アニメの未来を担うスタジオポノックこぼれ話!~米林宏昌監督×山下明彦監督対談~

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ちいさな英雄

 米林宏昌監督作『メアリと魔女の花』を成功させたスタジオポノックの新作は、短編アニメーションプロジェクト「ポノック短編劇場」。第一弾『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』は、米林監督をはじめ百瀬義行監督、山下明彦監督らスタジオジブリを支えたクリエーターが腕を競う。そのうち「カニーニとカニーノ」の米林監督と「透明人間」の山下監督に舞台裏を聞いた。(取材・文:神武団四郎)

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短編プロジェクトのはじまり

ちいさな英雄
米林監督(左)、山下監督(右)

Q:なぜ短編だったのでしょう?

米林:もともとは『メアリと魔女の花』の制作中にスピンオフ短編の話が出て、それがオリジナル短編の企画になったんですよね。僕はまだ『メアリ~』の最中だったので、山下さんの「透明人間」が先行していました。

山下:僕が話を聞いたのは、『メアリ~』の作画に参加する前でした。ジブリの制作部門が解散した後、テレビシリーズやOVAを何本か演出したんですが、やりたいことができず鬱憤がたまっていて……。ある意味、リベンジという思いはありました。

米林:具体的な作業は『メアリ~』が終わってから?

山下:絵コンテを描き始めたのは最中ですね。ポノックの西村義明プロデューサーと題材を模索する中で、突然「透明人間」をやらないかと。最初はSFはやりたくないという思いが強かった。ところがある日、「透明な人間」ではなく「存在が見えない人」というアイデアが浮かんでから、ブレずに進んでいきました。

米林:僕は『メアリ』を終えて、短編をやらなきゃと思いつつ真っ白に燃え尽き状態(笑)。そこで「透明人間」にアニメーターとして参加することにしたんです。やりながら考えようと。スタジオの壁には、ジブリやポノックの路線とは違うダークな「透明人間」のイメージボードが貼られていて、ぼんやり「違うテイストにした方がいいだろうな」と思ったのがスタートでした。最初はカエルの物語を試行錯誤しましたがピンとこなくて、水の中の生き物を調べるうちにサワガニに行きついた。かわいらしいし、川底で捕食者を避けひっそり暮らす家族を人の姿で描いたら、僕らの世界とオーバーラップするのではないかと考えたんです。

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苦しんで、悩み抜いた新たな挑戦

カニーニとカニーノ
米林監督による、サワガニ兄弟の冒険ファンタジー『カニーニとカニーノ』(C) 2018 STUDIO PONOC

Q:テーマにしたのはどんなことでしょう?

山下:今回作業面でテーマにしたのは、人の内面をどれだけ描けるかということ。アニメーションの芝居だけではなく、画面全体で心情を表現できたら、それがストーリーになるだろうと。だから背景を含め不健康そうなトーンで統一しました。気持ちが高ぶると画面がパーッと明るくなったり、その時々の気持ちをセリフではなく映像で語らせようということです。

米林:まず決めたのが、か弱い主人公を描くこと。『メアリ』のヒロインは転んでも自分の力で立ち上がる女の子だったし、観てくれるお客さんも強い人ばかりじゃない。自分に二人目の子供が生まれたこともあり、小さな兄弟が協力しながら何かを乗り越える話を作りたかった。他者と力を合わせる最初の一歩が描ければ、多くの人にとっても意味がある作品になるんじゃないかなと。

米林宏昌
米林監督

Q:最大のチャレンジは?

山下:これまで美術が美しい作品はたくさんあるので、同じことはやれないと思いました。だから“汚さ”にこだわりました。具体的には色味をダークにして緻密に描かない。物の形をはっきりさせず、質感だけで描いてもらいました。美術監督の林孝輔さんは、絵を描く前に画用紙の表面を紙やすりで荒らし、そこに地塗りをした後にまた紙やすりをかけるという実験的なことまでしてくれました。最初は「汚い画」という僕の要望に、抵抗があったみたいですけど(笑)、すんなり意図を理解いただきスケッチの1枚目から完璧でした。

透明人間
山下監督が、ある孤独な男の日常を、手に汗握るアクション満載で活写する『透明人間』(C) 2018 STUDIO PONOC

米林:主人公の透明な顔に雨の水滴がいっぱいつくシーンの手描きもすごく面倒そう(笑)。

山下:絵コンテに「雨粒はCGにする?」と書いたくらい、手描きは難しいと思っていましたね。でも、とにかく手で描くんだと!(笑)特に大変だったのが食事のシーン。モグモグすると顔の正面は手前に向かって膨らむけど、奥は反対に膨らませるんです。しかも水滴だけだと極端に膨らませないと、そう見えないのでかなり誇張しました。

米林:頭がおかしくなりそうですね(笑)。

山下:おかしくなりますよ! 顔のベースとなる輪郭のラフと、メガネを描き込んだもの、手前と奥の雨粒と別々に、紙を三枚重ねで描くので。今、何を描いているんだっけ……と(笑)。

山下明彦
山下監督

米林:山下さんのようにキャラクターを描くのが上手な人が、見えない人間を描くのが面白い(笑)。

山下:西村プロデューサーは「得意なものを封印したかった」と言っていましたね。そしたら何を作るだろうって。うまいこと操られました。

米林:僕も何か挑戦をしてほしいと言われたのでCGを使うことにしました。水の表現は先人たちが長い年月をかけて作り上げたさまざまな表現法がありますが、CGを使ったらもっと違う形で描けるんじゃないか。結果的にキャラクター以外は全部CGにしました。ただCGをそのまま使うと手描きの絵と乖離するので、探りながらですね。魚のシーンは3Dモデルにテクスチャを張るんですが、一枚の絵をすべてのカットに流用するんじゃなく、美術スタッフがワンカットごとに描いたものを張り付けた。手間がかかるんですが、絵が動いているような不思議な感じが出せたと思います。キャラクターの水しぶきも1コマずつ合成したのでとにかく大変でしたが、新しい表現ができたと思います。

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3作品の不思議な共通点

カニーニとカニーノ
父を捜して、サワガニ兄弟が生まれて初めての旅に出る『カニーニとカニーノ』(C) 2018 STUDIO PONOC

Q:完走した率直な感想はズバリ?

米林:『メアリ~』の直後だったので本当に疲れました……。スケジュールがないうえ、アニメーション作品が多数ある中で、いろんな作品が同時に進行しているのでアニメーターが不足していると言われています。

山下:どこもうまいアニメーターの取り合いですよね。

米林:短編だし自分で描いた方が早いと、かなりのカット数、ガーッとラフな原画を描き第二原画の人に整えてもらったんです。CGと分担できたのでまだよかったけど、全部作画だったら完成しなかったでしょう。粘り強くやってくれたスタッフの皆さんには感謝ですね。実は今日(8月9日)、全ての作業が終わったところなんですが(笑)。

山下:僕の場合は完成後、どうもスッキリしないんですよ。初めて白紙からオリジナルを作ったんですが、作品に自分の内面、特に気にしている闇の部分がちょいちょい見えるんです。何だか居心地の悪さを感じています(笑)。

サムライエッグ
百瀬義行監督が極度の卵アレルギーを持つ少年と、母の闘いの日々を描く『サムライエッグ』(C) 2018 STUDIO PONOC

米林:でも共感する人は多いと思いますよ。透明人間の気持ちがわかるシーン、たくさんありますもん。

山下:そこにいるんだけど、いないも同然に扱われている人って実際いると思うんです。ただ馴染むのが苦手なだけで、みんな良い面もちゃんと持っている。そんな不器用な人が報われる映画にしたいなって。

Q:3人の監督による短編集としてご覧になってどんなことを感じましたか?

透明人間
誰にも気づいてもらえない主人公が、命の危険にさらされる……(『透明人間』)(C) 2018 STUDIO PONOC

米林:面白かったのは、3本ともストーリーや表現の仕方はバラバラだけど共通点があること。弱い存在の人たちが、何かを乗り越えて前に進もうとする姿が描かれているんです。

山下:自信がなくても捨てたもんじゃないと思うんです。成功者をたたえる物語なんて面白くない。何も成し遂げていなくても、その過程で頑張っている人だって十分輝いていますから。

米林:いろんな物語が楽しめたと感じる一方、一つの物語を味わえたという感じもするし、面白い短編集になったと思います。

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アニメーター人生で最もつらかった時期

米林宏昌・山下明彦
これまでの修羅場を振り返る……

Q:お二人はこれまで多くの作品に参加されていますが、アニメーションをやめようと思ったことはありますか?

山下:30代前半の頃に、仕事がつまらなくなった時期がありました。10年ほどかけてOVAのシリーズ「ジャイアントロボ THE ANIMATION  地球が静止する日」(1992~1998)を好き勝手やらせてもらうことができました。ところが、終わってみるとやることがなくなってしまって。次の仕事に入ってもまったく描けなくなり、悶々としていました。その後、ゲーム「幻想水滸外伝」の仕事で演出の平田智浩さんやアニメーターの松本憲生さんと出逢い、アニメーションの面白さを思い出したんです。そのタイミングで『千と千尋の神隠し』のお話をいただき、今の自分ならスタジオジブリの仕事もできるかも、とV字回復(笑)。人との出会いは大きいですね。

米林:アニメーターの仕事は楽しいのでやめたいと思ったことはありません。『崖の上のポニョ』を終えて一番仕事が楽しかった時期に演出をやるようになったので、その後の方が大変なことが多かったです。具体的に言うと長くなるのでやめますが、心身ともにすり切れます(笑)。ずっとぶっ続けでやってきたので、これまでお世話になった方たちのお手伝いもしていきたいと思っています。

影響を受けた“ヒーロー”たち

米林宏昌
少女漫画の影響を明かす米林監督

Q:タイトルに掛け、お二人が影響を受けたヒーローについてお聞かせください。

山下:アニメーションに関しては確実に宮崎駿さんです。アニメーションのテクニックはもちろん、ものの見方や考え方に影響を受けました。実際に宮崎作品に関わって「それがあるから宮崎さんの作品は面白いんだ」と気づいたことがいくつもある。

米林:僕も宮崎駿監督になりますね。というか、宮崎監督以外の方の作品をほとんどやってない(笑)。『やどさがし』という作品で主人公が、妖怪のような奇妙なものたちにお世話になったお礼に赤いリンゴを置いていきます。なぜリンゴなんですか? と質問したところ、「赤い心だ」と答えられました。こういうところの裏側に創作の秘密があるような気がして、想像するのが好きなんです。

山下明彦
キュアロン、イニャリトゥら映画監督、少年漫画の巨匠を挙げる山下監督

山下:今回、直接的に影響を受けた人もたくさんいます。演出面ではアルフォンソ・キュアロンの作品群で、中でも『トゥモロー・ワールド』(2006)や『ゼロ・グラビティ』(2013)はダイレクトに取り入れています。人間の暗い部分の描き方はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥですね。伊藤潤二さんと諸星大二郎さんの漫画もそう。荒唐無稽なことを平気でやっていて、これなら僕のアイデアもいけるだろうと。音楽だと中村中さんで、心がヒリヒリする歌詞に影響されています。

米林:僕はきれいな線が好きで少女漫画をよく読んでいました。ちょうど「カニーニとカニーノ」を構想している時に萩岩睦美先生の展示会があったんです。鳥を題材にした絵本の原画展でした。エナガのはかない生涯を描いた作品に胸を打たれ、今作には精神的に影響を受けました。結果的には随分違うものになってますが……(笑)。

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未来を担うアニメーターたちへ

Q:アニメーションを目指す人たちにアドバイスをお願いします。

米林:僕は作品の中で言っている事が全てです。怖いものや大変なこと、不安は僕らの周りにたくさんある。「カニーニとカニーノ」もそうですが、豊かに見える世界でもすぐ横に不安は同居しています。でも前に進んでいくしかない。どう進むかはそれぞれが考えることですが、周りを見れば仲間はいるということです。

山下:業界のことで言いますと、何かに縛られることが多いんです。せっかく表現の場を与えられているのに、設定や論理に縛られて身動きできない。理論は必要なんですが、縛られ過ぎて表現まで行きつけない人をよく目にします。人は誰しも気づかないうち自分で壁や殻を作ってこもりがちですが、そこから抜け出し新風を巻き起こしてほしいですね。「透明人間」もそのことを裏テーマにしています。

日本のアニメーションを牽引するメンバーが、“英雄”をテーマに競演した『ちいさな英雄』。スタイルやテイストはそれぞれだが、どれもアニメーション本来の面白さを追求した意欲作に仕上がった。短編3本立てという従来の商業アニメーションにはないチャレンジングな公開形式を含め、アニメーションの多様性をさらに広げる起爆剤になるのではないだろうか。

映画『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』は8月24日より全国公開

『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』オフィシャルサイト>

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プロフィール

山下明彦(やました・あきひこ)

山下明彦

アニメーター、演出家。1980年代からフリーのアニメーターとして活躍。OVA作品「ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日」(1992~1998)でキャラクターデザイン、絵コンテ、作画監督を担当。多くのスタジオジブリ作品に参加し、『千と千尋の神隠し』(2001)、『風立ちぬ』(2013)で原画を、『ハウルの動く城』(2004)、『借りぐらしのアリエッティ』(2010)、『コクリコ坂から』(2011)では作画監督を、『崖の上のポニョ』(2008)、『思い出のマーニー』(2014)で作画監督補を担当。『メアリと魔女の花』でも作画監督補を務めた。初監督作品は、三鷹の森ジブリ美術館のオリジナル短編アニメ「ちゅうずもう」(2010)。

米林宏昌(よねばやし・ひろまさ)

山下明彦

アニメーション映画監督。1996年にスタジオジブリに入社し、『もののけ姫』(1997)、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)で動画を、『千と千尋の神隠し』(2001)、『ギブリーズ episode2』(2002)、『ハウルの動く城』(2004)、『崖の上のポニョ』(2008)で原画を、『ゲド戦記』(2006)では作画監督補を担当した。2010年公開の『借りぐらしのアリエッティ』で監督デビュー。監督第2作の『思い出のマーニー』で第88回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた。ジブリ退社後、スタジオポノックで制作した『メアリと魔女の花』(2017)が監督第3作。

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