「ウルトラマンオメガ」武居正能、赤きウルトラマンに込めた狙い 3度目のメイン監督で挑む“変革”の物語

「ニュージェネレーションウルトラマン」シリーズ最新作「ウルトラマンオメガ」(毎週土曜午前9時~、テレ東系列6局ネットほか)の第1話が5日、ついに放送された。怪獣のいない世界に突如として現れた巨大な生物。その騒乱の最中、「謎の男」とされる記憶を失った主人公のオオキダ ソラト(近藤頌利)はウルトラマンオメガに変身し、“謎の男”と出会った青年ホシミ コウセイ(吉田晴登)がその様を目撃する……。さまざまな要素を盛り込んで描かれる本作は、これまでにない新たなシリーズの幕開けとなった。初回放送にあわせて、メイン監督を務める武居正能がインタビューに応じ、「ウルトラマンオメガ」制作の裏側について語った。
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3度目のメイン監督を引き受けた理由

武居メイン監督は、「ウルトラマンコスモス」のフォース助監督(本編)を皮切りに、当時の円谷プロをはじめとしたさまざまな現場で研鑽を積み、2010年にテレビドラマ「TAXMEN」(第5&6話)および同年の「宇宙犬作戦」(第8&9話)で監督デビュー。現行のニュージェネには「ウルトラマンX」(2015)に助監督として関わり、翌年の「ウルトラマンオーブ」では第18&19話(+振り返り回の第13話)を監督し、以後、シリーズを支える監督陣のひとりとして欠かせない存在となっている。とりわけ濃厚な人間ドラマを得意とすることから、ファンの間では「ドラマの武居」として高い評価を得ており、「ウルトラマンR/B(ルーブ)」(2018)と「ウルトラマンデッカー」(2022~2023)の2作品では、メイン監督の大役を果たした。
テレビドラマにおける「メイン監督」とは、例外もあるが第1&2話及び最終回、または中盤の節目となるエピソードを手掛け、作品カラーを決定付ける重要なポジションとなる。また、企画段階から関わり、作品の方向性や世界観の確立、キャスティング及び登場人物のキャラ付け、またウルトラマンのような特撮ヒーロー作品では、MD(※マーチャンダイジング)展開も不可欠であり、ヒーローであるウルトラマンや怪獣などをいかに魅力的に描くかの手腕も問われる。
武居監督自身は、これまでにメイン監督を務めた2作品について、「『R/B(ルーブ)』は、2人の兄弟をウルトラマンとした斬新な設定で、こういったチャレンジを通じて、新たなファン層を取り込みたいと思いました。そして『デッカー』は、若い隊員たちが苦難を乗り越え、成長して1人前になるという、王道中の王道のドラマを目指しました」とそれぞれ振り返る。
そして本作「ウルトラマンオメガ」は、武居監督にとって3度目のメイン監督となる。本人曰く「メイン監督は『ウルトラマンデッカー』でやり切った」という中でのオファーであったというが、本作では、作り手として触手が働く大きな理由があった。
「先ほど話したように、メイン監督を務めた2作品にはそれぞれに強い思い入れがあるんですけど、『R/B(ルーブ)』は、“兄弟ウルトラマン”など大枠が決まった後に合流する形で、『デッカー』は、ご存知のように『ウルトラマンダイナ』をリスペクトした作品だったのと、前作『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』を踏まえた“続編”だったんですよね。そういう意味では、『ウルトラマンオメガ』は、キャラクターから世界観まで、こちらで主導権を握り、ゼロベースで作れる余地がありました。そこにやり甲斐を見出したのが、3度目となるメイン監督を引き受けた一番の大きな理由になります」
その一例として武居監督が挙げたのが、現在公表されているレキネス、トライガロンのメテオカイジュウである。登場はこれからになるが、こうしたキャラクターにも武居監督の狙いがしかと反映されている。「元々のアイデアは、単なるカプセル怪獣的なものだったんです。それが企画を揉んで行く中、ソラトのバディとなるコウセイが操る設定になり、ウルトラマンオメガをサポートするという形に大きく発展しました。ですから、全く違う形になったわけです」
“全身が赤いウルトラマン”誕生秘話

ヒーローであるウルトラマンオメガについても、武居監督の拘りが詰まっている。去る4月26日に第一報が解禁された際には、頭部も含めて赤がメインカラーのウルトラマンオメガの姿は、ある種の驚きと共に迎え入れられた感があった。
「今の時点ではあまり語れないのですが、ウルトラマンオメガは、ウルトラマンブレーザーやウルトラマンアークと同様、基本的に作品内には彼しかウルトラマンは登場しません。また、これまでM78星雲やU40など、ウルトラの故郷が描かれた作品もありましたが、それらとも一切関係がありません。そういう新しい基軸の世界観を強く印象付けるため、全身を赤いウルトラマンにしました。トサカやカラータイマーといったいわゆる定番の要素だけは抑えつつ、他は全て変えていて、特に顔やトサカまで赤いのは、映画ではウルトラマンゼアス、テレビでは『ウルトラマンZ』のベータスマッシュがいましたが、テレビシリーズのいわゆるノーマルな姿では初めてになるので、これだけでかなりのインパクトが伝わったと思います」と手応えを語る。
また企画当初に武居監督が提案したのが、頭部のトサカ=オメガスラッガーを変身アイテムにすることで、「これは最初の打ち合わせに臨む際に、全身を赤にすることも含めて考えていました」。ウルトララマンシリーズにおける「スラッガー」とは、設定では「宇宙ブーメラン」と呼称されたブーメラン状の武器であり、先に挙げたウルトラセブンのアイスラッガーを原点に、ウルトラマンゼロのゼロスラッガーなど、これまでにも何度か登場してきた。それを今回、「ニュージェネでは、エクシードXのエクスラッガーのように主人公が手にする強化アイテムとしてはあったけど、紛れもない変身アイテムとしては初になります」と「オメガ」ならではの新たな要素として挙げる。
またニュージェレーションウルトラマンシリーズでは、昭和や平成のウルトラマンシリーズでは定番だった、いわゆる防衛隊が活躍する作品と、登場しない作品(或いは背景に留め、物語の中心とはならない作品)に大別することができる。たとえば、武居監督がメイン監督を務めた「R/B(ルーブ)」や前作「アーク」は後者となり、本作「オメガ」もまた防衛隊が登場しない世界観となる。
「本作の作品世界を構築する上では、主人公のソラトを記憶を失った人物と設定して、ひとつのフックにしたところもあるのですが、そこに関しては、今はまだ詳しくお話できません。もうひとつ挙げるとすれば、怪獣のいない世界が舞台になるということです。当然、防衛隊自体も存在しません。これにはいろいろな捉え方があると思っていて、僕の解釈では巨大な生物が出てくる映画くらいはあるかもしれないけど、この世界に“怪獣”という言葉は存在しないんです。そんな中、ソラトがこの世界で初めて“怪獣”と口にします」

放送されたばかりの第1話では、エピローグでソラトの口から「怪獣たちとの目覚めの刻」との言葉が発せられており、前述の武居監督の発言はこのことを指している。そして、後者の「目覚めの刻」については、番組のキーワードでもあり、「最後まで見届けてもらえれば“ああ、そういうことか”と納得してもらえると思います」と述べた。続けて「第1話では“ウルトラマン”という単語が一切出て来なかったことに気付いた人もいるかもしれません。ここにもちゃんと仕掛けがあるので、楽しみにしていただければと思います」と付け加えた。
また第1話では、ソラトと地球人のコウセイの出会いが描かれており、今後、両者はバディ関係を築いていくことが公表されているが、この辺りにはどのような狙いがあるのだろうか。
「二人のバディ関係については、村山和之プロデューサーからの発案もあるのですが、先ほど話したメテオカイジュウも深く関わってきます。この設定を決めていく過程で、本来ならば、こうしたアイテムはウルトラマンが使うところですが、今回のオメガは憑依型ではなく、オメガ自身が変身者であることが大前提です。なので、従来のように主人公がインナースペースでアイテムを操作する場面を描き難いという事情がありました。そこをいろいろと詰めていく中、浮上したのが、メテオカイジュウを操り、オメガをサポートする第三者を登場させるという案でした」
メテオカイジュウについては、それぞれ異なる性格を有する意思のある存在と設定されている。特撮のみならず、本編でもコウセイとメテオカイジュウが交わる場面が描かるそうで、公開中の「ダイジェストPV」でも、そうした絡みを観ることができる。「ウルトラマンという存在は変身者の感情がそのままダイレクトに伝わる存在です。それに対して怪獣は基本的にしゃべらない存在だけど、そこに意思を持たせるなら、当然、芝居が生まれるわけだし、やはり、それを操る人間がいたほうが、ドラマとしてより幅が生まれると思いました」と武居監督は狙いを語る。
『ゴジラ-1.0』の「白組」が担当したVFX

特撮面においては、第1話の冒頭で、ウルトラマンオメガが宇宙空間で縦横無尽に戦いを繰り広げるシーンが描かれた。ニュージェネでは、このような空間的な描写をする際には、GB(グリーンバック)で素材撮影したスーツによるアクションに、背景を合成して成立させることが多い。しかしながら、この一連では、3DCGモデルによるウルトラマンオメガを始め、全てがフォトリアルなビジュアルで描写されており、映像の迫力はもちろん、まるでスーツで撮影したのかと見紛うばかりのウルトラマンオメガに驚かされた視聴者も多いのではないだろうか。
これに関しては、既にクレジットで確認している人がいるかもしれないが、昨年、全米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』で大きな注目を浴びた総合映像制作プロダクション「白組」が担当している。
白組からは「ゴジラ・フェス2022」で公開されたショートフィルム「ゴジラVSガイガンレクス」を監督した上西琢也がCGディレクターとして招聘され、また武居監督とは『劇場版ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』で組んだVFX監督の神谷誠が3DCGスーパーバイザーとして加わる形で、このパートの制作が行われたという。
「一応台本に即した場面にはなっているんですけど、それを踏まえて上西さん、神谷さんと“こうした要素をいれたほうが面白いんじゃないか?”とアイデアを出し合って構成しました。自分ひとりだけでは、とてもじゃないですけど、ここまで壮大な場面にはならなかったですね。また3DCGでモデリングしたウルトラマンも、僕と神谷監督が組んだ「R/B(ルーブ)」の劇場版や『タイガ』など一部ではやってはいましたが、ここまで本格的に使うのは久々になると思います。ここは冒頭の“掴み”として、村山プロデューサーの強い要望で実現した場面で、子どもたちにも、今までに観たことがない場面を楽しんでもらいたいと思ったし、第1話ということもあり、それなりの予算を投じ、かなりの時間を費やして作り上げました」
一方で、従来のミニチュアワークにスーツでのキャラクターアクションも健在であり、第1話では熱線怪獣グライムの頭部を狙っての降下しながらのオメガの飛び蹴りや、ローアングルでのショルダータックルなど、武居監督らしい力強いカットが多数見られた。「僕自身は、最近はそれほどテクニカルな部分には拘らず、どんどんオーソドックスになっていて、“撮り切り”の面白さを大切にしたいと思っています。もちろん今のご時世、合成は必要不可欠な技術だし、撮り切りにはトライ&エラーはあるけど、基本的には撮り切れるものは撮るという方針です。そういうところで決して派手ではないかもしれないけど、地に足の付いた、非常に力強いウルトラマンや怪獣の描写を見せたい。そこを念頭に置いてやったところがありますね」と語り、さらに「第1話の冒頭のビルの倒壊は、あれだけでほぼ2日、仕込みから10時間くらいかけ準備していますし、第2話ではダイジェストPVでも映っていますが、大規模なダムのセットを前にしてのバトルも描きました」と特撮シーンの魅力を伝える。
「ウルトラマンオメガ」は“成長物語”ではなく“変革の物語”

特撮ヒーロー作品は、現在では「若手俳優の登竜門」として定着しており、これからの活躍が期待される新人が抜擢される機会が多い。前作「ウルトラマンアーク」で主人公を演じた戸塚有輝や、武居監督がメイン監督を務めた「ウルトラマンデッカー」の松本大輝もそうしたケースになるが、本作では、舞台を中心におよそ10年のキャリアを持つ近藤頌利(ウルトラマンオメガ=オオキダ ソラト役)を筆頭に、子役出身の吉田晴登(ホシミ コウセイ役)、第12回全日本国民的美少女コンテストグランプリを経て多数の映画、テレビに出演している工藤綾乃(イチドウ アユム役)と、安定した演技力を持つ俳優陣が抜擢された。
これについては、武居監督自身も「これまでは経験の少ない若い子たちを、ある程度型にはめつつ、現場で成長させていくやり方が多かったんですけど、今回は3人とも、それ相応にキャリアのある俳優を集めたので、まずはその必要が一切ありませんでした。現場では、これから撮る場面をどうするか、もちろん方向性は話し合いますが、それぞれに役柄をきちんと作り上げているし、3人の芝居を転がしていく空気感を重んじ、ある意味、下駄を預けたようなところがありました」と従来作品との違いを述べる。
なお、工藤演じるアユムは第2話からの登場となるが、第1話の太陽倉庫商会で描かれたソラトがコウセイの出会う一連の場面は、カットを細かく割らず、長回しを基本として撮影が行われたという。そうなると、芝居の“間”は近藤と吉田の二人に委ねられ、それ相応の演技力が求められることとなるが、そこに前述した“下駄を預ける”との武居監督の意図が読み取れるかと思う。
また、出演する俳優と役柄の成長を重ね合わせるのも、特撮ヒーロー作品のひとつの見方であるが、武居監督は前述の発言も踏まえて、本作を「成長物語ではなく、変革の物語です」と力説する。その上で、「ウルトラマンオメガはどうして地球を守るのか、という彼自身が模索していく物語を描きたかった」と語ると共に「第1話ではソラトとコウセイとの出会いを描き、二人はバディ関係になっていくわけですが、正直、第1話を終えた段階だと、ソラトは記憶も失っているし、そもそも宇宙人だから地球のことも知らないわけですし、視聴者の皆さんは、まだまだフワッとした感触があるかと思います。今後、ソラトはどんどん変化していきますが、ウルトラマン自身を描くという点においては、ソラトを描くという意味合いのほうが強いかもしれません。それひとつ取っても『オメガ』は、これまでにない特徴的な作品になったと自負しています」と本作が持つ独自性をアピールした。(取材・文:トヨタトモヒサ)