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『来る』やっぱりすごかった!

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 『嫌われ松子の一生』『告白』『渇き。』と濃密な映画を連打する中島哲也監督最新作『来る』が公開されました。日本ホラー小説大賞受賞の原作を岡田准一黒木華小松菜奈松たか子妻夫木聡と列記するだけでテンションの上がるキャストで映画化。その内容は……とにかくヤバい。ただいわゆるホラーとは一線を画し、人間の悪意がリアルに描かれたりぞわっとする恐怖の先を行く超エンタメ作なのです!

ぎりぎりの恐怖と洗練されたエンタメの共存

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 『来る』って……なにが来る!? 「呼ばれてしもたら、逃げられへん、絶対」と劇中の少女が言うように、バケモノ的な“あれ”に狙われた者は絶対に逃げられないことだけは確か。正体不明のものに追われ、命の危機に直面する恐ろしさ——その布石を打ちながら、物語は怒涛の展開を見せていきます。

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 オカルトライターのもとにやってきた会社員の田原秀樹の周辺で超常現象としか説明できない衝撃的事件が続発し、霊媒師の力を持つキャバ嬢と調査を始めます。“あれ”に遭遇する後輩、テレビで見かけるタレント霊媒師ら、登場人物の持ち込むエピソードはどれもインパクトがあり、どことどこがどう繋がって、どんなストーリーになるのか? 行く末が想像できません

 また、劇中で流れる木村カエラの「Butterfly」の世界観そのままに、田原家のまぶしい幸せが猛スピードでスケッチされ、楽しいラブコメを観た気分になったかと思えば、随所に人間の悪意が散りばめられる。その心理が観る側に澱のようにたまり、やがて秀樹の周りで噴出する超常現象がより恐ろしいものに思えます。

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 ぎりぎりの恐怖の根源は? という謎をテンポが速いスタイリッシュな映像で描き、繰り返すメロディーがトランス状態をもたらすキング・クルーの「Dum Surfer」などキレッキレの音楽で彩る——“たかが恐怖”は洗練されたエンタメとなり、気付けばどっぷりと『来る』の世界へ引きずり込まれるのです。

「こんなヤツいるよな」と思わせるリアルな演技と現実を軽く超越した演技

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 キャラクターは誰もが一筋縄ではいきません。それは現実の人間と同じ。誰もが表と裏を持ち、人には言えないどろどろとした感情を奥底に抱え、それでも表こそが自分のすべて! みたいな顔で生きています。

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 岡田准一演じる野崎は難しい役回りです。うさんくさいオカルトライターながら仕事への責任感はあり、“あれ”を追ううち、彼も自身の弱さと対峙するハメに。存在の核に虚を抱えるつかみどころのない男を岡田が演じるのは新鮮です。

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 妻夫木聡の演じる田原秀樹は一見まともで明るく家族思いな夫で、SNSで懸命にそのリア充ぶりをアピールしています。ですがそうした見た目にはすべて、人には見せない裏があります。そんな秀樹を妻夫木は嬉々として演じ、徹して迷いがありません。

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 黒木華の演じる秀樹の妻・香奈も思わぬ奥行きを持ちます。地味で健気ないい子に思えますが、ワンオペ育児に疲弊して精神のバランスを崩し、歪んだ笑顔には毒気がにじみます。

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 キャバ嬢霊媒師・真琴を演じるのが小松菜奈だということが一見してわからないほどド派手でセクシー、でもちょっと品がないという見た目。けれど、追い詰められた演技にどこか優しさがにじむのは、彼女だからこそでしょう。

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 そして松たか子です。真琴の姉で、日本最強の霊媒師である比嘉琴子。妹思いではありますが、なにせ見た目も行動もいちいち独特。そんな役をこれほどクールに揺るぎなく、説得力を持って演じられる俳優がほかにいるでしょうか?

 「こんなヤツいるよな」と思わせるリアルな演技、そして、いるとは思えないキャラクターを「いるとしたらこういう人かも」と思わせる、現実を軽く超越した演技。それぞれに見応えがあり、その表現の奥行きのなかに、底知れない人間というものの恐ろしさが垣間見えるのです。

『告白』のさらにその先にある恐怖とは?

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 これは、ヒットメーカー、中島哲也監督の映画です。『告白』は2010年6月5日に公開され、全国映画動員ランキング4週連続1位を獲得。最終興行収入は38億円を超え、その年の邦画興行成績7位を記録しています。

 中島監督の映画は、画面密度の濃厚な映像とハイスピードな展開、それを異様なテンションで語って観る者を圧倒します。その腕っぷしの強さと高いエンタメ性、描き込まれるエグさぐりぐりの人間ドラマ——中島哲也以外に、中島哲也のような映画を撮る監督を他に知りません。

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 『来る』はそんな中島監督の最新作、その最先端にして現時点での最終的な進化形です。それは“たかがホラー”と呼べるような類の恐怖ではなく、現実と同じように表と裏を持たずにはいられない人間たちのドラマです。だからこそ登場人物が味わう世にも恐ろしい経験が、画面のこちら側にやってきてもおかしくないのかもしれない、と思わせる現実味を帯びて迫ってくるのです。

 それをシャープな映像で切り取り、洗練された楽曲でその世界に浸らせ、気付けばこれまで感じたことのない恐怖、全身が波打つように鳥肌になっていく恐ろしさを体感することになります。あまりに磨き上げられた恐怖は痛快ですらある、そんな事実を思い知らされるのです。

 中島監督の映画は暗闇の中、大きなスクリーンで観ないことには、とてもすべてを味わいきれない濃度を持っているのです。(浅見祥子)

映画『来る』は全国公開中
映画『来る』オフィシャルサイト
(C) 2018「来る」製作委員会

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