尾上松也、現代版・金田一役で貫く主演の美学 枠にとらわれない挑戦の理由

令和の『八つ墓村』で金田一耕助役に挑んだ尾上松也
令和の『八つ墓村』で金田一耕助役に挑んだ尾上松也 - 写真:高野広美

 映画『八つ墓村』(全国公開中)で名探偵・金田一耕助を演じる尾上松也。ホラーの巨匠・清水崇監督のもと現代を舞台に再構築された本作で、これまでのイメージを覆す新たな金田一像を体現した。歌舞伎俳優という確固たる土台を持ちながら、なぜ松也は多様な表現の場へ飛び込み続けるのか。作品に込められたメッセージと、過酷な現場すら楽しむ主演としてのスタンス、そして枠にとらわれない挑戦の理由を語った。(磯部正和)

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フェティシズムから生まれた新たな「癖」

 名だたる名優たちが演じてきた金田一耕助。しかし本作は時代背景を現代に移し、設定も一新されている。台本を開く前から清水監督とのタッグに胸を躍らせていたという松也は、提示されたキャラクターデザインから、役作りの大きなヒントを得たという。

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 「監督からのイメージ案を拝見し、非常に面白いと感じました。これまでの金田一は衣服などに無頓着な印象でしたが、今回は生地やデザインなど、素材からこだわって作られています。いわゆる粗雑な天才というよりは、少し現代的で、独特な視点を持った天才というイメージですね」

(C) 2026「八つ墓村」製作委員会 (C) Yokomizo Seishi / KADOKAWA

 歴代の金田一といえば、石坂浩二さんや古谷一行さんが演じていた、頭をかきむしってフケを落とすような姿が脳裏に浮かぶが、今回の清潔感のある佇まいには似つかわしくない。それに代わる独自の「癖」を生み出すべく、現場でのテストを重ねる中で採用されたのは、彼自身の意外なフェティシズムだった。

 「これまでの金田一と違うエッセンスを取り入れられないかと相談した際、監督から僕自身に『どんな癖がありますか』と聞かれたのです。僕が子供の頃から人の耳を観察するのが好きだとお話ししたところ、『では、考え事をする時は癖で耳をいじってしまうことにしましょう』と。今回はとにかく、思考する時は耳を触るという設定にしました」

圧倒的な無力感と怪奇現象。あえて「普通」を貫く役作り

「インスピレーションとして素直に受け取れる部分だけを表現する」

 物語の舞台となる田治見家には、一癖も二癖もある人物たちが集い、凄惨な事件が巻き起こる。名探偵でありながら未然に事件を防ぐことができず、常に後手へ回ってしまう特有の人間臭さに加え、「怪奇幻想ロマン冒険譚」となった本作ならではの展開を前にしたリアクションについては、監督と緻密なすり合わせを行ったという。

 「金田一作品は基本的に、先手ではなく後手に回って徐々に謎を解いていくため、事件を未然に防ぐことはほぼ不可能です。その上、今回は金田一の常識を超えるような展開が起こり、彼自身もそれを目の当たりにして、完全に一度抜け殻になってしまう瞬間があります。そのあたりは監督から説明を受け、話し合って決めた方向性でした」

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 歴代の金田一像に引っ張られることなく、あえて自分自身をフラットな状態に置いた。強烈なキャラクターたちがひしめく中で、探偵としての客観的な視点を保つための選択だった。

 「過去に映像化された作品を観るとそちらに引っ張られてしまいそうで、あまり見ないようにしました。変な色気を出して個性的に演じようとは考えず、インスピレーションとして素直に受け取れる部分だけを表現する。共演者の皆様がとても個性的で魅力的なので、登場人物の中では『意外と普通』でいることが、逆に生きるのではないかと思ったのです」

「奥智哉さんとは初めてご一緒しましたが、非常に繊細なお芝居をされる方です」

 現場での共演者たちとのやり取りも、役の輪郭を際立たせた。小竹・小梅の一人二役を演じた高島礼子の妙技に唸り、物語の鍵を握る辰弥を演じた奥智哉とのコントラストには大いに助けられたと振り返る。

 「辰弥役の奥智哉さんとは初めてご一緒しましたが、非常に繊細なお芝居をされる方です。彼が抱える闇が佇まいから滲み出ていました。しかし普段は本当に素朴な青年で、ロケ地の岡山でもいつの間にか地元の方々から『奥ちゃん』と親しまれており、とても演じやすかったですね」

常に“楽しむ”主演の哲学

「ただ笑ってすごすということではなく、シリアスなものをどう表現するかと悩むこと自体を楽しむのです」

 本作では、座長として現場を牽引する立場にあった松也。ホラーやミステリーといった重苦しい題材であっても、その根底にはエンターテインメントを作る上での絶対的な哲学が流れている。明確なビジョンで導いてくれる清水監督の情熱に触発されながら、苦悩すらも原動力に変えていく独自のスタンスを明かしてくれた。

 「ただ笑ってすごすということではなく、シリアスなものをどう表現するかと悩むこと自体を楽しむのです。根本にあるのは、作品を見てくださる方に楽しんでもらうため、苦しみながらも楽しみつつ作っていくこと。僕が主演や演出を務める際に意識しているのは、キャストだけでなくスタッフ全員が『この作品や監督、主演のために頑張ろう』と思える現場にすることです。みんなが楽しいと思える現場であれば、必ず良い作品になると信じています」

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 歌舞伎にとどまらず、ミュージカルや声優、そして映像作品と、表現の境界線を軽やかに飛び越えていく。まったく異なるフィールドを走り続けているように見えるが、松也の中ではすべての活動が一本の線で結ばれているのだ。

「『自分がどれだけ求められているか、何ができるのか』という自身への挑戦がモチベーションになっています」

 「歌舞伎でもミュージカルでも映像作品でも、設定があって役を通して何かを表現するという根本は同じだと思っています。僕の場合、若い頃に歌舞伎以外の分野に出させていただいたことで様々な恩恵を受けましたし、それがなければ今のポジションはありません。怖いことではありますが、未経験のことに挑戦するのが好きなので、『自分がどれだけ求められているか、何ができるのか』という自身への挑戦がモチベーションになっています」

 『八つ墓村』と言えば、過去にも映像化され大きな反響を呼んだ作品だ。それが再構築され、SNSが浸透した現代によみがえった。本作が放つ鋭いメッセージについて、静かな熱を込めて語った。

 「清水監督が今回強調されているのは、群集心理の恐ろしさです。誰かが言い出したことが波及し、あり得ないことが現実になってしまう。SNSを通じて世界中に情報が広がる現代だからこそ、当事者が抱える闇や本質は本人にしか分からないと理解しなければなりません。周囲の声や多数派の意見を安易に信じるのではなく、自分の目で本質や真意を見極めることが本来とても大切なのだと、作品を通じて強く感じました」。(取材・文:磯部正和)

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