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売れない時代、言葉と過ごした時間が今の自分を育てた『海辺の週刊大衆』又吉直樹インタビュー

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 無人島に取り残された男が、砂浜にあった雑誌「週刊大衆」を糧に、助けを待ち続ける姿をシュールに描く映画『海辺の週刊大衆』で主演を務めたお笑いコンビ・ピースの又吉直樹が、映画のこと、そして自身の創作活動について語った。(取材・文・写真:森田真帆)

自分が主演でいいのかという不安

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Q:すごくシュールな作品に仕上がっている本作ですが、主演されるきっかけは?

もともと原作のせきしろさんの本のことを、「アメトーク!」とかでもオススメするくらい好きなんです。しかも、せきしろさんと上田誠さんという昔、売れないころから一緒にイベントをやっていたメンバーで映画を作れるという安心感はありました。ただ、自分が主演でいいのかな? っていう不安はすごくありました。

Q:せきしろさんとの出会いはいつだったのですか?

僕がまだ全然売れていなかった頃に、亡くなった構成作家の伊部譲二さんという方を介して「俳句をやってみませんか?」とお声掛けいただいたんです。それでせきしろさんと伊部さんというおとなしい三人が新宿で集まったんです。そこから、「カキフライが無いなら来なかった」という共著を出したのが最初でした。

Q:自分の好きな作品が映像化になるってすごいことですよね。しかもご自身が主演で。

そうなんです。映像化されるのはすごくうれしいことなんですけど、自分が主演をやっちゃっているので。なんか、またこの原作で上田さん脚本で、また違う主演を呼んで、制作費もアップさせて2020年バージョンを撮り直してほしいくらいです(笑)。

Q:又吉さんが映画『火花』ですごく忙しかった時に撮影されていた作品だと思うのですが、どのくらいの期間で撮影されたんですか?

3日でした。しかもこのロケ現場の海辺がむちゃくちゃ寒くて。僕は慣れていないスタッフさんとかにあまりお願いしたりできない方なんですけど、そんな僕が「ちょっと死にそうなんで、火を焚いたりできないですかね」って割と強めの口調で言いましたからね。本当に過酷な環境で撮影しました。

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劇中の自分を見るのは苦手?

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(C) 2017吉本興業 (C) せきしろ『海辺の週刊大衆』双葉社

Q:モノローグが中心になっていますが、実際に撮影現場でセリフを言うことはあったのですか?

いや……(笑)。もうずっと心の声なので、撮影現場ではセリフ話さなかったです。唯一あったセリフも、知らないうちに言わないで終わっていました。

Q:じゃあずっと表情だけの演技ですね? 大変なところはなかったですか?

監督が結構演出で、「ここはこういう気持ちで」という話しをさせていただきながらでしたので、苦労はありませんでした。

Q:作中のご自身の演技を観ての感想はいかがでしたか?

僕は自分自身が映っているのを観るのがもともとあまり好きじゃなくて。出ること自体は好きなんですけど、その様子をあとで見直すことがつらいんですよね。この映画も自分のシーンに関しては「うわあ」と思って、周りの方達の偉大さを感じてしまいましたね。

売れていない頃に続けていた言葉との遊びが今の自分を作り上げた

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Q:作品の感想はいかがでしたか?

この映画にはおかしいところもありつつ、どこか切なさもあって。週刊大衆だけを持って面白いことを考え続けるっていうのは、おそらく東京に出て来てからのせきしろさんの孤独な戦いが反映されているんやろなって思います。それは、この映画で共演している純(フルーツポンチ・村上)や関町(ライス)も同じで、芸人っていうのはどんなに売れていなくても、ひたすらオモロイことを考えているんです。そういう部分って、すごくわかる。

Q:漂流して来た海辺が、過酷な東京ってことですよね?

置かれている状況はめちゃめちゃ大変だけど、目の前にあるものを使って一人遊びをしたり、面白い言葉遊びに全力を尽くして何時間も経っていることはよくあるんです。そういう時間は、すごい喜びがあったりするんですけど、でもそれを後から客観的に見たときに「何してんねん、俺」ってなる(笑)。でもそういう感覚がこの作品にはあったので、その感じを表現したかったです。

Q:ここ数年、又吉さんは「火花」「劇場」と創作活動などでとにかく忙しかったですよね? そんな中で、言葉遊びをするといったような、何かに没頭する時間というのは大切ですか?

そんな時間は今も大切だし、逆にそれをずっと続けてきたからこそ、今芸人として生きていられていると思っています。大喜利とか言葉遊びに関してスペシャリストではないけど、自分がどうしても表現したいことや伝えたいことは僕の中にはあるんです。それを伝える手段として、言葉遊びの時間というのはすごく大切だったなって、人生を振り返ってみたら感じるんだと思います。

Q:小説家もお笑い芸人も、言葉のアウトプットばかりですよね。逆に言葉をインプットする時間というのはあるんですか?

昔と比べたらちょっと減っているので、どうやってインプットしていこうかという悩みはあります。でも昔は日常の中で、見たこと、聞いたことが大量にあって、そういうことを発表する機会がなかった。しかも僕が伝えたいことは、漫才にも、コントにも、演劇にもならなかった。エッセイで書くほどのことなのかもわからない。でも、ノートにはなぜか書いてしまう。そんな何気無い言葉が、昔はものすごい数あったんです。その蓄積と、その頃に見つけた視点が、今の自分を助けてくれていると思っています。

もしも無人島に持って行くなら?

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(C) 2017吉本興業 (C) せきしろ『海辺の週刊大衆』双葉社

Q:又吉さんは、無人島に持って行くならどんなものを持っていきますか?

芸人ともよくそういう話をするんですが、この映画の撮影があまりにも寒かったので、あれ以来ずっと「一枚羽織るもの」って言っています。もうそうとしか考えられへん。それ以外やったら、「本」とか「音楽」かな。でも本は一冊ですもんね。

Q:絶対聞かれると思いますが、もし一冊を持って行くならどうですか?

絶対気持ち悪がられると思うんですが、自分が書いた「東京百景」っていうエッセイ集ですね。もちろん「火花」も「劇場」も好きなんですが、寝る前にいつも「今日は何を読んで寝ようかな」ってなった時に読むのが「東京百景」の中で一個エピソードを選んで「おもしろーい」って言って寝たいんです。

Q:この作品のように、「火花」もドラマとなり、映画となりました。生みの親としてはどんなお気持ちでみているんですか?

とにかくうれしい気持ちです。こんな表現の仕方をしてくれるのかって思いましたし、原作にない部分の描き方も、僕が描いている世界と地続きだったのでよかったと思いました。どんどん作品が立体的になって行くのが、うれしかったです。

【取材後記】又吉直樹が、「火花」で芥川賞を受賞した時、心からの感謝を捧げたのが、「東京の親」と呼ぶせきしろと、構成作家の伊部譲二だった。37歳で急逝した伊部に、盟友のせきしろが捧げた原作を映画化した『海辺の週刊大衆』。又吉が、主演を務めたのはある種の必然だったのだろう。インタビューからは、又吉の「言葉」への愛情、せきしろと亡くなった伊部さんへの思いが伝わってきた。

映画『海辺の週刊大衆』は4月14日(土)シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開

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