Netflix「ガス人間」なぜハマる?3つの視点から魅力分析

 肉体をガス化する男を描いたドラマシリーズ「ガス人間」がNetflixで配信中だ。小栗旬蒼井優ほか日本映画界を代表する豪華キャストが出演した本作は、7月2日の配信開始直後から2週連続で国内Netflix週間TOP10(シリーズ) の1位、グローバルでもTOP10入りを果たすなど大ヒットを記録している。「ガス人間」の何が人々を惹きつけるのか? ストーリー・キャスト・映像を軸にその魅力を探ってみたい。※一部ネタバレあり(文:神武団四郎)

【画像】誰かわからない…!「ガス人間」激変のキャストたち

ガス人間は社会の歪みを可視化する装置

テレビの生放送中に大学教授の身体が突如として膨張し、爆死する前代未聞の事件が発生

 本作は1960年に公開された東宝の特撮映画『ガス人間第1号』のリブート版。東宝特撮といえば『ゴジラ』を思い浮かべる人も多いと思うが、それとは別に特撮を生かした一般映画として“変身人間”をテーマにしたスリラーもシリーズで製作されていた。『美女と液体人間』(1958)、『電送人間』(1960)に続いて製作された『ガス人間第1号』は、人体実験で肉体がガスになる怪人にされた青年が思いを寄せる女性のために犯罪を繰り返す物語。ロマンスや刑事とのせめぎあいなど、人間ドラマに焦点をあてた大人向けのエンタテインメントだった。

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 オリジナルの“ガスになる男”をモチーフに刷新された本作。その魅力のひとつが、リアルな社会にリンクした世界観だ。テレビの生放送中に殺人を実行したガス人間は、その直後メディアを通して犯行を表明し、さらなる殺人を予告する……。そんな衝撃シーンで幕を開ける本作は、正体不明のガス人間と、彼を取り巻く警察やマスメディア、動画配信者、政治や行政、そして裏社会の軋轢を軸に展開する。

 製作総指揮と脚本を手がけたのはヨン・サンホ。日本でも話題を呼んだ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)や、Netflixの「地獄が呼んでいる」(2021・2024)や「寄生獣 -ザ・グレイ-」(2024)などのドラマシリーズでも日本のファンを魅了した実力派クリエーターだ。神出鬼没の怪物が社会を震撼させる展開は、ゾンビや超常現象、異星生命体によって既存の社会やシステムが崩壊するさまを描いてきたヨンらしい。

 しかし、ガス人間の影響で社会が機能不全に陥ったり、パニックが起こるわけではない。むしろ大衆は興味本位でガス人間というコンテンツを消費しているようだし、ガス人間を追う側も多くはその力を利用しようとするパワーゲームのプレイヤーだ。そんな彼らを通して描かれるのは、社会が「壊れる」さまではなく、この社会が「いかに壊れていた」のかが明かされるさま。本作のガス人間は、社会の歪みを可視化する装置なのである。この社会は誰によって誰を犠牲に回っているのか、エピソードを重ねることに明かされる理不尽な構造が観る者のを心を逆なでする。

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 全エピソードを監督したのは、障がいを持つ兄妹の日々を描いた『岬の兄妹』(2018)で長編デビューして以来、社会の少し外側で生きる人々を見つめてきた片山慎三。師ポン・ジュノ譲りのエンタメでありながら時代性や批判性に軸足を置くスタンスは、本作でも貫かれている。

広瀬すず&林遣都の兄妹はスピンオフが観たくなるほど

岡本刑事(小栗旬)と甲野記者(蒼井優)

 ガス人間の物語を彩るのは、日本映画界を支える実力派がずらり揃った豪華なキャスト。ガス人間による事件を担当する主人公の刑事・岡本を小栗旬、最初の犠牲者の殺害現場に居合わせた報道記者・甲野京子を蒼井優が演じている。元恋人同士だった彼らは、捜査員と目撃者として再会。京子への未練をかすかに漂わせる岡本と、突き放すような態度で接する京子。噛み合わない2人を小栗と蒼井が絶妙な距離感で演じ、物語にリアリティを与えている。

動画配信でガス人間のスクープを狙う兄妹を演じるのは林遣都、広瀬すず

 小栗・蒼井とは対局の存在だが、コンビネーションでいえば兄妹で動画配信をしている富士太と華歩を演じた林遣都広瀬すずもすごい。成功を夢見て底辺生活を送っているホラーマニアの富士太と、顔の痣を気にして裏方で舵取り役に徹する華歩。トリッキーで一見近寄りがたい雰囲気をぷんぷん放つ二人だが、セリフの間やふとしたしぐさにかいま見せる兄妹愛や絆が実に愛らしい。あの手この手でガス人間を追いかけるポンコツ探偵ぶりなど、2人を主人公にしたバディ物のスピンオフが観たくなるほど面白い。遣都&すずファンならずとも必見である。

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タイトルロールのガス人間を演じるUTAは本作が俳優デビュー

 ガス人間を演じるのは、本木雅弘を父、樹木希林を祖母に持つモデルのUTA。これが芝居初挑戦とは思えないハマりぶりで、感情を出さないガス人間と、人懐こい“ガス化”以前の演じ分けが見事。ルックスを含め鬼畜度満点な反社上がりの会社社長・森役の竹野内豊の没入ぶりや、その若き日を演じた野村周平のドチンピラぶりもナイス。コワモテ系から人情派まで芸達者な個性派たちのせめぎあいは、クセの強い役づくりも手伝って、観る者をぐいぐい引き込んでいく。

『ゴジラ-1.0』の白組による圧巻のVFX映像

特撮描写も凄い!

 東宝特撮シリーズに名を連ねる『ガス人間第1号』のリブートである本作の魅力も、ガス人間の特撮によるところが大きい。オリジナル版のVFXはドライアイスの白い煙で作成。空気圧で操ったり、青白く発光するアニメーションに煙を合成するなど工夫が凝らされたが、今作はCGで意思を持つように自由に動き回る姿が描かれた。ターゲットの鼻や口から体内に侵入し肉体が破裂するまで臓器を膨張させたり、ガスの塊になって猛スピードで宙を飛ぶなど、その描写はどれも圧巻だ。

 VFXを手がけたのは『ゴジラ-1.0』(2023)などの白組。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』など強豪を押さえ、『ゴジラ-1.0』でアカデミー賞視覚効果賞に輝いたのは御存知の通り。アクションの見せ場はもちろんだが、音もなく空気中を漂う姿や皮膚が溶けるようにガス化する変化カットなど、地味だが説得力ある映像も心に残る。『ゴジラ-1.0』ではリアルな水のシミュレーションで話題を呼んだ白組。水と同じく日常にあふれている気体の描写は、違和感があると一気に冷めてしまうもの。タイトルロールでもあり、その仕上がりが作品を左右してしまう重責を白組はみごと果たしている。

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 凝りに凝ったセットや重厚な音楽など、他にも見どころの多い本作。細部をじっくりチェックしたり、表情なセリフの端々に散りばめられたキャラクターの心情を堪能するのもお楽しみ。ネタバレにはならないと思うので記しておくが、浦沢直樹の漫画「20世紀少年」の大ファンを公言しているヨン・サンホが本作に取り入れたそのエッセンスにひたるのもよいだろう。当初は映画としてスタートしたが、ドラマシリーズに変更されたのも納得の見ごたえある作品になっている。

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