「ガス人間」広瀬すず&林遣都のヘアメイクは実在のミュージシャンから発想

小栗旬、蒼井優ら出演のNetflixシリーズ「ガス人間」(配信中)で強烈なインパクトを放つ、広瀬すずと林遣都演じる動画配信者の兄妹。タイトルロールである謎の怪人“ガス人間”にかかわるキーパーソンとなっており、広瀬&林ともに驚くような変貌を遂げているが、その裏側を人物デザイン監修の柘植伊佐夫が明かした(※一部ネタばれあり)。
東宝とNetflixが初タッグを組み、東宝の伝説的映画『ガス人間第1号』(1960)をリブートする本作。生放送番組に出演中の大学教授の身体が突如として膨張し、爆死する前代未聞の事件が発生。そんな矢先“ガス人間”(UTA)を名乗る男が連続殺人を予告し、刑事・岡本賢治(小栗)や報道記者・甲野京子(蒼井)らがその謎に迫っていく。広瀬、林は、鳴かず飛ばずのオカルト/都市伝説系配信チャンネル「フジタとカホの恐怖地帯」を運営し、ふとしたことからガス人間の秘密を追う事となる妹の華歩と兄の富士太にそれぞれふんする。
~以下、ドラマのネタバレを含みます~
富士太がガス人間にまつわるスクープで人生一発逆転を狙おうとする一方、華歩は貧しくとも兄と暮らす今の生活に満足しており、とても控えめな性格。顔のアザがコンプレックスで、人目を避けている。
本作のヘアメイクや衣装などをトータルで手掛けるのは、荒木飛呂彦原作のドラマ・映画「岸辺露伴は動かない」シリーズ(2020~2026)やドラマ「ブラック・ジャック」(2024)、映画『翔んで埼玉』シリーズ(2018・2023)など難易度の高い作品を成功させ、注目を浴びてきた柘植伊佐夫。華歩、富士太のキャラクターは柘植自身とても気に入っているといい、人物造形のポイントとなったのが“バズらない動画配信者”の設定だったという。
「この作品には、何人かの狂言回しのような役割が出現しますけれども、その重要な人物がこの二人です。私の立場にとって、この兄妹を人物デザインするテーマは、「本人の美しさを壊した上で、その中から真の美しさを表せるか」というものでした。本人の美しさのままでは、「バズらない動画配信者」に共感できない。しかしありきたりなデザインやスタイルでは、成り上がろうとしているエゴを表せない。そこで重要なアイデアが「華歩のアザ」でした。(脚本の)ヨン・サンホさんの初稿からのアイデアで、具体的な範囲や形、色や質感は、扮装チェックで監督とともに周到に詰めていきました」
全体的な存在感は「ヒッピーのような雰囲気」を目指し、髪型は実在のミュージシャンから着想を得たことを明かす。
「髪型は1960年代から活動していたサザン・ロックの代表的バンド、「オールマン・ブラザーズ・バンド」の、デュアンとグレッグの長髪兄弟から想起しています。華歩と富士太の髪色は変えていますが、形は共通です。黒髪の長髪は、富士太に「オタク的」な強度を与えて、林さんの名演と相乗効果を果たしています。また彼には「イギリスの古着」を選び、「礼儀正しい狂気」をイメージしています。一方の華歩には「日本の古着」を選び、現在進行形のジャパンカルチャーと少しだけズレを生んでいます。それが二人の社会からの「疎外感」であるかのようなムードを意図しています」
広瀬とは舞台「華氏マイナス320°」(2026)で、林とはドラマ「精霊の守り人」シリーズ(2016・2017)で組んでおり、「おそらくこちらのデザインワークに対してとても信頼をしてくださっていたように思います」とも語る柘植。「広瀬さんのアザにしても、疑問を持たれても普通かもしれません。けれど全くそのような、デザインをスタックさせるような気分はありませんでした。林さんも、おそらくかなりメイクに対して、積極的に自ら乗せていってくださっていたとお聞きしています」と二人の真摯な姿勢に感じ入ったようだ。
なお、華歩、富士太がガス人間のスクープをつかむきっかけとなるのが、森川葵らが演じる地下アイドルグループ「ドリーム・サキュバス」のミュージックビデオ。高嶋政宏(※高=はしごだか)演じる変わり者の映像作家・ゴロ監督が撮影したカルト的な作品だが、その完成度も特筆すべき点。柘植が描いた「ドリーム・サキュバス」の衣装デザイン画には「SM+パンク+バレエ マイク+ムチ」といったユニークな文言が並んでいる。
「サキュバスは中世ヨーロッパの伝承に登場する女性型悪魔です。眠っている男性の夢に現れて生命力を奪う。そのような由来を持ちますから、悪魔的なイメージを持ちながらアイドルとしてのコケティッシュなムードを、ゴスロリ的なイメージで作りました。難しかったのは、衣装の完成度を上げてしまうと地下アイドルの素人感が消えてしまうところで、上げきらないクオリティーの高さを目指しました。MVの制作スタッフで現在はホストの謙太を賀来賢人さんが演じていますが、確かデザイン画は描かないでコーディネートで決めていき、極めて楽しかった思い出があります。それはゴロ監督も同様で、あの格好を、皆大真面目に追求しています」
賀来賢人の型にはまらないホスト像もインパクトを残し、柘植の繊細でいて大胆な発想力によって各キャストたちが強烈な輝きを放っている。(取材・文:編集部 石井百合子)
柘植伊佐夫プロフィール
人物デザイナー、衣裳デザイナー、ビューティーディレクター。NHK大河ドラマ「龍馬伝」(2010)、「平清盛」(2012)、「どうする家康」(2023)で全俳優の扮装を統括し、映画『おくりびと』(2008)、『シン・ゴジラ』(2016)、『翔んで埼玉』シリーズ(2019・2023)、『はたらく細胞』(2024)、『10DANCE』(2025)、ドラマ・映画「岸辺露伴は動かない」シリーズ(2020~2026)、舞台「プルートゥ」(2015)、「舞台 エヴァンゲリオン・ビヨンド」(2023)、「リア王」(2026)などを手掛ける。第30回毎日ファッション大賞鯨岡阿美子賞受賞。著書に「さよならヴァニティー」「美人」など。


