映画前売券会社のメイジャーが映画配給に乗り出す…“泥臭さ”を忘れずに

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 “映画前売券のことならメイジャー”のキャッチコピーで、およそ半世紀近い歴史を持つ老舗の映画会社メイジャーが、台湾の高校マーチングバンド部を舞台にした青春映画『進行曲 マーチングボーイズ』で初の配給・宣伝業務に乗り出した。かつては映画宣伝会社として、スタジオジブリ作品や、ピクサー映画、ハリウッド超大作など数多くの話題作を手がけ、業界からの信頼も厚かったメイジャーが(2004年に宣伝業務は終了している)今なぜ映画の配給を手がけることとなったのか。同社の西牧昭社長にその裏側について聞いた。

『進行曲 マーチングボーイズ』場面写真

 メイジャーが配給業務に乗り出すことになったきっかけはまったくの偶然からだった。自他共に認める台湾映画好きである同社のスタッフが、休暇で訪れた台湾の映画館で本作に感動し、帰国後すぐ西牧社長に「いい映画を見つけました」と報告したところからはじまった。通常の映画の買い付けといえば、映画祭などのマーケットを通じて商談を成立させることが多いが、本作はそことは違ったルートからのスタートとなった。ここで強力な後押しとなったのが、今回共同配給を務めるアクセスエー。かつてアクセスエーが配給を担当した、2016年公開の台湾映画『若葉のころ』にほれ込んだ西牧社長とスタッフは、同作をきっかけに同社と10年にわたって交流を深めてきた。

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 「くしくも今は昔に比べて前売券が売れにくくなってきており、次のチャレンジが必要だと思っていました。アクセスエーさんとも、いつか一緒に何かをやりたいですねと話していたところで、今回の映画について相談したんです。すると偶然にも権利が空いていることが分かり、権利取得の契約に動いてもらいました。自分たちがほれ込んだ映画が奇跡的な縁でつながったんです」。

 しかしいざ配給・宣伝に乗り出すことになると、その苦労は想像を超えていた。そこで昨今の業界事情に詳しいフリーランスの宣伝マンたちがサポートに入り、あらためて本作の宣伝活動に従事していくことに。西牧社長も「元々宣伝部があったといっても、われわれは営業マンで宣伝は素人ですから。プロのジャッジを受けながら、ひとつひとつ確認しながら進めている。時間はかかっていますが、一歩一歩積み上げているところです。ただ本音は、時間がもっとあったらなというところですが」と語った。

 だがそんな彼らの武器は、長年培ってきた「足で稼ぐ営業力」だった。メイジャーの立ち上げ当初の、映画の前売券は、一般企業、公共機関、団体などの福利厚生として、あるいは小中高向けの映画鑑賞教室などでも人気を集めていたが、そこに果敢に売り込んでいったのが、西牧社長をはじめとした営業担当者たちだった。彼らは企業などにひとりひとり出向き、その映画のどこが面白いのか、見どころなどを熱く解説し、チケットを買ってもらうことに寄与する。まさに映画の宣伝マンとして映画文化の底上げに寄与してきた存在だった。

 「われわれは昭和の人間だから。結局はどれだけ熱い思いを伝えられるか、しかない。メイジャーが宣伝をやっていた頃って『マーケティング』という言葉がなかったんですよ。宣伝ってもっと泥臭いものだし、どうやって相手に映画の良さを伝えるか、ということに必死だった」と笑う西牧社長。本作でも前売券販売で培った「足で稼ぐ営業力」を発揮した。

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西牧昭
大いなる挑戦に打って出た西牧昭社長。

 「今回はインディペンデント系のミニシアターに寄り添う形で公開を進めています。ミニシアターはどこも厳しい状況にありますが、そこにどうやってお客さんを呼ぶか」と語る西牧社長。ミニシアターの担当者にも「とにかく観てほしい」と訴え続け、その結果、現在20数館まで上映館を増やすことに成功した。さらに、全国の吹奏楽部やマーチングバンド部のある全国の学校へ向けて、営業活動を開始することになった。メールではなく、あえて手紙で思いを綴るなど、メイジャーならではの泥臭い手法だったが、そこで驚くべきミラクルが起きる。その手紙を見たマーチング強豪校の教師から「試写を見たい」と連絡があったのだ。そしていざフタを開けてみれば、その教師は西牧社長のめいっ子の恩師だった。

 共通の知り合いがいる、ということで意気投合したわけだが、その恩師の協力もあり大会への招待やSNSでの発信など、本作の宣伝を全面的にバックアップしてくれることになった。西牧社長は「本当に人の縁ってすごいなと。もともとわれわれも学校関係に縁が深かったということもありますし、こういう昭和の営業スタイルだからこそ、結ばれた縁なのかなと感じています」と感慨深げに語った。

 そんな本作を西牧社長は「子供から大人まで、誰が見ても分かりやすいシンプルな青春映画」と評する。特に注目すべきは、ラスト7分にわたる圧巻のマーチングパフォーマンスだ。「役者たちが実際に自分たちで楽器を演奏し、猛特訓の末に撮影に臨んでいます。スクリーンを通じて、その熱量や迫力が確実に伝わるはず。この場面は、絶対に映画館のスクリーンで観てもらいたい」と力を込めた。

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 公開前のリサーチでは、中高生たちからも高い評価を得た。親の期待に応えるために、自分を押さえつけていた少年が、親に隠れてまでも自分のやりたいことにまい進していく姿が、同世代の共感を呼んだという。一方で大人世代からは「久しぶりに観た、ど直球の青春映画」「ポテンシャルのある映画」といった声も届いた。

 チケットを売り、劇場に足を運んでもらう。そんなメイジャーの原点に立ち返ったという西牧社長は、本作を通じて「映画を観る喜び」を新たな世代へ伝えたいと考えている。「昔は学校の行事で映画を見に行く機会がありました。強制的に見せられた映画であっても、それがきっかけで人生が変わったり、映画が好きになったり、といった偶然の出会いがあった。今回の『進行曲』も、例えば吹奏楽部の顧問の先生が『生徒に見せたい』と思って劇場に連れてきてくれたらうれしいですね。そこで子供たちが部活を頑張ろうと思ったり、映画を映画館で観るのっていいなと感じてくれたりしたら」と思いを明かした。

 そんなメイジャーの今後の展望について西牧社長は「われわれは配給会社に転身したいわけではありません。われわれの基本はあくまで、あらゆる作品を世に広めて劇場にお客さんを呼び込むこと。でも、もしまた自分たちの心を動かす素晴らしい作品に出会えて、それを世に送り出すチャンスをもらえるのであれば、ぜひ挑戦したいです」と力強く付け加えた。(取材・文:壬生智裕)

『進行曲 マーチングボーイズ』は10月23日より全国順次公開

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