塚本晋也監督『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』実在モデルの遺族も絶賛 トロント映画祭で北米プレミア

第51回トロント国際映画祭に参加した塚本晋也監督、マーク・マーフィー、ロドニー・ヒックス、ジェフリー・ラッシュ
第51回トロント国際映画祭に参加した塚本晋也監督、マーク・マーフィー、ロドニー・ヒックス、ジェフリー・ラッシュ - (C) 2026 Getty Images

 カナダで開催中の第51回トロント国際映画祭スペシャル・プレゼンテーション部門に正式出品されている、塚本晋也監督作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(公開中)の北米プレミアが現地時間15日に開催された。上映後のQ&Aには塚本監督をはじめ、ロドニー・ヒックスマーク・マーフィージェフリー・ラッシュらキャストが登壇し、撮影裏話などで会場を大いに盛り上げた。(塚本晋也の「塚」は「豕」に点ありの旧字体が正式表記)

【動画】塚本晋也監督×小島秀夫監督、戦争について語るスペシャル対談

 本作は、実際にベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソンさんの証言をもとに、18歳で戦地へ送られ、多くの命を奪ったひとりの青年が、帰還後PTSDに苦しみながら自らの加害に向き合っていく姿を描く作品。日本では11日に8館で公開を迎え、5日間で累計動員約1万3,000人、興収累計2,000万円を記録している。

ADVERTISEMENT

 Q&Aで再び戦争をテーマにした理由を尋ねられた塚本監督は、第2次世界大戦を描いた『野火』(2014)を完成させた当時は「戦争をテーマにした映画はもうこれでおしまい」と考えていたと告白。しかし、それからおよそ10年が経っても世界情勢は不安定なままで「もう一度、戦争をテーマにした映画を作るべきだと考えました」と明かした。

![](1.jpg ""(C) 2026 Getty Images)

 さらに、自身の体験を語り続けたアレン・ネルソン氏に「もう一度スクリーンに戻ってきてもらい、その物語を伝えてほしかった」と映画化に至る思いを語った塚本監督。そんなアレンの壮年期を演じたロドニーは、客席にいたアレンさんの遺族を紹介。この日は、劇中にも登場する元妻のリンダさんや息子のショーンさんをはじめ、妹のマーシェルさん、従妹のビバリーさんらが駆けつけており、会場から温かい拍手が送られた。

 「この映画には多くのトラウマが描かれていますが、その根底を貫いているのは“癒やし”だと私は信じています」と語ったロドニーは、アレンさんの人生を「一人の男性が癒やされていく旅路」と表現。しかし同時に「癒やしとは綺麗なものでも、すっきりと整ったものでもありません。それは混沌としていて、一直線には進まないものです」とその複雑さにも言及する。

塚本晋也監督とアレン・ネルソンさんのご遺族(キノフィルムズ提供)

 さらにロドニーは、自身もPTSDと向き合った経験があると明かし、撮影に入る前、セラピストに「自分を見失わずに、これを演じ切ることができるだろうか」と相談していたと告白。約2年をかけて徹底的なリサーチを重ねながら、撮影現場ではその準備をすべて手放し、共演者や塚本監督を信頼して感情の流れに身を委ねたという。「そこにあったのは純粋な信頼です」と振り返り、役者としてどう見えるかではなく、“ありのままの感情”を大切にしたと語るロドニーの言葉に、会場は静かに聞き入っていた。

ADVERTISEMENT

 一方、青年期のアレンを演じたマークは、本作で映画デビュー。経験豊かな俳優陣との共演を「本当に圧倒されるような経験」と振り返りながらも、撮影を経て「ロドニーとは兄弟のようになれた」と笑顔。さらに、アカデミー賞俳優のジェフリーを、冗談交じりに“ラッシュおじいちゃん”と呼ぶ一幕も。会場から笑いが起こるなか、「映画や演技を追求し続けたいという僕の情熱が、より確固たるものになりました」と本作への参加が大きな転機になったことを明かした。

 そして、アレンのカウンセリングを担当するダニエルズ医師を演じたジェフリーは、本作の脚本を「純粋で繊細だった」と絶賛。監督・脚本・撮影・編集を兼任した塚本監督について「これほどの実力者とは、これまで一度も仕事をしたことがありません。彼自身が映画そのものなのです」と最大級の賛辞を贈った。

塚本晋也監督と兵士役の俳優陣(キノフィルムズ提供)

 またこの日は、アレンとダニエルズ医師によるニュージャージーでのカウンセリングシーンの撮影秘話も披露された。初日に予定されていた4つのシーンについて、ジェフリーの提案で一連の流れのままワンテイクで撮影することになったという。

 塚本監督は即座に賛同し、ロドニーも表向きには「分かりました」と返したものの、心の中では「うわ、マジかよ(笑)」と思っていたと告白し、会場は爆笑。しかし、「感情の流れを途切れさせずに撮影できた」と語るロドニーに、ジェフリーは「おかげで夜8時ではなく夕方4時には撮影が終わったんだ(笑)。早く終わったから、そのシーズンのブロードウェイで最高の舞台を何本も観に行けたよ」と笑わせ、ロドニーも「それが本当の理由だったんですね!」と応酬。最後まで息の合ったやり取りで客席を大きな笑いに包み、盛況のうちに北米プレミアは幕を閉じた。

ADVERTISEMENT

 映画の上映後には、アレンさんの妻リンダさんと息子ショーンさんが関係者に映画の感想を語る場面も。ショーンさんは「圧倒されました」と興奮気味に語りながら、父について「すごく人を愛していて、戦争が嫌いな人でした。まだ父が生きているかのようです。父はいつも私に、日本においでよと言っていましたね」と父との思い出とともに感想を語った。一方、リンダさんも「当時のことをよく覚えています。深い悲しみを感じました。アレンはすごく平和的な人でしたが、ベトナムで変わってしまいました。辛い経験の心の置き場所を探さないといけなかった。タチアナ(・アリ)は最適なキャスティングでしたし、監督のアレンの描き方には感動しました」と鑑賞直後の感動を率直に語った。

映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は kino cinema 新宿ほかで公開中

映画館で上映中の最新映画がお得に楽しめるキャンペーン実施中!|U-NEXT

※このリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、リンク先での会員登録や購入などでの収益化を行う場合があります。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
  • Googleで優先するソースとして追加
ADVERTISEMENT