塚本晋也監督、“戦争加害者の傷”描く新作に約8分拍手鳴り止まず「戦争を止められるかも」手応え【第83回ベネチア国際映画祭】

現地時間4日、イタリアで開催中の第83回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品されている、塚本晋也監督作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(9月11日公開)のワールドプレミアが開催され、約8分にわたる壮大なスタンディングオベーションに包まれた。会場には塚本監督をはじめ、主演のロドニー・ヒックス、アカデミー賞俳優のジェフリー・ラッシュらが登壇。公式記者会見、フォトコール、レッドカーペットも行われた。(塚本晋也の「塚」は旧字が正式表記)
ベネチアでは『鉄男 THE BULLET MAN』(2009)、『野火』(2014)、『斬、』(2018)に続き4回目となるコンペ部門出品を果たした塚本監督。実際にベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソン氏の証言をもとに「戦争加害者の傷」というテーマに真正面から取り組み、ニューヨーク、ベトナム、タイ、沖縄の4か所で撮影を敢行。「世界がますますキナ臭くなってしまっている今、必ず作らなければならない映画」と位置づける衝撃作だ。
上映前の公式記者会見で、塚本監督は『野火』の製作時に原作と出会ったことを明かし、「ショックだったのは、戦争で起こることを正直に、そのまま赤裸々に語っていたことです。加害者側の目線で描かれていたことにも非常に大きな驚きがありました。それを映画にするのは非常に難しいと思いましたが、なるべく多くの皆さんに観てもらうことは非常に大事なことだと思い、この映画を作りました」と原点を振り返る。
さらに、ドローンの投入など、現代の戦争やテクノロジーの進化に触れた塚本監督は「加害者側の意識や戦争との距離感が変わってきていることは、ひとつの恐ろしい出来事」と言及。しかし、戦争の悲劇性は変わらないと語り「いろいろなものが変化してきていますが、被害者がどのような思いをしているのかを想像することが、非常に大事」と訴えた。
また、本作が若い世代の戦争を防ぐ力があるか問われた塚本監督は「どう思いますか?」と記者に逆質問。「あると思います」という答えに「私も、それを信じてこの映画を作っています」と答えると、「子供の頃、父親や母親、祖父母は戦争について話してくれませんでしたが、戦争をリアルな映像や描写で描いた創作物がリアルで、それが私の心に小さなトラウマを生み、結果として戦争を憎むようになったのです。その小さなトラウマや、まるでその場にいるかのような臨場感を感じてもらうことは非常に大事だと思っています。それを感じてもらえれば、映画の力によって、いつか若い人たちがこの作品を観たときに“戦争の現場には行きたくない”と身体で感じてもらえるのではないかと思っています。だからこそ、なるべく多くの人にこの映画を広げていただきたいのです」と訴えた。
アレン・ネルソン役のロドニーは、加害者視点から描かれた本作に惹かれたことを明かし「アフリカ系アメリカ人の退役軍人が戦争から戻った後の物語を描いた作品は初めてです。また、PTSDというテーマがここまで描かれることもありませんでした。塚本監督がご自身の演出によって、フィルターを通さず、正直に物語を描いてくれました」と絶賛。精神科医ニール・ダニエルズ役のジェフリーは「撮影のリズムやペース、そして監督の純粋なオープンさが、素晴らしい環境を作ってくれました。カメラがまるで消えていくように感じられる環境でした」と塚本監督との撮影を称賛した。
その後、大歓声を受けたレッドカーペットを経て、いよいよ迎えたワールドプレミア。満席の会場で行われた上映では、エンドロールが始まると観客が一斉に立ち上がり、約8分間に及ぶ鳴り止まない拍手と歓声が沸き起こる。感激のあまりロドニーが涙を流す一幕もあるなど、熱気に包まれた。上映後の囲み取材で、塚本監督は「加害者の視点から描いた本作が、どこまでお客様に受け入れてもらえるのか未知数でした。今日、実際に上映して、お客様に伝わったという感触を得られた」と安堵の表情を見せる。
記者から、上映後の観客の反応を受けて「映画には戦争を止める力があると、今回の上映を通してどのように確信を持ったのか」と質問されると、ジェフリーは「非常に難しい。むしろ今の時代は、ひどくなっている気がします」と率直な思いを語る一方で「“なぜ私たちは戦争をするのか”という疑問を、本作は多くの人に投げかけることができたと思います」と希望を口にする。またロドニーも「ある種の観客に対して、種まきができたのだと思います。これからどのような形で水をあげていけば、そこから何かが芽を出すかもしれないと思います」と本作から何かが生まれていく可能性に期待を寄せた。
そして「僕は戦争を止めようというくらいの気持ちでこの映画を作っています」と答えた塚本監督は「観ていただいた方に、頭で考えるだけではなく、体で戦争の恐ろしさを感じてもらい、本能的に戦争を拒否するような体感を持ってもらいたいと信じて作っています」と強い思いを明かす一方で、「実際にジェフリーが言ったように、今の世の中の状況を考えると、自分が強く投げたと思っている石つぶが、吸い込まれてしまうのではないかという気持ちが今日までありました」と不安も告白する。
しかし、映画祭での反響を受け「もしかすると、戦争を止められるかもしれないという気がしました。そのためには少しでも多くの人に観てもらって、戦争を決める上の人たちのことを止めることはできる。なるべく多くの人に観てもらうことができれば、もしかすると戦争をかなり止められるのではと今日のリアクションを見る限り、感じました」と戦争のない未来に向けた思いを語っていた。
映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は9月11日(金)より kino cinema 新宿ほかにて公開



