『アギト-超能力戦争-』井上敏樹、悩まず執筆した25年後の物語 氷川誠ら登場人物に強い愛着

今年25周年を迎えた東映特撮「仮面ライダーアギト」(2001~2002)の物語を執筆した鬼才・井上敏樹が、25年の時を経て再び“アギト”の世界に帰還。超能力が人類を分断する新たなる戦争を描く映画『アギト-超能力戦争-』で何を描き、何を伝えたかったのかーー。テレビシリーズから25年ぶりに復活した“アギト”への想い、新作映画の執筆エピソードを明かした。
氷川誠が変身!仮面ライダーG7が刀を構える『アギト-超能力戦争-』キャラクターポスター(全3種)
印象に残っている「あかつき号事件」
平成仮面ライダーシリーズにおいて、第1作「仮面ライダークウガ」を経て、本作ではメインライターを務めた井上敏樹。『アギトー超能力戦争ー』には、当時のプロデューサー陣(白倉伸一郎、武部直美、塚田英明)がエグゼクティブプロデューサーとして名を連ねており、オファー自体は白倉から受けた。「オファーが来た以上、断る選択肢はない」と述べる井上だが、同時に深い感慨を覚えることもなかったという。「最初に『アギト』と聞いたけど、特段驚くこともなかったね。気持ちとしては淡々としたもの。まあ、『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』が当たったんだろうな。だから『次はアギトなんだ』と。そういう感じだったよね」
25年を経て再び「アギト」に向き合うこととなった井上だが、当時を振り返ると、「あかつき号事件」が強く印象に残っていると語る。「あかつき号事件」とは、物語が始まる半年前に起きた海難事故で、アンノウン(※ロード怪人とも)に襲われる人間が、本事件の生存者であることなど、回を進む毎に謎が謎を呼び、終盤(第42話「あかつき号」)で、ついに全ての謎が解き明かされるというストーリー展開がなされていた。およそ1年近くにわたって縦軸を盛り込み、この仕掛けが多くの視聴者を取り込むことに成功したとも言えるが、井上によれば最初の時点では、着地点は決めてなかったという。
「漠然と“あかつき号事件”というのを出しておけば、後からどうにでもなるだろうって。実際、後からなんとかなった(笑)。奇跡的だったね」。井上の話はさらに続く。「しかも東映はそこに関しては一切何も言ってこなかった。それがすごいところだよね。それである日、俺のほうから、あかつき号事件の謎を明らかにすると言ったら、白倉たちが集まって『ほうほうそうそれで?』と。で、一体誰がこの面倒くさい話を撮るんだと(笑)。あれは撮るほうが大変だったろうね」
「仮面ライダーアギト」は全員が主役
話を『アギト-超能力戦争-』に戻すと、今回の執筆にあたっては、特に当時のテレビシリーズを観返すようなことはしなかったという。「『アギト』については、けっこう覚えていた。改めて『アギト』の世界を書く上で困ることはなかったね。特にキャラクターを覚えていれば、筆も進む」と振り返る。同時に「俺は主役よりも脇役に情がいってしまうタイプ」と前置きした上で、印象に残っているキャラクターとして挙げたのが、警視庁未確認生命体対策班のリーダー・小沢澄子(藤田瞳子)と警視庁捜査一課の北條透(山崎潤)だ。「あの2人は掛け合いの面白さだろ。口の悪い2人がののしり合う。そこは当時も書いていて面白かったし、視聴者も楽しんでくれていたんじゃないかな。今回もノッて書くことができたよね」
本作では、小沢&北條はもちろん、津上翔一、氷川誠、尾室隆弘、風谷真魚、美杉義彦、美杉太一、木野薫と当時のキャラクターが、全てオリジナルキャストで再登場するのも話題を呼んでいる。
「脚本を書く上で、どういう手順を踏んだかと言えば、まずは当時の俳優たちが全員出演できる、ということだった。それでリアルに地続きで25年後の世界を描くことに決まった。それに関しては何か紆余曲折があったわけではなく、必然的にそうなったね」
そんな中、当時と大きく異なるのが主人公である。テレビシリーズでは、仮面ライダーアギトに変身する記憶喪失の青年・津上翔一(賀集利樹)が主人公であったが、本作では仮面ライダーG3(G3-X)である氷川誠が主人公に据えられている。その氷川を演じるのは、「アギト」で注目を集め、現在では実力派俳優として広く認知されている要潤である。
これについて井上は「氷川を主人公にするのはマストな条件だったけど、『アギト』は全員が主役だからね。俺の中では誰が主役であろうが構わない」と断言。実際、「アギト」では、3人のライダーが並列に描かれ、お互いがお互いの正体を知らずに交わっていく群像劇としての側面も持ち合わせていた。一方で、「翔一は飄々とした人物だから逆に主役として書くのは難しかった。それに比べると氷川誠は、ごく普通の人間で、あくまで一般人として設定していた。それもあって、今回の映画では、主役としてはむしろ書きやすかったよね」
多彩なキャラクターが大勢登場
「25年後の続編」とのことで、登場人物が、それぞれどういう時間を経過してきたのかも気になるところだ。それ相応の歳月を生きた人生観を投影する必要があるのではないかと思うが、それに対しては井上らしい持論を展開する。「別にそんなことは考えないよ。25年経ってもたいした進歩なんてするものじゃない。だいたい人間なんてそんなものなんだよ(笑)。そういう意味ではほぼ昔のまま」。ただ、そんな中、例外として挙げたのが北條である。「俺の中では北條はちょっと進歩していたかな。あいつは氷川誠を信じ続けていて、ああいうタイプは一回友情が芽生えると非常に熱い奴なんだよ」と思い入れを吐露する。
むしろ、執筆に際して苦労したのは、それぞれが置かれている25年後の立場であったという。「北條が警察を辞めて私立探偵になっているとか、氷川が刑務所にいるとか、その辺りの設定にはかなり時間をかけた」と語る。中でも井上が「やっぱりここが一番面白いじゃないか」と胸を張るのが、氷川受刑者が収監されている刑務所のシチュエーションだ。「俺が大変だったのは考えつくまで。後はいかに料理するかは監督次第だよね」
その監督を務めたのが、テレビシリーズのメイン監督だった田崎竜太(※崎はたつさきが正式表記)である。第1話を始め、前述した第42話「あかつき号」など、合計10本のエピソードを担当した他、テレビスペシャル「仮面ライダーアギトスペシャル 新たなる変身」及び『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』も、井上が脚本を書き、田崎が監督した。近年もスーパー戦隊シリーズ「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」で名コンビぶりを発揮したが、田崎については「あいつはホンを読みながら、いいのか悪いのかジーッと考えて、結果、そのまま無言で去って行くタイプ。田崎との仕事でホン直しをした記憶はほとんどない。それは今回も変わらなかった」と信頼ぶりをうかがわせる。試写で観た本作についても「やっぱり田崎は上手いと思ったよね」と脚本家の立場から絶賛している。
自分でもいいホンだと思った
前述した通り、「アギト」は群像劇の要素が強かったため、多くのキャラクターが登場していた。さらに本作では当時の主要人物に加え、敵味方問わず多数の新キャラクターが登場する。中でも、最新の特殊強化装甲服を装着する葵るり子/仮面ライダーG6は、モデル・タレントのゆうちゃみという意外なキャスティングが話題を呼んでいるが、破天荒で正義感の強いるり子の役柄もまた、ひと際強い存在感を放っている。
「るり子については、小沢澄子はGユニットの管理官で、直接戦うわけじゃないし、氷川は刑務所、尾室は警視正に出世して現場にいないから、誰か新しいキャラを作る必要があった。これもまた必然的にそうなったんだよ。ただ、白倉は最初、男性ゲストを想定していたけど、俺としては男で書く気はなかった。これはもう女性でなくてはらない役柄」とこだわりを見せた。続けて、「Gユニットには、(G3とG3-Xを装着する)香川と杵島の2人も作った。この2人はおバカキャラだけど、スルッと入って行く立ち位置にした。登場人物が多い分、そういうキャラも必要なんだよね」と脇を固めるキャラの重要性を説いた。
また『超能力戦争』のタイトルが冠されているように、本作では大勢の超能力者が登場して、彼らとの戦いが迫力の映像と共に描かれる。「超能力を発揮する設定があっただろう。白倉も超能力を描いた日本映画はあまりないと言っていたし、それを生かした話にすることにした」と語り、ルージュ、鬼頭、渋川、速見と一癖も二癖もあるキャラクターと、彼らが使う多彩な超能力が井上によって考案。ここが本作ならではの大きな見どころになっている。
「俺はハコを丁寧に切る(※脚本執筆において、大筋をシーンごとに区切り詳細を書き加える作業)ほうだから、誰をどのシーンで出すか、どういう能力を使わせるかは、最初にきっちりと決めた上で脚本を書いた。今振り返ると、人数が少し多過ぎたかもしれないけど、ルージュ(岩永洋昭)や指から銃をバンバン撃つ黒谷(今井悠貴)なんかは面白いキャラになったよね。ただ、渋川(青島心)のピンポン球を打つのは俺のアイデアじゃない。田崎が考えたんじゃないかな。それから黒谷を味方にすることで、敵味方に分かれた超能力者の同士のバトルを成立させた」
いずれもアクの強い登場人物ばかりであるが、ファンとしては、こうしたクセ強キャラを井上脚本に期待している節もある。井上自身は、これについてどのように思っているのだろうか。「自分では突飛なものを考えないようにしているんだよね。どこかにこういう人間はいるんじゃないかと思わせる人物を書いているつもり。あまり突飛すぎる人間ばかりだと、視聴者がついてくれないと思う。後は俺が書いていて楽しい人物でなきゃ。それが何より一番だよ」
またテレビシリーズだった「アギト」を映画にする上では「構成が違ってくる」と語る。「それは当たり前のことだし、特に苦労はなかった。1時間30分という尺が頭に入っていれば、ハコを切っている内に自然とそうなっていく。どちらかといえばテレビの尺で短く詰めるほうが大変。映画は尺が長い分、色々できるから好きだね。そういう意味でも今回は書きあがった際に手応えがあった。自分でもいいホンだと思ったよね」
最後に井上が考える「アギトらしさ」について訊いてみた。「やっぱりキャラクターだよね。それぞれが主人公になるように設定されていて、みんなが美味しい場面を持っているし、今回も当時と変わることなく公平に描いたつもりだよ。そこがやっぱり『アギト』の魅力なんじゃないかな。後は大画面で観るキャスト。さすがにみんな年を重ねたけど、それがまた今回の『アギトー超能力戦争ー』ならではの味わいに繋がっていると思うね」(取材・文:トヨタトモヒサ)
映画『アギト-超能力戦争-』は全国公開中


