ぐるっと!世界の映画祭

野心的で大胆な新鋭監督を応援!フランス・ベルフォール国際映画祭

ぐるっと!世界の映画祭

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア

【第79回】(フランス)

 映画を第七芸術と映画理論家が定義付け、1994年からは公教育で映画鑑賞プログラムを取り入れているフランス。地方で開催される映画祭一つとっても単なるお祭りとしてだけでなく、映画をより深く知り、学び、次世代を育むという姿勢が見て取れます。その代表ともいえる第33回ベルフォール国際映画祭(現地時間2018年11月17日~25日)を、インターナショナル長編コンペティション部門に『ある惑星の散文』が選ばれ、また神奈川で年末に開催されている上映イベント「海に浮かぶ映画館」創設者の深田隆之監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:Vincent Courtois、深田隆之、ベルフォール国際映画祭)

ベルフォール国際映画祭
ベルフォール国際映画祭

ベルフォール国際映画祭公式サイトはこちら>>

[PR]

シネフィル乱舞!?の充実の特集上映

クロージング・セレモニー
クロージング・セレモニーの様子

 本映画祭は、“ヌーヴェル・ヴァーグの精神的父”と称された映画批評家アンドレ・バザンの妻であり、テレビのドキュメンタリーシリーズ「われらの時代のシネアストたち」のプロデューサーとしても知られるジャニーヌ・バザンが、フレッシュで野心的、かつ大胆な映画を紹介すべく1986年に創設された。

 その精神は今も息づいており、プログラムのメインである長・短編のインターナショナル・コンペティション、フランス国内実写コンペティションは、監督作3本までの新鋭が対象。賞金も高額で、国際審査員による長編グランプリは8,000ユーロ(約100万円。1ユーロ=125円換算)、配給会社に贈られるCine+配給サポート賞に至っては、1万5,000ユーロ(約187万5,000円)だ。まだ知名度の低い新鋭にとっては、何よりの力強いバックアップとなるに違いない。ちなみに長編グランプリの名称は、創設者の名前から取ったジャニーヌ・バザン賞となっている。

メイン会場
メイン会場のシネマ・パテ・ベルフォール

 またポストプロダクション(仕上げ作業)のサポート「Films en cours」もあり、審査員によって選ばれた優勝者は映画祭と提携しているポストプロダクション・スタジオのサービスを受けることができる。第33回には、初監督作『3泊4日、5時の鐘』(2014)が好評だった三澤拓哉監督の日本・香港合作映画『落葉のころ』が候補作5本の中に選ばれた。

アンドレ・S・ラバルトの展覧会
特集上映『ファンタジー・ラバルト』に合わせて、「カイエ・デュ・シネマ」で筆を振るった批評家であり、監督、プロデューサーとしても活躍したアンドレ・S・ラバルトの展覧会も開かれた。

 特集上映も実に濃密だ。「ラ・トランスバーサル」と題されたクロス企画は、助演俳優を特集。『黒猫』(1934)のボリス・カーロフベラ・ルゴシから『マイ・プライベート・アイダホ』(1991)のウド・キア、『ビッグ・リボウスキ』(1998)のジョン・グッドマン、『ゴッドファーザー』シリーズのジョン・カザールなど総勢23人の計26作品を紹介。

ボランティア・スタッフ
子どもたちに案内をするボランティア・スタッフ。

 「あるジャンル」では、バザンと共に雑誌「カイエ・デュ・シネマ」を立ち上げた映画批評家であり、ジャン=リュック・ゴダール監督の『女と男のいる舗道』(1962)に俳優として出演し、多方面からヌーヴェル・ヴァーグを盛り立てたアンドレ・S・ラバルトの活動を展覧会と共に追った。さらに「映画と歴史」特集は「弾圧」のタイトルで黒人映画をピックアップしている。その一方で、「ジュニアとの出会い」と題した子ども向けの部門もある。映画の多様性を実感するプログラムだ。

 「面白そうな特集がいっぱいあるのですが、長編コンペティション部門の作品を鑑賞するのが中心で、観られない作品が多数ありました。観客は地元の人と高校生が授業の一環で来ていて、僕の上映の時も観客の半分が高校生だった回もありました。地元に密着して根付いてきた33回の歴史を感じました」(深田監督)

[PR]

作家性の強い作品たちを輩出

ある惑星の散文
長編コンペティション部門で上映された 深田隆之監督『ある惑星の散文』。

 深田監督が本映画祭を知ったのは、第32回のインターナショナル短編コンペティション部門で『二十代の夏』が、グランプリと観客賞のダブル受賞をした高野徹監督からだったという。監督作『ある惑星の散文』は制作費110万円の自主映画。映画監督の恋人を持ち、多忙な彼との心のズレを感じているルイと、精神疾患によって役者の仕事から離れているメイコという人生の岐路に立っている女性2人の人生を交錯させつつ、現代を生きる女性の等身大の姿を浮かび上がらせていく人間ドラマだ。

深田隆之、佐藤零郎
写真右から3人目が深田隆之監督。中央が、同じ長編コンペティション部門に参加していた『月夜釜合戦』の佐藤零郎監督。

 2016年に撮影し、1年かけて編集して2017年6月に完成。その後、福岡インディペンデント映画祭や福井映画祭などで上映されたが、海外の映画祭に申請してもなかなか選出されず。そんな時に高野監督から本映画祭の情報を得たという。

 「ただ映画祭そのものの情報が少なくて、高野君がグランプリを獲ったというニュースだけ。インターナショナル長編コンペティションに選ばれてから調べたところ、ポルトガルのペドロ・コスタ監督が『溶岩の家』(1994・日本未公開)と『骨』(1997)でインターナショナル長編コンペティションでグランプリを受賞しており、作家性の強い映画監督を輩出していることを知りました」(深田監督)

おもいでぽろぽろ
“アニメーションのちょっとした主観的な話”と題した特集上映で、高畑勲監督の『おもいでぽろぽろ』を上映。その告知ポスターならぬ告知壁画。

 報道の常と言うべきか、世界三大映画祭以外のニュースはなかなか日本では報じられることがないので止むを得ないかもしれない。

オムニバス映画TOKYO!
こちらも映画祭告知壁画。オムニバス映画『TOKYO!』の時のドニ・ラヴァンが!

 しかし本映画祭ではこれまで、前述した高野監督のほか、早川渉監督の16mm長編映画『7/25【nana-ni-go】』(1997)と石井克人監督の『茶の味』(2003)がインターナショナル長編コンペティションでグランプリを受賞。黒沢清監督が第29回のホラー特集の際、ゲストとして現地を訪れている。

 そして第33回のインターナショナル長編コンペティション部門には日本から、深田監督と佐藤零郎監督『月夜釜合戦』(2017)の2作が選出された。

 「会期中は同じ部門に参加している監督たちとの交流の機会があったのですが、『ザ・ワールド・イズ・フル・オブ・シークレッツ(原題) / The World is Full of Secrets』(アメリカ)のグラハム・スウォン監督と意気投合しました。彼の作品は少女たちが怖い話を語っていくという内容で、よく『ドラマ性がない』と批判され、国際映画祭もなかなか決まらなかったそうです。思わず『一緒だ!』と互いの境遇を語り合ってしまいました。僕らの作品を選んでくれたのはセレクション・メンバーの一人であるビクトール・ボーネリアス。明らかに彼の好みで僕たちの作品が選ばれており、ティーチインの司会も、期間中の僕たちのアテンドも彼が担当してくれました。そこには作品や作った監督たちに対してリスペクトがある。それが映画祭そのもののベースになっているのだということを感じました」(深田監督)

[PR]

自分の内面と向き合った日々

長編コンペティションのグランプリ
長編コンペティションのグランプリ(ジャニーヌ・バザン賞)は、テッド・フェント監督『クラシカル・ペリオド(原題)/Classical Period』(アメリカ)。

 『ある惑星の散文』の上映は2回行われ、1回目は舞台挨拶のみで、2回目にティーチインが行われた。

夕食会場
夕食会場はブッフェスタイルで、映画祭ゲストにはチケットが渡されて無料で利用ができる。ブルゴーニュ地方のワインとよく合うサラミや鳥の赤ワイン煮込み”コックヴァン”などが名物。

 「撮影場所が神奈川県・本牧と、日本映画ではなかなか見られない場所なので撮影場所についての質問を受けました。変に荒廃した雰囲気があるので、不思議な場所のように思ったのでしょうね。また前述したように授業の一環で来ている高校生が多かったのですが、おしゃべりはもちろん、寝ているような子もいない! 真剣に作品と向き合ってくれて、『主人公に共感しましたとか、続編はありますか? という問いも。うれしかったですね」(深田監督)

アフターパーティーの会場
アフター・パーティーの会場は、La Poudriereというクラブ。

 ただ自分の思わぬ本音にも気付いたという。映画祭に参加しさまざまな作品に触れるのが目的であって、競うつもりはなかったそうだが、他の監督たちの反応や評価が気になって仕方がなかったという。

 「一人の観客の反応が、明らかに他の監督作の方が良かったんです。その反応の違いを目の当たりにしてショックを受けました。そもそも何らかの評価を受けようと思って映画を作っているわけではなかったはずなのに、自分の中に負けたくないという欲求があることに気付けたのが収穫でもありました」(深田監督)

 インターナショナル長編コンペティション部門のグランプリは、テッド・フェント監督『クラシカル・ペリオド(原題) / Classical Period』(アメリカ)が受賞し、『ある惑星の散文』は賞を逃した。今回の悔しさが次作への原動力となるに違いない。  

[PR]

ル・コルビュジエの名建築がある街

ロンシャンの礼拝堂
ベルフォールといえば、ル・コルビュジエの最高傑作とも称されるロンシャンの礼拝堂。建築ファン垂涎の地も観光。

 ベルフォールはフランスの東部に位置するブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏にあり、パリのリヨン駅から特急列車TGVで約2時間半。今回、深田監督は渡航費と宿泊費4泊分が映画祭側の招待となったが、延泊して1週間滞在した。

ベルフォール城塞
普仏戦争の舞台となったことの名残を示すベルフォール城塞。

 「初めての海外映画祭で、次回はいつ参加できるか分かりませんから」(深田監督)

 滞在中の食事は、街の中心地であるレピュブリック広場に面したフェスティバルホールにケータリングがやってきて、映画祭ゲストには配布された無料チケットで夕食を楽しむことができたという。またスケジュールの空いた時間に観光も楽しみ、城塞の残る街の歴史を伝える歴史ミュージアムや、中心地から車で山の方へ向かうこと約30分の距離にある、建築家ル・コルビュジエの傑作と称されるロンシャン教会も見学したという。

「海に浮かぶ映画館」の会場
深田監督が館長を務める「海に浮かぶ映画館」の会場は、なんと船の中! 毎年年末に3日間だけオープンします。詳細は公式サイト(https://umi-theater.jimdo.com)にて。

 深田監督自身も、2013年から横浜の“どこか”で3日間のみ運営する「海に浮かぶ映画館」を運営していることもあり、映画祭のオーガナイズやスタッフの動きは非常に刺激になったという。

 「やはり参考になったのは“人”です。ボランティアの数も多いですし、街中の建物の壁に直接、映画祭を告知するイラストや写真が貼られている。多分、普通の民家もあると思うのですが、それがもう市民公認になっているんですよね。継続して開催することの重要さを感じました」(深田監督)

[PR]

こども映画教室で現在も勉強中

こども映画教室
深田監督(写真前列右端)がサポートスタッフを務める「こども映画教室」。2017年からフランスのシネマテーク主催の国際的映画教育プログラム「映画、100歳の青春(Le Cinema, Cent ans de jeunesse)」にも参加している。写真は、2018-2019年の参加者と、講師の諏訪敦彦監督(前列中央)。 - (c)上田謙太郎/こども映画教室

 深田監督は映画制作のほか、東京造形大学時代の恩師でもある諏訪敦彦監督が講師を務める一般社団法人こども映画教室(代表:土肥悦子)で、サポートスタッフも務めている。2017年からはフランスのシネマテーク主催の国際的映画教育プログラム「映画、100歳の青春」に参加しており、毎年、テーマに則って映画鑑賞から制作まで行い、最後はパリで発表会を行うというワークショップだ。

オリジナルバッグ
映画祭オリジナルバッグ

 2018-2019のテーマは“シチュエーション”。そのテーマを考えるために抜粋して鑑賞する作品が、チャールズ・チャップリンの名作『街の灯』(1931)のラストシーンから、ヴィットリオ・デ・シーカ監督『自転車泥棒』(1948)、侯孝賢ホウ・シャオシェン)監督『百年恋歌』(2005)など、普通の中学生だったら手を出さないような作品ばかりだ。それらの作品をシチュエーションの視点から意図や意味を考えることで新たな発見をし、自分たちで映画を作る際のヒントにしていく。

 「諏訪さんの子どもたちへの授業が高度すぎて、大人の僕たちの方が食い入るように聞いています。そういう意味でも非常に勉強になります」(深田監督)

 映画制作だけでなく、教育としての映画のあり方や、映画を介して人が集うことの楽しさを発信している深田監督。同じような志を持っているベルフォール国際映画祭で作品が上映されたのは、運命だったのかもしれない。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア

楽天市場

[PR]