竹内涼真&町田啓太の美しく官能的な衣装の裏側 「岸辺露伴」人物デザイン監修・柘植伊佐夫が描く競技ダンスの世界

井上佐藤の人気漫画を実写化するNetflix映画『10DANCE』(配信中)で、人物デザイン監修として竹内涼真や町田啓太演じるダンサーたちのヘアメイクや衣装を手掛けた柘植伊佐夫。ドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズや大河ドラマ「どうする家康」など、観る者をひと目で魅了する美しく大胆な人物デザインで知られる彼が挑んだのは、競技ダンスの世界。柘植が、「シンプル&クラシック」というコンセプトを掲げた本作の裏側を語った。
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タイトルの「10ダンス」とは、スタンダード5種目とラテン5種目、全10種目を踊るダンス競技を指す。主人公は、ラテンダンス日本チャンピオンで世界に通用する実力を持ちながらも、ある理由から国内の大会にこだわる主人公・鈴木信也(竹内)と、スタンダード(ボールルームダンス)日本チャンピオンで世界2位の記録を持つ杉木信也(町田)。映画では、この“二人の信也”が「10ダンス」に挑む中で切磋琢磨しながら愛を育んでいくさまが描かれる。
人物デザイン監修とは柘植独特の肩書きで、衣装のデザインのみならずヘアメイク、アクセサリーなど身に着けるものすべてをトータルでコーディネートする。『10DANCE』では大河ドラマ「龍馬伝」(2010)で組んだ大友啓史監督のもと、競技ダンスの世界に挑んだ。本作における人物デザインのコンセプトを、柘植はこう語る。
「伝統文化から発祥されたダンスが競技化することによって、衣装やヘアメイクも、「短い時間の中でいかに審査員と観客にアピールできるか」「限界の動きにどれだけ強度が耐えられるか」「諸条件をクリアしてなおエレガントでありうるか」ということを追求してきた歴史があります。競技用に発展してきた「誇張」や「装飾性」を、本作では「少しだけクラシックに戻す」という試みをしています。それによって、スタンダードやラテンが本来持っている魅力を再確認したいという目的からです。そこで今回、人物デザインのコンセプトは「シンプル&クラシック」としました」
これまでも「岸辺露伴」シリーズをはじめ『翔んで埼玉』シリーズ(2019・2023)、ドラマ「ブラック・ジャック」(2024)など漫画原作のドラマや映画を多く手掛けてきた柘植だが、彼の主義として原作のデザインをトレースすることはせず、必ず「俳優に似合っているかどうか」「衣装が舞台になじんでいるかどうか」にこだわる。本作では、短髪のイメージで知られる竹内涼真が襟足を長くすることで、いまだかつてないセクシーな雰囲気をまとっている。
「一般的に、ダンス競技において、男性のヘアスタイルはピシッとしたショートヘアが多いのですが、それは最初から鈴木に対して選択肢としてはありませんでした。井上佐藤先生の原作の二人が素敵ですし、ファンの皆様もそのビジュアルイメージを思い描くだろうと考えましたから、いかに竹内さんにあの原作の雰囲気で似合うバランスを見つけるかということに集中いたしました。そこは現実のダンス界のプロトコル(共通言語)よりは、虚構世界でありながら納得感を持てるリアリティーはどこか、という表現です」
なお、原作で鈴木の脇腹に彫られているタトゥーももちろん竹内の体にデザインされており、柘植は「井上佐藤先生の原作を踏襲しながら、さらに詳細を先生からもいただいて、またその上に特殊メイクを担当する松岡象一郎さんがタトゥーデザインとしてまとめ上げてくださったと記憶しています。撮影に入る前の段階で、これがどのくらい見えるかは未定だったのですが、とても効果的な象徴になったと思います」と原作者とのやりとりを経て構築したことを明かす。
本作の見せ場の一つが、鈴木と杉木がレッスン上で練習を重ねるうちに思いがけない感情が芽生えていく過程。鈴木は杉木にラテンを、杉木は鈴木にスタンダードを教え、まるでラブシーンのように官能的なムードが醸し出される。そんな二人のレッスン着は「黒」で統一されているが、これは大友監督とも合致した意見だったという。
「「シンプル&クラシック」というコンセプトを持っておりましたから、レッスン着は黒一択で考えていました。これは大友監督もそのお考えでした。またそもそもダンス業界を見渡してみますと、もちろんさまざまな色合いのレッスン着はありますけれども、少しストイックで本格な雰囲気を表したい場合には、やはり黒が好まれるようにも思います。本作には多くの競技会シーンがあります。それを「ハレ」だとすれば、そちらが華やかな衣装になりますから、レッスン風景はいわば「ケ」にあたります。その「人には見せない部分」というのは、もしかすると鈴木と杉木の秘めた想いにつながるというように解釈できます。そのような意味づけからも「黒の世界」がふさわしいと考えました」
鈴木と杉木はダンスのジャンルと同じく性格もまるで対照的だが、それぞれの個性をどのように衣装に反映させていったのか。
「鈴木はキューバ、杉木はイギリスに関係があります。その出自がラテンとスタンダートという異なるジャンルに分派して、彼らの過去を形作ってきました。そのような背景から、彼らのどこかには、いかに互いに近づこうとレッスンを繰り返しても、最後のその違いは残るだろう。そのようなことを思いながら、二人のデザインを考えています。ただし、レッスン着が「黒」であったように、ペアにおいて際立たせるのは女性であり、そのための男性の黒であるという、社交着上の古くからの原則もあります。そこで、二人の基本色である黒の中に、いかにキューバとイギリスのムードを出せるか。そのようなことは一貫して配慮しました。それは鈴木と杉木の素材の透明度や反射度の違いや、動きのあるなしなど、さまざまです」
衣装においておそらく最も重要だったことが、竹内と町田らが演じるダンサーたちの踊っている姿を美しく見せること。そのため、本来のダンサーの衣装にアレンジを加えている。
「鈴木のレッスン着、また競技用どちらのパンツのデザインも、一般競技用よりはワイドに作っています。また素材も極めて柔らかく、その布量が動きによって風をはらんだり、脚の輪郭を表すような意図を持って制作しました。また杉木のタキシードの形状は、ダンス競技専門のブランドが拵えておりますが、そこにも現在の競技に使われているシルエットよりも、わずかにクラシックなモーニングの形状に戻して調整をしていただいております。ダンス界のコスチュームにもその時々の流行があるのですが、現在の高機能で合理的な雰囲気から、少し古典な雰囲気を盛り込ませたという意味です。女性二人のドレスも、非常に多くのデザインを作りました」
柘植にとって竹内と町田と組むのは初。本作でのセッションを「お二人とお仕事をご一緒するのは初めてでした。原作を表現するのにとてもフィットするキャスティングだと感じました。視覚的に原作に近づけていく作業が必要でしたので、そこをどのように取捨選択していけば良いのか。彼らに対してはそのような具体的な面を見つめていました。お二人ともとてもプロフェッショナルな方々ですので、深くビジュアルを追求し作りやすかったことに感謝しています」と振り返った。(編集部・石井百合子)


