「豊臣兄弟!」脚本・八津弘幸、賛否に思い「自分が描きたいものを見失わないように」

「豊臣兄弟!」(NHK総合・毎週日曜午後8:00ほかで放送中) で大河ドラマに挑んでいる脚本家の八津弘幸。一年がかりの長丁場─それは、数々のヒット作を生み出してきた八津にとっても想像を絶する道のりだという。史実と向き合いながら、いかにしてオリジナルストーリーとして新たな命を吹き込むのか。史実と創作の狭間で揺れ動きながらも、自身の信念を貫く。初の大河ドラマ執筆に懸ける脚本家が、赤裸々な思いと、熱き矜持を語った。
「超えてはいけない一線」を見極め、極限まで攻め抜く
戦国時代を舞台に、後に天下一の補佐役と称された豊臣秀長(小一郎/仲野太賀)を主人公にした本作。激動の乱世において、天下人となる兄・秀吉(池松壮亮)と秀長の兄弟がいかにして支え合い、数々の試練を乗り越えていったのか。史実を踏まえつつも、大胆な新解釈と魅力的なキャラクター像を随所に盛り込み、現代に通じる人間ドラマとして多くの視聴者の心を惹きつけている。
ドラマ「半沢直樹」(2013)、「VIVANT」(2023)、映画『爆弾』(2025)など、数多のヒット作を手がけてきた名手であっても、長期間にわたる歴史絵巻の執筆は途方もないエネルギーを要求される。物語が佳境に入るにつれ、己の体力が少しずつ削られていく感覚。かつて経験したことのない疲労感のなかで、八津は今、凄絶な戦いの真っただなかにいる。「今日もちょっと頭がぼやっとしていて、ちゃんと受け答えができなかったら申し訳ないなと思うぐらいな感じでここにいるんです。後半に行くに従い、どんどん自分の余力も削られていって。こんなふうにここまで自分のキャパを超えているかもしれないと思ったことは今まで多分なくて、やっぱり大河だなと」と本音を述べる。
史実という確固たる縛りがある以上、クリエイターは時に表現の難しさに直面する。特に、秀吉周辺の物語は幾度も映像化されてきた題材だ。その中で新鮮さを生み出すため、八津が自らに課したのは、史実とされているものを重んじつつ、想像力の翼を極限まで広げることだった。
「“ここでこの人は死んでいない”とか、絶対的な部分は犯してはいけません。ただ、そこを守りつつ、想像力を働かせて“ここまでだったらいけるんじゃないか”という部分は極力攻めようと思っています。今の人たちが見て面白いと感じるほうにベクトルを向けているんです」と作劇手法を語る。
小一郎が柱に名前を刻む印象的な場面や、僧侶に変装する奇抜な展開。さらには信長を慰めるために羽柴家が「わちゃわちゃ」と騒ぐコミカルな描写も、「ここまでだったらいける」という緻密な計算の上に成り立っている。
八津は「物語が進み、小一郎や秀吉が偉くなるにつれ、変わらざるを得ない部分もありますが、切っても切れない2人の絆の楽しい雰囲気はこの先も大事にしたい。どんな人も白か黒かで割り切って生きているわけではなく、黒に染まることがあっても気持ちは白でいたいと思うもの。結果として織田家を乗っ取るような形になっても、そこには豊臣兄弟のピュアな思いが根っこにあると見せていけたら」と今後の展開について述べていた。
朝ドラから大河へ。戦乱の世に灯す現代への希望
かつて連続テレビ小説「おちょやん」(2020~2021)の執筆を経験した八津にとって、同じ長編であっても大河ドラマとは全くの別物だった。一話の尺の長さと重厚なテーマに真正面から向き合う日々。そうした環境で、筆を執る中でどうしても直視せざるを得なかった「現代の世界情勢」とのリンクについて、静かな声で語り始めた。
「朝ドラの時も大河でも、一話、一話最後まで長く楽しめるようにというスタンスは同じですが、やっぱり大河は一話が長く、向き合う感覚が全然違います。また大河を引き受けた時、ちょうどロシアがウクライナへ侵攻したタイミングだったので、戦国時代をどう描くか最初から考えさせられました。理不尽を受け入れざるを得なかった時代を描くことが一つのアンチテーゼになればいいなと。最後まで見終わった時、それが現代まで地続きで繋がり、今の人たちに希望のように見えればと思いながら書いています」と作品に託した願いを明かす。
賛否の声を越えて。一生に一度の挑戦に懸ける矜持
挑戦的なアプローチは、時に波紋を呼ぶ。歴史ファンからのSNSを通じた声は、鋭い刃となって心をえぐることもあるが、その反響の大きさは注目度の裏返しでもあるとプラスに考え、決して視線をそらさず、自らの作品に対する誠実さと誇りを胸に刻み込んでいる。
「歴史を愛しこだわっている方々がたくさんいるので、ご批判はある程度想定していました。ご意見はありがたく受け止めつつ、目の当たりにするとつらくはなるのですが、自分が描きたいものを見失わないようにしています。肯定してくれる方々がたくさんいることも励みになっています。大河ドラマを執筆できるなんて一生に一回できれば本当に幸せなこと。だから絶対に悔いは残したくない。どれも苦心しているからこそ、出来上がってきたものが本当に愛おしいんです。正直、これ以上のものは今後書けないんじゃないかと思っているくらい、僕の代表作です」強い決意をにじませた。
途方もない熱量と覚悟で紡がれる「豊臣兄弟!」。歴史という強固な枠組みのなかで、八津は己の持てるすべてを注ぎ込み、争いの虚しさや登場人物たちのピュアな思いを現代に問いかけている。批判を恐れず限界に挑み続ける八津の筆が、クライマックスに向けて豊臣兄弟の絆をどのように結実させるのか──後半戦にも期待したい。(取材・文:磯部正和)


