名画プレイバック

スティーヴ・マックィーン 危険な香り放つ“俺流”の美しさ

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 往年の銀幕のスターの魅力を振り返る「名画プレイバック」の番外編。第3回は、当コーナーの規定に則り1970年代のキャリアを中心に、スティーヴ・マックィーンでお送りします! 第2回のロバート・レッドフォード編に続いて、ライターの山縣みどりさんに作品を選んでいただきました。(構成・文/今祥枝)

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Herbert Dorfman / Corbis via Getty Images

【マックィーンがカッコイイ1970年代以前のベスト5】
1:『華麗なる賭け』(1968年)
2:『大脱走』(1963年)
3:『ブリット』(1968年)
4:『ゲッタウェイ』(1972年)
5:『パピヨン』(1973年)

今:当連載も、時代の流れで圧倒的にスマホユーザーが多いとのことなので、なるべく短めにまとめていきたいと思います! さて、西部劇のイメージが強いマックィーンですが、一般的には『大脱走』のバイクでひとり鉄条網を越えるシーンを思い浮かべる人が多いかも?

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『大脱走』のマックィーン Sunset Boulevard / Corbis via Getty Images

山縣:『大脱走』での爽快感は格別だよね。そしてアウトローな孤高感は、どの出演作でも感じさせる人。この映画の大尉役は、リーダー格に見えて周りのヨーロッパ人捕虜たちとの連帯感というより、ひとりヤンキーとして異彩を放っている。他のみんなは制服で軍人らしく見えるけど、マックィーンだけはチノパンとTシャツ、革ジャンだし(笑)。

今:確かに! でも、マックィーンだとすべてが“俺流”って感じでカッコイイ。顔の作りで言えば、いわゆる美青年ではないけれど、日本でも本当に人気がある俳優ですよね。

山縣:目は素晴らしく青くて美しい、いわゆるブロンド碧眼だけど味のあるハンサムだと思う。若い時より、シワが出来てからの方が素敵。そしてなんといっても不良っぽさ、アウトロー感が永遠に男子が憧れる男なんだなと。1970年代の日本は学生運動が盛んだったから、権力に屈しない反骨精神みたいなものに憧れたのもわかるし、こうなりたいって思ったんじゃないのかな。ちなみに、私はマックィーンの鏡(縦60センチ×横40センチ)を当時買ってもらって、いまだに大切に持っています。

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これは貴重! 山縣さんが当時購入したマックィーンの鏡

今:これはお宝ですね! こんなグッズまであったとは……マックィーン人気恐るべし。マックィーンを語るとき、キング・オブ・クール、アンチヒーロー、反骨精神とイメージがかなり明確で、キャリア全体を俯瞰(ふかん)してみてもブレを感じない。しかも『大脱走』や『パピヨン』などの“自由への渇望”を体現させたらピカイチ。そりゃ男も女も惚れますよね。

山縣:『ゲッタウェイ』もそうだけど、刑務所とか独房が似合うのね。押し込められていたところから自由を求めて闘うキャラクターは、複雑な生い立ちのマックィーン自身にも重なる。監督とモメることでも知られていたけど、そこも一本筋を通したいというこだわりを感じる。振り返ってみると作品選びもうまかったなと思うけど、無表情なようでいて演技もうまい。ニューヨークのサンフォード・マイズナーのネイバーフッド・プレイハウスや、ステラ・アドラーのもとで演技を学び、1955年にはブロードウェイデビューというキャリアの初期をみても、その実力を証明していると思う。

今:荒れていた少年時代から更生して、俳優になる前は海兵隊にもいたんですよね。ここでも色々やんちゃをするけど、本人いわく結構楽しかったらしいので、肉体を使うことが性に合ってるんでしょうね。『ゲッタウェイ』も『ブリット』も半裸のシーンも結構あったりして、サービスカットというか、自慢というか(笑)。

山縣:よくセットでは裸になっていたらしいよ。あと撮影中は男性スタッフと飲みに行っては、そこでも脱いでいたとか。確かボディビル的なものをやっていて、今からするとワークアウトをやっているスターの元祖かも。きっと筋肉が自慢だったのね。

今:確かに均整の取れた肉体美は見もの。あと、ぶっきらぼうに見えてロマンもある人なんですよね。『ゲッタウェイ』で刑務所から出た日、妻役のアリ・マッグローとベッドに上半身裸で並んで座っている後ろ姿のツーショットなんて、すごくロマンティック。お互いに久々で緊張しているという距離感がたまらない。

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『ゲッタウェイ』のセットで半裸のマックィーン。確かにいい筋肉! Sunset Boulevard / Corbis via Getty Images

山縣:4年ぶりに妻とベッドを共にできるというときに、がっつかないで緊張してるなんて言われたら、こっちがドキドキしちゃう。ワイルドで男くさいけどロマンがある。そこに孤独の影が付きまとうんだから、カッコイイにもほどがあるわ~。

今:一方で、これは時代性もあるだろうけど、劇中で女性をバシっと殴ったりすることも少なくないですよね。中学生ぐらいで『ゲッタウェイ』を観たとき、強引で危険な香りがぷんぷんで役柄とはいえ、ちょっと怖い人にも思えた。

山縣:彼のそばにいると何か巻き込まれる感じがするし、ポーカーフェイスだから何を考えているのかイマイチわからない。俺について来いってタイプ。実際には、こういう男性は近づいたら危険だなあと思うんだけど、そこがまた映画ならではの夢を見せてくれるという感じ。『ゲッタウェイ』では、あのゴミにまみれながら愛を再確認するシーンなんて、現実だったら冗談じゃないよと思うよね(笑)。マックィーン以外に、誰がやったらゴミの山をバックにあれだけロマンとかっこよさを出せるのか思いつかない。マッグローがまたいいんだけど、男がこうありたい男、でも誰もあんな風にはなれないという手が届かない感じが、いかにも銀幕スターらしい気もする。

今:マックィーン作品の中では『華麗なる賭け』は異色で、マーロン・ブランドにも通じる労働者階級の俳優という印象なので、正直金持ちの役はハマるとは言えない。でも、改めて観るとスーツの着こなしも洗練されていて、無理している感じはないし華もありますね。

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『華麗なる賭け』より。武骨だけどスーツも似合う! United Artists / Sunset Boulevard / Corbis via Getty Images

山縣:自分でお金を作ってある程度の地位に登りつめた人という役だし、スリルを求めて銀行強盗をする反骨精神とかアウトロー感は、やっぱりあるんだよね。その上で、マックィーンのスーツの着こなしが本当に素敵なの。わたしのベスト着こなしは、最初に強盗を成功させる時に身につけているグレンチェックのスリーピース! 一瞬グレーにしか見えないけど、よく見るとグレンチェック。最近の若者が身につける細身スーツとまではいかないけど、体型をすごくきれいに見せるので、つるしのスーツじゃなくて、お仕立てだな、裕福なのねって一目瞭然な感じが素晴らしい。

今:公称では身長177センチと、それほど高くはないけど筋肉のつき方とかバランスがいいんでしょうか。何を着ても“俺流”に着こなしてしまうセンスの良さを改めて思いました。

山縣:当時、ロンドンのサヴィル・ロウ(高級紳士服の仕立て屋通り)でも尊敬されていたテーラー、ダグラス・ヘイワードがマックィーンのスーツを仕立てているの。だから全部が1960年代っぽいクラシックなスリーピース。しかもアコヤ貝のカフスボタンとかネクタイやワイシャツの色調にあった、かといって完璧に同じではないってところがポイントなんだけど、ポケットチーフやレザーの手袋、ブルーのレンズのサングラス(Persol 714 = マックィーンが個人的に好きだったブランド)といったアクセサリーまで完璧! ただし懐中時計はやりすぎかも。懐中時計をしてないときは腕時計をしていて、なんとパテック フィリップの腕時計。素晴らしい~。

今:なるほど、今度観返す時に注目してみます! 本作では、珍しいほどマックィーンの大笑いを何度も堪能できるという点でも貴重ですが、山縣さんがこの作品を1位に選んだ理由は?

山縣:それはね、私の性の目覚めがこの映画だったから。相手役のフェイ・ダナウェイとチェスをやりながら、無言で恋の駆け引きをするシーンがあって、ドキドキしながら二人の表情を見つめていると、辛抱たまらんて感じでスパークしてキスをするの。ミシェル・ルグランの音楽もドラマティックなんだけど、このシーンでは周りにレールを引いて360度ぐるっとカメラを回しながら、じっくりとキスシーンを見せてくれるわけですよ。本当にエロかった。

今:確かに、視線が絡み合う感じや息遣いが聞こえてきそうなスリルもあって、印象的ですね。これぞ大人の恋の駆け引きという感じ? まあ実際には恋の駆け引きがここまでロマンティックなのかはわからないけど、これぞ映画! ですよね。ちなみに、マックィーンの着こなしといえば、わたしは『ブリット』の印象が強くて。タートルネックと黒のスラックス、肘当てのついたジャケットがあれほどクールに見えるのって難しくないですか? 他の刑事たちはいかにも刑事っぽい格好なのに、ここでもマックィーンは“俺道”を突っ走っている。ものすごくおしゃれに気を使っている感はないけど、真似しようとすると難しそう。

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『ブリット』のマックィーン Sunset Boulevard / Corbis via Getty Images

山縣:タートルネックは文系なイメージだし、一歩間違うと気取ったインテリを思わせるからレベル高いかも。同じ格好をレッドフォードがすると印象は全く違うよね。まさにマックィーンならでは。『ブリット』は、海兵隊でもきっちり仕込まれたプロ級の銃さばきも冴えてるけど、お得意の車の運転に目を奪われた。サンフランシスコに住んでいた時、蛇行する坂道を運転したことがあるけど、すごく怖かったの。でも、初めてあの坂を見た時、マックィーンが飛ばした坂はここか! と思ったよ。みんな行ったら思うんじゃないのかな。

今:『栄光のル・マン』とかスピード狂のイメージもあるし、破滅へと向かうような役も多いけど、かといって本気でこちらを不安にさせるような狂気を感じさせるところはないですよね。社会人的にはまっとうというか。

山縣:マックィーンは身体を包むバケットシートを開発してパテントを持ってるんだよ。本当に車が好きなんだよね~。

今:車、射撃、飛行機など自分の好きなものを極めて仕事にも生かしている。しかも、そもそもの持ち味、キャラクターもあるでしょうが、自分が作り上げた反骨精神やアウトローといったイメージと、作り手と世間が求めるものが合致している。そのイメージが実際の彼とどの程度の開きがあったのかはわからないけど、マックィーン自身は気に入っていた感はありますよね。だからイメチェンを図って失敗したとか、そういう欲求もさほど感じない。

山縣:これは想像だけど、マックィーンというアイコンに満足していたんじゃないのかな。そういう意味では、本人も観客も、監督たちもマックィーンのブレないスタイル、生き方みたいなものを愛していたし、今でも愛しているんだと思う。この業界では、非常に稀有な成功例と言えるのかもしれないね。

今祥枝(いま・さちえ) 「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで映画・海外ドラマの記事を執筆。当コーナー「名画プレイバック」担当。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。こぢんまりとした人間ドラマ&ミステリーが大好物。海外ミュージカル愛好家。

山縣みどり(やまがた・みどり) 「anan(アンアン)」や「GQ」、「25ans」、「ELLE」などで映画レビューやインタビューなどを執筆。この夏は、セントラルパークのシェイクスピア・フェスで「ハムレット」を見たい。オスカー・アイザックが鬱気味な王子をどう演じるか興味津々です。

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