「ガス人間」のコートが表す3つのこと 人物デザイン監修・柘植伊佐夫、本木雅弘&UTA親子との縁に感慨

UTA演じるガス人間
UTA演じるガス人間

 東宝の伝説的特撮映画をリブートしたNetflixのドラマシリーズ「ガス人間」(配信中)で、人物デザイン監修と衣裳デザインを手がけた柘植伊佐夫。映画『おくりびと』(2008)や『十三人の刺客』(2010)、『シン・ゴジラ』(2016)、ドラマ・映画「岸辺露伴は動かない」シリーズ、『はたらく細胞』(2024)、『10DANCE』(2025)など多彩なジャンルの作品でキャラクターを監修してきた柘植が今作で挑むのは、体をガス状に変える神出鬼没なガス人間。配信前から話題を呼んだ、ブルーグレーのコートに身を包んだガス人間の扮装はどのように誕生したのか? そのコンセプトやポイント、UTAの演技についても語った(※一部ネタばれあり)。

【画像】誰かわからない…!「ガス人間」激変のキャストたち

 本作は1960年に公開された東宝の特撮映画「変身人間」シリーズ第3弾『ガス人間第1号』のリブート。ガス人間による連続殺人事件を追う刑事が、社会の闇に足を踏み入れていくSFスリラーだ。生放送番組のさなか、出演中の大学教授が爆死する前代未聞の殺人事件が発生。事件の担当になった刑事・岡本(小栗旬)は、教授の聞き手をしていたのがかつて深いつながりのあった報道記者・京子(蒼井優)だと知らされる。やがて“ガス人間”を名乗る男(UTA)が現れ、連続殺人を予告。岡本の忠告を無視し、京子はガス人間への取材を試みる。

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 監督を務めたのはアカデミー賞受賞作『パラサイト 半地下の家族』(2019)などで知られるポン・ジュノに師事し、映画『岬の兄妹』(2019)や『さがす』(2022)など社会の底辺で生きる人々をシビアに、時に暖かな視線で見つめてきた片山慎三。柘植にとって本作は2度目の片山作品となる。人物デザイン監修の仕事は、監督のイメージを三次元に落とし込むこと。キャラクターをデザインし、衣裳やヘアメイクなど関連パートを取りまとめ作品にふさわしいキャラクターを作りあげる統括だ。今作での役割は、先行していたキャラクター造形をさらに深めることだったという。

 「片山監督とは『雨の中の慾情』(2024)でもご一緒していて、クリエーターとしてとても尊敬しています。私に求められたのは、それまで扮装チームが準備してきたキャラクター造形に対し「デザインを統括し、一貫した文脈や印象を与え、さらに表現を深める」ことでした。依頼を受けたのはクランクインの2か月前。時間の制約はありましたが、それをポジティブな材料だと考えてお受けしました」

 オリジナル版は、人体実験の被験者にされ細胞レベルで肉体をガス化できるようになった青年・水野の物語。利己主義が蔓延する社会に憤りを感じた水野は、欲望のままに銀行強盗を繰り返す。設定やストーリーは一新されたが、怪物と化した者の悲しみや人の業といったテーマは今作にも受け継がれ、それはキャラクター造形にも活かされた。

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 「片山監督の魅力は、人間や社会が否応なく持ち合わせる残虐さを自然に表すヒューマニズム。それは弱者への共感や洞察が深いからだと思います。人物のビジュアル面を統括しながら、常に意識していたのは「日常に潜む残虐さ」を自然に伝えつつ、登場人物を「記憶に残る姿」にするという矛盾した二点でした。人物デザインの作業を通し、監督の反応を通じて見つけ出す人物像そのものが私にとって気づきでした」

~以下、ドラマのネタバレを含みます~

柘植が描いたガス人間のデザイン画

 スケジュールの関係で、脚本を読みながら人物デザインを走り描きしていったという柘植が最初に描いたのが、タイトルロールのガス人間。彼が着ているブルーグレーのコートには、さまざまな意味が込められた。

 「ガス人間のアイデアはあっという間に出ました。あのブルーグレーは、第1に気体性を表すこと。第2に存在の異物感を出すこと、そして第3にオリジナルへのリスペクトがあります。オリジナル版には冒頭で襲撃された銀行員の女性の制服の水色や、金庫や建物の壁の灰色。ガス人間のスーツのブルーグレー、そしてガス人間が発光した時の青白さなど、驚くほどブルーとグレーが頻出しています。今回のカラーパレットは、オリジナル版のような「彩度が抜けた色合い」ではありませんが、現代的にビビットな色彩感覚の中にブルーグレーを差し込みました」

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 最初にガス人間の色を決めたことで、そこから肉体が変化する前の堤田蓮のイメージも固まった。「蓮の普段着である、デニムのブルゾンやオーバーオール、坑道に行くための作業着もそのイメージに連動しています。つまりこの頃の連の記憶の色が、ガス人間になった姿の色につながっていく流れです」

UTA演じる堤田蓮(右)

 ガス人間こと蓮役は、ファッションモデルでアーティストとしても活躍しているUTA。190センチもの長身とスリムな体型を活かし、感情を一切出さずにミステリアスなガス人間を演じている。

 「ガス人間のような感情を殺した表現は、棒読のようにセリフを語っていれば事足りるように思われがちですが、「無感情な言葉を発することでキャラクターを存在させなければならない」という矛盾を孕んでいます。どのような温度で言葉を発するべきか、繊細さが求められるんです。UTAさんはそれを適切な間で過不足なく演じられました。同時に、施設から逃げてきた女の子と遊ぶシーンなどで見せるナチュラルな笑顔や言葉は演技という枠を超えた自然さで、努力で得ようと思っても得られるものではないと思います。極端な両面を短い時間の中で印象づけるというハードルを、軽々と越えてみせているところに驚嘆しました」とUTAのガス人間へのアプローチを讃えた。

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 UTAとは彼が幼い頃に面識があったという柘植。UTAの父・本木雅弘とは塚本晋也監督作『双生児-GEMINI-』(1999)や、アカデミー賞受賞作『おくりびと』で現場を共にした縁がある。

 「本木雅弘さんとは『おくりびと』などでご一緒し、大変お世話になりましたが、まだ小さい頃のUTAさんとの思い出もあります。彼とこのように作品をご一緒できたことに、感無量な部分もありますね」

 UTAの他にも主演の小栗旬をはじめ蒼井優、広瀬すず竹野内豊ほか豪華キャストが集結した本作。彼らが演じたのは、衣装やヘアメイクを含めて超が付くほどクセものばかり。そんなキャラクターに込められた思いを紐解きながら、数奇なドラマを味わうのも本作の楽しみだろう。(文:神武団四郎)

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