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ぐるっと!世界の映画祭

齊藤工が熱く語った!高校生に刺激を受けたハートランド映画祭(アメリカ)

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短編『ア・デート・イン2025(原題) / A Date in 2025』(アメリカ)のライアン・ターナー監督と記念撮影。

【第67回】

 齊藤工監督は初長編監督作『blank13』(公開中)を引っ提げて、世界中の映画祭を巡回中だ。彼はなぜ多忙なスケジュールの合間をぬって映画祭に参加し、そこから何が見えたのか。北米プレミア上映となった第26回ハートランド映画祭(2017年10月12日~22日)を中心にリポートします。(取材・文:中山治美、写真:齊藤工、(C) 2017「blank13」製作委員会、ハートランド映画祭、上海国際映画祭、シンガポール国際映画祭)

ハートランド映画祭

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若手をシニアがサポート

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『blank13』はシネマート新宿で先行公開中。2月24日(土)から全国拡大上映。 (C) 2017「blank13」製作委員会
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一般市民からの寄付で運営が成り立っている映画祭ゆえ、映画祭グッズも大事な収入源となる。ホーローのマグカップやTシャツが販売されている。Photography: Whitney Walker

 ハートランド映画祭は、観客と映画製作者の交流の場を育むべく1991年に設立。開催地のインディアナポリス市が、インディアナ州の中央部に位置することから「ハートランド」の名称となった。インディペンデント映画の上映がメインで若手・気鋭作家支援に力を入れており、第26回は受賞賞金総額10万米ドル(1,100万円、約1ドル=110円換算)と手厚いサポートが用意されているのも魅力的だ。また短編はアカデミー賞公認となっており受賞作はアカデミー賞短編部門ノミネートへの道が開けることからアメリカ国内での注目度は高く、第18回では日系アメリカ人のディーン・ヤマダ監督『自転車』(2009)が短編部門でビジョン・アワードを受賞している。

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会期中にはカルチャー・ジャーニーと題してインドの食や伝統ダンスを楽しむイベントも開催された。Photography: Renzulli Photography

 第26回は104か国から3,484作品の応募があり、上映本数は213作品。11日間の会期中、約2万2,000人以上の観客を動員した。例年、日本からの出品はあまり多くないようで、過去の主な上映作は落合賢監督『太秦ライムライト』(2013)、長谷井宏紀監督『ブランカとギター弾き』(2015)など。第26回はナラティブ長編部門に『blank13』と大川五月監督『リトル京太の冒険』(2016)、ドキュメンタリー長編部門でアンナ・チャイナリ・キー監督『ウエステッド!ザ・ストーリー・オブ・フード・ウェイスト(原題) / WASTED! The Story of Food Waste』(アメリカ・イギリス・日本)が上映された。

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『blank13』が参加したナラティブ長編部門でグランプリを受賞したのは、クリフ・ステンダーズ監督『レッド・ドッグ:トゥルー・ブルー(原題) / Red Dog: True Blue』(オーストラリア)。賞金2万5,000米ドル(約275万円)が贈られた。

 「僕自身もこの映画祭のことは名前は聞いたことあるという程度の情報しかなく、今回は南米パラグアイに行く仕事のタイミングもあって参加させていただきました。客層もほぼシニアなら映画祭を支えているボランティアスタッフもほぼシニアという田舎町の映画祭という感じなのですが、でも世界中から多くの監督たちがやってきているんです。高校生の部門もありますし、これから世に出ようとしている若い監督たちをシニアが支えているという構造が面白いと思いました。今回は伺えなかったのですが、以前参加した富川国際ファンタスティック映画祭(韓国)は若いボランティアが多く、そんな彼らに周辺の飲食店の人たちが『頑張ってるねー』と差し入れすることもあって、地域全体で支えていることを感じ取れました。良い映画祭はボランティアや地域住民との関係性が密で、本当の映画祭の意味と価値は現地に行かないと分からないとつくづく思いました」(齊藤監督)。

観客の温度は世界共通

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上海国際映画祭で観客に囲まれる齊藤監督と神野三鈴。中国ではドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち」が大人気とあって、女性たちの齊藤監督を見つめる目も熱い。

 『blank13』の上映は2回行われ、齊藤監督は観客と一緒に観賞し、舞台挨拶を行った。俳優・斎藤工を知るアジアの映画祭や日本映画祭と異なり、日本からの留学生を除けばアメリカでの認知度はまだまだ。「そんな何処の馬の骨か分からない人間が作った映画を、シニアの方々が時間を作って見にきて下さるだけでも光栄」(齊藤監督)。

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高雄映画祭でサイン会をする齊藤工監督。現地タイトルは『多桑不在家』(父親不在の家の意味)。

 観客の反応は、映画=娯楽という認識の強いアジア圏は「笑いに甘いですね(笑)。シンガポール国際映画祭では座席から落ちるんじゃないかというくらい笑っている人がいました」(齊藤監督)そうだが、だいたい同じところで笑いが起き、同じ箇所でグッと観客が映画にのめり込んで行くことが実感できるという。

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ロンドン・イースト・アジア映画祭で他のゲストと共に舞台挨拶をする齊藤工監督。同映画祭は2015年にスタートしたばかりだが、2017年は韓国のスター、イ・ビョンホンも参加するなど早くも欧州のアジア映画ファン注目の映画祭となっている。

 それは同作が普遍的な家族をテーマにしていることが大きいのだろう。同作は放送作家・はしもとこうじの実話を基に、13年間生き別れとなっていた父子の確執を描いたもの。息子は知られざる父の空白の13年間を、父の葬儀の席上でバラエティに富む参列者から思い知ることになるというユニークな展開が、笑いとよもやの感情を呼び起こすようだ。

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ロンドン・イースト・アジア映画祭で取材に応じる齊藤監督。作品のテーマから死生観について尋ねられることも多いという。

 「上映後に泣きながら僕にハグしてくれたシニアの女性がいました。話を伺うと『今まさに、私自身に起こっている問題がこれなのだ』と。台湾の高雄映画祭でも同様のことがあって、ボランティアスタッフで2日前にお父さんを亡くしたという女の子がいて、“『blank13』は私の物語でもあるのです”と言って本当は映画を見たいのだけど(劇場入り口でチケットを確認する)もぎりの担当だからと我慢して仕事をしていたんです。僕たちはその姿に胸を打たれてなんとか映画を見てもらいたいと映画祭側にも掛け合ったのだけど、彼女自身が“今、私はボランティアで来ているので仕事の方を優先すべきだと思います”と言う。僕らは涙が出て来てしまったのですが、僕らが帰った後にもまだ上映があったので『ぜひ見てほしい』と伝えて、彼女とは別れました。そうやって声を掛けて下さった方達の話を伺うと、僕たちが今回描いたものは他人事ではなく、見た人それぞれの人生とシンクロするような不思議な引力のある映画になったのだなと実感しました」(齊藤監督)。

高校生に刺激を受ける

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齊藤監督と交流を深めたハイスクール・フィルム・コンペティション部門に参加したドキュメンタリー映画『カラ・デッディー:ザ・ポール・バウター(原題) / Kara Deady: The Pole Vaulter』(アメリカ)のジャスティン・パーク監督。未来の巨匠候補です。Photography: Whitney Walker
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ハートランド映画祭で2017年生涯功労賞を受賞した名作『スタンド・バイ・ミー』(1986)のロブ・ライナー監督。ほか、『ライトスタッフ』(1983)や『ブレイブハート』(1995)を手がけたプロデューサーのアラン・ラッド・Jrにも同賞が贈られた。Photography: Whitney Walker

 映画祭では未来の映画作家の育成に力を入れており、2010年にはハイスクール・フィルム・コンペティション部門を創設。12分以内の短編が対象で、同市出身でガンでこの世を去った女性の名前を冠にしたサマー・ホワイト・リンチ記念賞(最優秀作品賞)には2,000米ドル(約22万円)が贈られる。齊藤監督は同部門に参加していた『カラ・デッディー:ザ・ポール・バウター(原題) / Kara Deady: The Pole Vaulter』(アメリカ)のジャスティン・パーク監督と親しくなり、互いの作品を観賞したという。

 「彼の方から僕に話しかけてきてくれたのがきっかけだったのですが、高校生の作品とは思えぬ程、どれも信じられないくらいレベルが高くてちょっと震えました。昔、園子温監督と雑談していた時に『アメリカのローカルの映画祭に行くと名のある監督に引けを取らない作品がいっぱいある』と言っていたのですが、あながちその情報は間違っていなかったなと(苦笑)。しかもその高校生はじめ、出品作のクレジットをよく見ると、監督が脚本も編集も全て自分で担当している。脚本と編集を別のスタッフに任せているのは僕ぐらいでした。その監督のアイデンティティの中で1本の作品を作っていて、映画祭がその作家性を重要視している。映画作りの厳しさとそこに込められたエネルギーに刺激を受けました」(齊藤監督)。

全席リクライニングシート

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齊藤監督も驚いたシネコンAMCが誇るリクライニングシート。本皮です。Photography: Whitney Walker
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インディアナポリス国際空港でゲストを迎えるハートランド映画祭のフラッグ。Photography: Melissa Keim

 インディアナポリスは、一時期、桑田真澄元投手が所属したマイナーリーグのインディアナポリス・インディアンズの本拠地として知られる。また毎年5月に開催されるモータースポーツ「インディ500」は、F1のモナコGPとル・マン24時間レースと並んで“世界三大レース”と称されるほど、同市のビッグイベントだ。

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ロンドン・イースト・アジア映画祭の招待状に刻まれた「Director Takumi Saito」の文字。

 日本からは直行便がないため、米国各都市で乗り換える必要がある。米国の地方都市での映画祭とはいえ運営体制は整っており、オフィシャルホテルはコートヤード・マリオット・ホテルで、メインの上映会場は全席リクライニングシートがウリのシネコンAMCチェーン。そして多くの寄付と、約1,500人のボランティアという一般市民がバックアップしているようだ。

 「全席リクライニングシートの劇場は壮観でした。その分、1スクリーンの座席数は同規模の劇場より少ないと思うのですが、ソファーベッドのようになっていて睡魔が襲ってこないか心配になってしまいました(苦笑)」(齊藤監督)。

 内陸性気候で寒暖差も大きく10月とはいえかなり寒さを感じるらしい。「特に劇場内が凍えるような寒さで……(苦笑)。でも映画祭プレジデントのクレイグ・プレイターさんも気さくな方で人が温かく、素晴らしい映画祭でした」(齊藤監督)。

“ゆうばり”から始まった旅

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マレーシア日本映画祭は国際交流基金(ジャパンファウンデーション)の主催で、齊藤監督は映画祭の顔としてクアラルンプールで開催されたオープニングイベントに参加した。同映画祭はクアラルンプール、ペナン、クチン、コタキナバルの4都市7会場で行われた。
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上海国際映画祭はアジア新人コンペティション部門で上映され、齊藤監督が見事、監督賞を受賞。すでに帰国の途についていた齊藤監督は受賞セレモニーで、ビデオメッセージを送った。

 『blank13』のワールドプレミア上映は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017(2017年3月2日~6日。以下、ゆうばり)。映画祭はプレミア(初上映)を重要視しているところが多く、例えばゆうばりに出品してしまうとそのあとに行われるカンヌ国際映画祭ベネチア国際映画祭はワールドプレミアが必須条件のために申請すらできなくなってしまう。なので大きな映画祭を狙うのであれば、ゆうばりは異例の選択だった。

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シンガポール国際映画祭は母親役を演じた神野三鈴と共に参加。斎藤工が出演したシンガポール・日本・フランス合作映画『ラーメン・テー』の監督であるシンガポールを代表するエリック・クーとも再会。(c)Courtesy of 28th SGIFF

 「実は映画祭におけるプレミアの意味と価値を全然理解しておらず、今回、改めて学びました。ただゆうばりに関してはこれまで役者として何度も参加してお世話になっていますし、その経験からファンタスティック系映画祭特有の、雑誌『映画秘宝』の匂いとも似た、作品の長所が引き出される映画祭だと思っています。日本で行われている映画祭全てに参加したわけではないですけど、僕の中では日本で行われている映画祭の中でゆうばりはかなり魅力的であることは揺るぎがない。そもそも、リリー・フランキーさんも仰っていたのですが、映画の企画書で“カンヌ国際映画祭を目指します”と書かれている作品ほど、どこにも行かない。まさにそうだなと思っていて、目指して簡単に行ける場所ではないことも理解しているつもりです」(齊藤監督)。

 今回、映画祭では時間が許す限り参加することを決めていたという。作品はゆうばり以降、元気に世界中を一人歩きしているが、齊藤監督自身も第20回上海国際映画祭(2017年6月17日~26日)、マレーシア日本映画祭(2017年9月5日~10月1日)、第10回したまちコメディ映画祭in台東(2017年9月15日~18日)、ロンドン・イースト・アジア映画祭2017(2017年10月19日~29日)、第17回高雄映画祭(2017年10月20日~11月5日)、第28回シンガポール国際映画祭(2017年11月23日~12月3日)と回り、上映に立ち会った。

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マレーシア日本映画祭の観客たちと記念撮影に収まる齊藤工監督。圧倒的に女子ばかり!

 「今回、いろんな映画祭に参加させていただいて、映画という共通言語の素晴らしさや、作品が持つ真意が自分自身の中で分かっていったような気がします。実は上映を重ねながら音を大幅に直したし、映像も微調整しましたし、ハートランド映画祭で英語字幕が間違っていることを指摘され、それも直しました。日本公開は劇場が空いていなかったこともあって2018年2月になったのですが、結果的に、一番良い状態で作品を公開できたのではないかと思います」(齊藤監督)。

 こうした自身の行動は、映画好きゆえの、内向き傾向になっている日本映画界に風穴を開けたいという思いもあるようだ。

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高雄は食も充実。こちらはワイングラスで台湾茶を提供することでオシャレ女子に人気のティーサロン「永心鳳茶」の小巻米粉湯。イカが入ったライスヌードル。

 「今回、作品規模は小さいですが、映画的な旅は他のどの作品よりもできたという自負があります。映画祭出品には出品料に字幕制作費もかかりますが、それでも国内興行だけで完結してしまって勿体無いなと思う作品がたくさんあります。現場レベルで言っても、全世界に向けたプロジェクトである方が絶対、スタッフのモチベーションも上がると思う。それにはどういう作品が世界に届くのか? も考えなければなりませんが、少なくともバジェットは関係ない。たとえば塚本晋也監督、河瀬直美監督、是枝裕和監督、園子温監督らは何を描くか? が注目されているのであって、そこにヒントがあるのではないかと思います。そのような映画祭を回って得たものや気づいたことが多々あるので発信していきたいと思っています」(齊藤監督)。

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すっかり旅の達人!? 軽やかに高雄国際空港を後にする齊藤監督。

 東京で先行公開されたシネマート新宿では、映画祭で受賞したトロフィーなども展示された。そこには齊藤監督の映画監督を目指す若者たちへのメッセージが込められている。「ただの映画大好き少年が、世界で戦うことでこんなご褒美がもらえたよというのを示せたら」(齊藤監督)。

 ただ、『blank13』は長編監督1作目。齊藤監督の挑戦はまだまだ始まったばかりだ。

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