとても面白いだろうと」
ところで生田自身は一人二役の話が舞い込んだ際、どんな反応だったのか?
「これまで多くの方と“写楽役は決まっているんですか?”“まだ決まっていないんです”という会話をしていて、生田さんとも同様のやりとりがあったのですが、生田さんさんに斎藤十郎兵衛と二役をお願いできませんか、と先の展開をご説明したところ“めっちゃ面白そうですね”と。すごく楽しみにしてくださって。治済も魅力的に演じてくださってるんですけど、十郎兵衛も十郎兵衛らしく演じてくださっていて、立ち方、喋り方などそれぞれ見事に演じ分けてくださった」
なお、治済による暗殺は毒が常套手段だったが、第46回でも毒まんじゅうによって多くの命が奪われることとなった。治済の人物造形は藤並、脚本・森下、チーフ演出・大原が組んだドラマ「大奥」で仲間由紀恵が演じた一橋治済の影響が大きかったとか。また、藤並は治済のとりわけ印象深いシーンとして、8月10日放送・第30回での“狂気の舞”を挙げる。大雨により利根川が決壊する甚大な被害がもたらされたにもかかわらず、治済はそれを好機ととらえたのか全身で喜びを表す場面だ。
「初っ端の東本願寺で撮影したロケから、生田さん演じる治済という人物は捉えどころのない面白みのある人だなと感じていましたが、すごく印象に残っているのが大雨の中で踊り回っている場面。台本上では治済が舞うとは書かれていなかったんですけれども、演出と生田さんが加えてくださった。そのことで治済の狂気、底知れなさみたいなものを表現できたように思います」と生田の期待を上回る名演を称えていた。(編集部・石井百合子)


