ぐるっと!世界の映画祭

高橋一生・斎藤工・リリーがトリプル受賞!日本ともゆかりの深いウラジオストク国際映画祭(ロシア)

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夫人の女優・高木悠衣と手をつなぎブルーカーペットを歩く蔦哲一朗監督。来年にはパパになるそうです。おめでとうございます!

【第63回】

 俳優・斎藤工が、本名の「齊藤工」名義で監督を務めた『blank13』(来年2月3日公開)が最優秀男優賞をトリプル受賞(高橋一生リリー・フランキー斎藤工)したことで注目を浴びる、通称パシフィック・メリディア(太平洋子午線)映画祭こと、ウラジオストク国際映画祭(ロシア)。これまでも日本作品が多数参加しておりました。今回、『林こずえの業』(公式サイト)で短編コンペティション部門に参加した蔦哲一朗監督が、第15回(9月9日~15日)をリポートします。(取材:中山治美、写真:蔦哲一朗高木悠衣、ウラジオストク国際映画祭)

ウラジオストク国際映画祭

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閉鎖都市から文化交流の街へ

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海兵の音楽隊がゲストをお迎え! 軍港都市ならではのおもてなし。

 ウラジオストクはロシアの極東に位置する軍港・商業都市。シベリア鉄道のロシアへの入り口でもある。ソビエト連邦時代の1952年~1991年の間は、軍港として重要視されていたため、一般市民の立ち入りが禁止されている閉鎖都市だった。

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クロージングセレモニーの様子。ここでも海兵隊員が、閉幕を告げる鐘を鳴らしてステージを盛り上げる。

 そんな土地柄と歴史を踏まえ、ロシアとアジア太平洋諸国を映画を通して繋ぐ文化イベントとして2003年に本映画祭がスタート。日本ではウラジオストク国際映画祭で知られているが、正式名称はウラジオストク・アジアン-パシフィック国際映画祭(International Film Festival of Asian-Pacific countries in Vladivostok)だ。新興の映画祭らしくロシアの若い映画人と、国際映画祭の常連監督である韓国のキム・ギドク監督、タイのペンエーグ・ラッタナルアーン監督らが参加しており、交流の場となっている。

 また2012年にはアジアで活躍する映画祭プログラマーや映画製作者などが審査員を務めるNETPAC賞、2014年には国際映画批評家連盟に所属する映画評論家が賞を贈るFIPRESCI賞も設けており、世界の映画界に影響力のある映画関係者も多数訪れている。

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映画祭オリジナルのパーカー付きトレーナー。ブルーが鮮やか。

 日本ともゆかりは深く、第1回の国際審査員として映画評論家・山田和夫が参加したのを皮切りに、第2回で妻夫木聡が映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003)で最優秀男優賞、第5回で桃井かおりが映画『無花果の顔』(2006)で最優秀監督賞と最優秀女優賞をW受賞、第12回で河瀬直美監督『2つ目の窓』(2014)が最優秀長編映画賞、第14回で『二重生活』(2015)の岸善幸監督が最優秀監督賞、門脇麦が最優秀女優賞を受賞している。また第11回で女優・栗原小巻が生涯功労賞にあたる9288km賞を知事より贈られている。同賞の名前は、シベリア鉄道のモスクワ駅からウラジオストク駅までの距離である。

 「軍港都市らしく映画祭のクロージングセレモニーに、海兵隊員がブルーカーペット上で迎えてくれてなかなか壮観です」(蔦監督)。

海外映画祭用に5分短縮

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徳島の林業PR映画として製作された『林こずえの業』。木を伐採する機械なども最新機器が導入されており、女性も従事可能。これを見れば、林業のイメージが覆るかも?

 蔦監督の『林こずえの業』は、新米林業作業員・林こずえ(竹橋英里)の生活を通して近代林業の現状と、一人の女性の生き方を見つめたもの。監督の地元・徳島の林業を推進すべく県の予算を得て製作したものだが、PR映画の枠を超え、第4回グリーンイメージ国際環境映像祭や釜山国際短編映画祭(韓国)など、すでに多数の映画祭で上映されている。

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映画祭会場前で。

 「本作は県からの依頼で製作したもので、PRだけでなく、最初から1本の映画として成立するよう意識して制作しました。ただ本来の上映時間は30分なのですが、国際映画祭では短編映画のカテゴリーに入らないところが多いので、海外版は5分削って応募したところ、釜山国際短編映画祭(韓国)、ウラジオストク、そして高雄映画祭(台湾)に選ばれました」(蔦監督)。

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記者会見の様子。

 ウラジオストクへの参加は、プログラマーが釜山国際短編映画祭で本作を鑑賞し、出品要請の連絡が来たという。渡航費と宿泊費付きで招待してくれると聞き、同作の制作と映画祭関連の申請手続きを担当し、今年入籍した妻で女優の高木悠衣を伴った(こちらは渡航費・宿泊費共に自己負担)という。

 「初めての海外が、自主映画『夢の島』(第31回ぴあフィルムフェスティバルで観客賞受賞)で参加した第28回バンクーバー国際映画祭(カナダ)で、新婚旅行も映画祭絡みとなりました」(蔦監督)。

ロシアで林業の未来を考える

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『林こずえの業』上映後に質疑応答を行う蔦監督。来場者はロシア人の他、朝鮮人も多かったという。ウラジオストクは北朝鮮のすぐ近くにあり、出稼ぎの労働者が多いという。

 『林こずえの業』の上映は2回。上映会場はいずれもシネコンのオケアン映画館で、上映後には質疑応答も行われた。

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映画祭のメイン会場・オケアン映画館をバックに。蔦監督の作品もここで上映された。

 「印象的だった質問として、割り箸を生産するシーンで『割り箸を使うことがエコなのか?』というのがありました。現在の林業は、木の活用法を広げていかなければ経済的に回らないという現状がありますし、雇用にも繋がっています。その割り箸を含めて、木の可能性を考えていくのが重要かなと思いました」(蔦監督)。

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美しいウラジオストクの海。9月でも泳いでいる人がいたという。

 加えて、男の仕事という印象の強い林業を舞台にしているが、女性が主人公であることから日本での女性の社会進出についての質問もあったという。

 「日本では伝統的に山に“女性が入ってはいけない”という規律があったが、それも時代と共に変化し林業にも女性が進出していることを伝えました。実際、劇中でも描いているのですが、林業の担い手が少なくなっている今、女性がカバーしているという現実もあります」(蔦監督)。

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せっかくなのでウラジオストク駅構内で列車をバックに記念撮影。

 ウラジオストクの観客は地元の一般の人たちが中心だったこともあり、映画の技術についての質問はなかったそうだが、映画学校の学生なども多い釜山国際短編映画祭に参加した際には、「なぜ長編映画のような起承転結の形を取っているのか? 短編映画の構成は、他にもあると思うが」という質問もあり、ハッとさせられたという。

 「自分では起承転結を意識して作ったつもりはなかったのですが、そう尋ねられて改めて考えさせられました。確かに、国際的に評価を受けている作品は、基本の型を打ち砕くようなことができている。自分の見てきた映画がそうだったのかもしれませんが、日本の映画作りは起承転結が染み付いているのかもしれないと思いました」(蔦監督)。

異色!長短編を一緒に審査

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授賞式で最優秀男優賞に選ばれた『blank13』の俳優陣の代わりに、小川貴史プロデューサーが代理出席。スクリーンには、劇中で使用されているリリー・フランキーの遺影写真が大々的に映し出されるというシュールな展開に……。

 主な受賞結果は以下の通り。

■最優秀作品賞
カンテミール・バラゴフ『クロースネス(英題) / CLOSENESS』(ロシア)

■最優秀短編賞
ルシー・シュローダー監督『スラッパー(原題) / Slapper』(オーストラリア)

■特別賞
Kogonada監督『コロンバス(原題) / COLUMBUS』(アメリカ)

■最優秀監督賞
ウラジーミル・デュラン監督『ソー・ロング・インスージアズム(英題) / SO LONG ENTHUSIASM』(アルゼンチン・コロンビア)

■最優秀男優賞
高橋一生、リリー・フランキー、斎藤工『blank13』

■最優秀女優賞
Darya Zhovner『クロースネス(英題) / CLOSENESS』

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国際審査員のメンバー。市山尚三(左端)や『鳥類学者』のジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督(真ん中)らの姿も。

 国際審査員は、東京フィルメックスのプログラムディレクター・市山尚三や、昨年の東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映されて話題となった『鳥類学者』のジョアン・ペドロ・ロドリゲス監督(ポルトガル)、ベルリン国際映画祭フォーラム部門ディレクターのクリストフ・テルヘヒトら6人の錚々(そうそう)たるメンバー。しかも彼らが、長編・短編のコンペティション作品両方を審査。最優秀作品賞こそ長・短編それぞれ設けているが、個人賞は長短編関係なく選出するという他の映画祭では見られない選考方法をとっている。

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リリー・フランキーらの代わりに記念のトロフィーを受け取った『blank13』の小川プロデューサーを、蔦監督が記念撮影。

 「異色ですが、これはなかなか理にかなった方法だなと思いました。個人賞、特に役者の演技に関しては長編であろうが短編だろうが、関係ありませんからね」(蔦監督)。

 そんな中で『blank13』から3人も最優秀男優賞が選ばれるとは、それもある種の映画祭に残る事件。残念ながら蔦監督は賞を逃したが、現地入りしていた『blank13』の小川貴史プロデューサーを祝福したという。

ウォッカで日露友好

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ヨーロッパの香り漂うウラジオストクの街中。
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ロシア版の餃子ペリメニで腹ごしらえ。

 ウラジオストクには東京から直行便で約2時間半の飛行時間で到着。また日本国籍の者は、事前に渡航ビザ申請が必要だ。この街でロケを行った草なぎ剛主演『ホテルビーナス』(2004)を見ればよく分かるが、ヨーロッパの趣を感じる建造物が立ち並び、日本から短時間で異国情緒を味わえる。

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レストランで隣席となった船乗りさんからウォッカをすすめられる蔦監督。こんな出会いも楽しい。

 「一方で新しい建造物も増えているようで、新都市と廃墟が混在しているような印象を受けました」(蔦監督)。

 治安も比較的安定しているようで、夜中にキケンを感じるような場所へ行かなければ問題ないという。「入ったレストランで隣の男性グループに声をかけられたのですが、船乗りさんでよく横浜へ行っているそうです。ウォッカをご馳走になりました」(蔦監督)。

通訳は今後の課題

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シベリア鉄道の東端の終着駅であるウラジオストク駅。古代ロシアの宮殿をイメージした荘厳な建物が目印。
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街でよく見かける日本の社名や広告が入った車。日本から中古車が数多く輸入されている証。

 国際映画祭に参加した場合、日本人でも英語圏ならば問題ない人も多いが、ロシアとなると通訳が現地の人たちとのコミュニケーションをとる上でも重要になってくる。だが残念ながら地方都市の映画祭となるとそもそも日本語を話せるのはもちろん、さらに映画に詳しい人となると探すのが難しい。

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通訳が遅れたために、急きょ会場にいた審査員の一人である市山尚三(右端)が通訳をかって出てくれたという。市山は蔦監督の次作『黒の牛』のプロデューサーでもある。

 「今回も日本語が分かるという学生ボランティアだったので、質疑応答の場面でも今の訳で現地の方に伝わっているかな? と不安に思う場面もありました」(蔦監督)。

 ボランティアスタッフは映画祭という場も不慣れだったようで、上映前の舞台挨拶に間に合わず、急きょ会場にいた東京フィルメックスのプログラムディレクター・市山尚三が通訳をかって出てくれたという。市山は、『林こずえの業』が参加している短編コンペティション部門の審査員だ。なんとも微笑ましいハプニングである。

次回作を釜山国際映画祭でPR

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映画祭からプレゼントされた花束を手に。
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クロージングセレモニーの招待状を手にする蔦哲一朗監督。これからブルーカーペットを歩きまーす。

 蔦監督は現在、新作『黒の牛』の製作に動いている。牛と人間が共に生活していた古(いにしえ)の時代を描くもので、京都府と特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)が主催している2016年の「第8回京都映画企画市 -Kyoto Film Pitching-」で優秀賞作品企画受賞。その時に得た350万円相当のパイロット版映像制作の権利を利用して、フィルムでパイロット版を製作。その映像を引っさげて、国内外から長編映画版の出資者を募るべく第20回釜山国際映画祭会期中に行われたアジアン・プロジェクト・マーケット2017(10月15日~17日)に参加した。ちなみに本作のプロデューサーは、ウラジオストクで国際審査員を務めていた市山だ。

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進行中のプロジェクト『黒の牛』は、「第8回京都映画企画市 -Kyoto Film Pitching-」で優秀賞作品企画受賞し、パイロット版の映像を制作した。

 さらに地元で開催される4K徳島国際映画祭2017(11月25、26日)審査員を務める他、監督作『祖谷物語 -おくのひと-』とドキュメンタリー映画『蔦監督-高校野球を変えた男の真実-』の自主上映活動と福永壮志監督『リベリアの白い血』の配給業務、駆除された鹿を使った革製品ブランド「DIYA(ディヤ)」のプロデュースと八面六臂の活躍ぶり。

 「僕にとって映画は、地元・徳島を活性化する一つの手段として製作し、世に発信してきました。社会貢献の意味合いが強いかもしれません。それ以上に、何かをプロデュースしていくことが好きなのだと思います」(蔦監督)。

 蔦監督の祖父は、高校野球の名門である徳島・池田高等学校の蔦文也元監督だ。リーダーシップを発揮して、人や企画を動かしていくのに長けているのは血なのか。映画界の枠に収まらない采配ぶりに期待がかかる。

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