「ウルトラマンオメガ」新章で投入した“劇薬” 武居正能監督が語る怪特隊設立&怒涛の伏線回収

7月にスタートした特撮ドラマ「ウルトラマンオメガ」(テレ東系6局ネットほか・毎週土曜午前9時~)も最終2話を残すのみとなった。シリーズも定着したニュージェネレーションウルトラマンシリーズ(以下、ニュージェネ)だが、本作では新章となる第2クールから怪特隊の結成や主人公オオキダ ソラトの記憶が徐々に明らかになるなど、大きく見え方が変わり、終盤に向けて加速度的な盛り上がりを見せてきた。年明け1月10日放送の第24話に向けて、メイン監督の武居正能がインタビューに応じ、転換点となった第14話「オメガ抹殺指令」&第15話「守る者たち」の撮影秘話を明かした。
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劇薬投入で急展開を迎えた第2クール
「ウルトラマンオメガ」の第1クールは、記憶を喪失したウルトラマン=オオキダ ソラト(近藤頌利)と、メテオカイジュウを操る青年ホシミ コウセイ(吉田晴登)の“バディ関係”に焦点を当てつつ、主にソラトとコウセイ、生物学者の卵のイチドウ アユム(工藤綾乃)の3人が怪獣と遭遇するという、「ウルトラQ」に近しいミニマムな展開が見られた。それが第2クールから、作品のスケールが一気に拡大することとなったが、これに関して武居監督は「劇薬をどこかで投入したかった」と語る。
「ウルトラマンシリーズを観て下さっているファンの中にはアニメファンも多いと思います。昔のアニメはそれこそ一年間50話が普通でしたが、それが2クールになり、現在は1クールがほとんどで人気作はシーズン制になっています。そうした状況の中、明確に“次の展開”を打ち出したほうが視聴者にとっても新鮮味を感じてもらえると思ったんです。今回、脚本家の根元歳三さんや足木淳一郎さんと共に、2部構成くらいのつもりで、シリーズ構成を考えました」
その作品の見え方を大きく変えた「劇薬」が怪特隊(怪獣特別対策隊)と言えるだろう。本作は、防衛隊はもちろん、ウルトラマンも怪獣も存在しない世界からスタートしており、それらをとりまく社会情勢や変化がそれとなく描かれて来たが、怪特隊が結成されたことで、王道のウルトラマンとしてのフォーマットが整ったように思える。こうした展開は、武居がメイン監督を務めた「ウルトラマンデッカー」がヒントになっており、「第2クールからの展開をガラッと変えて新しい見応えのものにするためにも、第14話&第15話から“怪特隊編”を立ち上げましたが、『デッカー』では主人公がGUTS-SELECTに入隊する過程を第1~3話を費やして描いていて、それに近いイメージが頭の中にありました」とその意図を明かす。
ニュージェネ最多!メイン監督が9本担当
武居監督は、作品の軸を担うメイン監督としては、物語の立ち上げとなる第1話~第3話及び、1クール目のクライマックスとなる第11話&第12話を手がけた後、3度目の登板として第14話&第15話を担当した。例年、第11話&第12話と第14話&第15話はシリーズ構成上の重要回として位置づけられてきたが、これまでの作品ではメイン監督が両方を手掛けるケースは珍しい。たとえば、前作「ウルトラマンアーク」では武居監督が第11話&第12話を手がけ、第14話&第15話をメイン監督の辻本貴則が担当した。武居監督がメイン監督を務めた「ウルトラマンR/B(ルーブ)」では自身が第10話~第12話の3話持ち、同じく「ウルトラマンデッカー」では第14話&第15話を手がけ、前者の第14話&第15話は市野龍一、後者では第9話&第10話を越知靖が担当した。本作ではメインの武居監督が撮る本数は当初から決まっており、後はどこを撮るかを選択する状況であったという。
「2クール目はソラトの記憶に迫る話にシフトする都合上、コウセイのドラマを第11話&第12話で完結させる必要がありました。それに加えて第14話&第15話は月面での戦いなど、かなり縦軸が入り組んだ内容だったこともあり、この4話はメイン監督である自分が撮るしかないなと思いました」。さらに第15話はヴァルジェネスアーマー登場回であり、「メテオカイジュウは第3話でレキネスの初登場は撮っていたけど、これまでアーマーの初登場回は担当してなかったんです。それもあって最強形態のヴァルジェネスアーマーは是非自分で撮りたかった」とその胸中を明かす。
武居監督は「できれば、後4本くらいは撮りたかった」と本作への並々ならぬ思い入れをうかがわせるが、実写の場合、アニメの監督のように全話に目を光らせることは難しい。そんな中、本作では、これから放送される第24話&第25話(最終回)も含めてニュージェネのメイン監督では、最多となる9本を監督したことになる。さらに放送スケジュールの中に3回組み込まれている「特別総集編」の演出も武居監督が手がけており、これまで以上に本編とのリンクがなされている。武居監督は「話数を多く持てた分、やりたいことがかなりやれた部分はもちろんありましたね」と手応えを述べる。
敵役は現行特撮シリーズのスーツアクター
第14話&第15話ではゾヴァラスの人間態(※番組クレジットでは「男」と表記)とソラトの激しいアクションも注目を浴びた。人間態を担当したのが、現在放送中の「仮面ライダーゼッツ」(東映)で、主役ライダーのスーツアクターを務める新田健太だったことも、特撮ファンの間で大きな話題となった。
「当初から中盤でソラトの生身のバトルを見せるエピソードを構想していて、これもやはり大きく見え方を変える思惑があったのはもちろん、ソラトのキャラクターをより魅力的に描くという狙いもありました。そもそもソラトのキャスティングは、第15話を見越してアクション経験者であることが、かなり上位の条件であり、それも近藤くんを起用した決め手のひとつだったんです。それに対してゾヴァラスの人間態は、キャスティング担当の島田和正さんと話をする中、セリフは声優さんの吹き替えでもいいから宇宙語にして、普通の俳優さんでアクションをできる方ではなく、アクションをメインにしている俳優さんを探ってもらうことにしました。それで島田さんが、JAE(JAPAN ACTION ENTERPRISE)に声をかけたところ、先方から『是非顔出しで使ってほしい』と挙がってきたのが新田さんでした。僕は初めての仕事だったけど、経歴的にも申し分ないですし、お芝居もできる方だったので、声に関しても新田さんにそのままやってもらうことにしました」
ちなみに近年のニュージェネは、海外での同時配信も踏まえて撮影がかなり先行している。本作も放送前に全25話を撮り終えており、新田の起用自体は、ゾヴァラスの人間態が先となる。「新田さんは、これまで舞台や映画、テレビと顔出しのお仕事が多く、いわゆるスーツアクターの仕事はあまりされてなかったそうなんです。だから、別の特撮作品で新田さんがスーツアクターを担当すると発表された際には、僕ら『オメガ』のスタッフも驚いたんですよ(笑)」
その新田演じるゾヴァラス人間態とソラトのバトル演出についても訊いてみた。「アクションはやっぱり受け手が大事ですね。たとえば、劇中、ソラトが壁を蹴って一回転するアクションを撮っていて、近藤くんももちろん頑張ってくれたけど、あれは土台となる新田さんが上手い。受ける側がプロだから、ソラトがカッコ良く見えるんです」と新田を絶賛。また、双方、超人的な能力を発揮しつつ、よくある採掘場などではなく、シチュエーションを変えながら都心部でバトルを繰り広げる展開も画的なインパクトがあった。「ロケ先の条件なども踏まえて、もうちょっとやりたかった気持ちはありますが、街中での撮影、それから人並を掻き分けながら戦うのは、かなり拘ったつもりです」
今だから明かせる!第2クールでの伏線回収
第15話では、ゾヴァラスに敗北したことを機に、ソラトは失われた記憶の一部を取り戻した。武居監督曰く「この時点では100%分かる形では描かず、ボカしているところもあります」とのことであったが、それが第22話「星を見つめる人」(監督:越知靖)に登場した、ゲネス人のアーデル(螢雪次朗)が語った内容から、これまで断片的に描かれていた場面の時系列が判明した。
「第15話でソラトの夢として描かれた月面での戦いは、第1話の冒頭、ゲネス人の要塞での戦いの続きです。このフルCGによる戦闘シーンの最後、何者かに攻撃を受ける描写がありましたが、この相手がゾヴァラスだったということです。第15話の夢の中ではゾヴァラスがヴァルジェネスハルバードから放った光線を浴びる主観映像で夢は途切れましたが、第11話のラスト、エルドギメラに敗北する際に一瞬、ソラトの記憶の断片としてフラッシュバックさせていて、第15話への布石を打っていました。そして第1話の土手で牛乳を飲んでいたコウセイが光跡を目撃しますが、これはゾヴァラスの光線を浴びた衝撃で記憶を失ったソラトが地球に落下していく、まさにその瞬間です。以上が物語上の流れになります」
また、ここで明かされた月面での戦いについては、そもそも本作では“月”が重要なモチーフとして扱われており、武居の監督回以外でも、たとえば第5話「ミコとミコト」(監督:越知靖)で、ミコの家の縁側でソラトがコウセイと電話する場面など随所に“月”が登場していた。「ソラトは記憶を失う前はオメガとして月を防衛ラインとして、ずっと外敵を撃退し続けてきた、というのが我々の解釈で、それで記憶を喪失した後もずっと月を見上げているんです」とこちらに関しても伏線回収がなされる形となった。
一方、ドラマ部分では、ソラトが明確に地球人への想いを露わにしたところも重要なポイントである。「第3話でソラトは『怪獣と向き合い続ければ思い出せる気がしてさ、俺のやりたいこと、俺がやるべきこと』と話していて、10数話かけて辿り着いたその答えは、怪獣を見詰めるというよりも、人と関わって人を見つめていたい、ということなんです」
それが劇中、ソラトが語った「みんなのことをずっと見ていたい、幸せでいて欲しい」の一言である。
武居監督は、番組立ち上げ時のシネマトゥデイインタビューで、「ウルトラマンオメガはどうして地球を守るのか、という彼自身が模索していく物語を描きたかった」とも語っていたが、「それをテーマにお話を作って行く上での代表的なセリフが第15話のソラトの例のセリフです。ソラトは、コウセイやアユムへの思いはもちろんとして、自身は記憶を失いながらも、これまで関わってきた全ての人たちのことを深く覚えていて、本当に地球人のことを好きになっている。この心境に至ったのはすごく説得力があるというか、非常にソラトらしいですね。ここは根本さんの書かれた脚本がすごく良かったですし、セリフも一切いじることなく、近藤くんに言ってもらいました。彼の絶妙な芝居もあってソラトの心情がダイレクトに伝わると思うし、実に感動的な場面になりました」と第2クールの立ち上げへの自信のほどをうかがわせていた。(取材・文:トヨタトモヒサ)


