やんちゃ坊主たちに喝采を!『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』

映画ファンにすすめるアニメ映画

 2020年、漫画「クレヨンしんちゃん」は、連載開始から30年を迎えた。その記念すべき年に、アニメ劇場版の最新作となる『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』が公開されている。どんなに時代が変わっても、大人も子供も笑って泣ける、映画『クレヨンしんちゃん』の世界は変わらない。加えて、今回の作品には、大人へのメッセージも込められているように思える。(香椎葉平)

※ご注意 なおこのコンテンツは『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』について、一部ネタバレが含まれる内容となります。ご注意ください。

しんのすけを含めたほぼ四人の勇者
しんのすけを含めたほぼ四人の勇者が春日部を救うため立ち上がる!? 『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』より (C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

【主な登場人物】

しんのすけ(野原しんのすけ)(CV:小林由美子
ひたすらお気楽マイペースな幼稚園児。美人のお姉さんと、お菓子の「チョコビ」が大好き。ななこ(大原ななこ)お姉さんのことは特に好き。一人称は「オラ」。

ぶりぶりざえもん(CV:神谷浩史
しんのすけが生み出したキャラクター。「救いのヒーロー」を自称しているが、ナルシストのろくでなしのうえ、すぐに裏切る。腰に差しているのは、刀ではなく千歳飴。

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常にチャレンジングな「クレヨンしんちゃん」の劇場版

 ずいぶん昔の話になるが、「お気に入りの時代劇は?」と聞かれて、「ぶりぶりざえもんの冒険」と答え、映画マニアの知人から失笑を浴びたことがある。テレビアニメ「クレヨンしんちゃん」の外伝として放映されたもので、しんちゃんこと野原しんのすけと、彼の生み出した救いのヒーロー・ぶりぶりざえもん(CV:塩沢兼人/神谷浩史)が、時代劇を含めたさまざまな世界で冒険を繰り広げるというものだ。

 「ぶりぶりざえもんの冒険」の殺陣のシーンは、よく観ると、驚くほど精密なこだわりのもとに組み立てられていることがわかる。それだけでなく、深作欣二監督の『魔界転生』(1981)や『里見八犬伝』(1983)以降すっかり姿を消してしまった感のある、破天荒でインチキで大味だからこそ楽しめる大衆向け娯楽時代活劇の世界を、オマージュとしてあそこまで追い求めた作品は少ないのではないか。

救いのヒーローぶりぶりざえもん
『映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ ブリブリ3分ポッキリ大進撃』(2005)以来の登場となる救いのヒーローぶりぶりざえもん!『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』より (C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

 そのうえ、子供と一緒になって大笑いできるのだ。何しろこのぶりぶりざえもんは、救いのヒーローとは名ばかりで、出てきても3分間しか動こうとしないわ、動いても何ひとつやらないくせに超高額の救い料を要求するわ、ものすごくカッコイイ声で「わたしは常に強い者の味方だ」と言い放ってすぐに寝返ろうとするわで、しんのすけすらあきれるほどのろくでなしなのだ。

 「クレヨンしんちゃん」の映画が「泣ける」「大人も楽しめる」と評判になったのは、原恵一監督の『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)や『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(2002)あたりからだろう。ちなみに後者には、原監督が時代劇におけるリアリズムを追求したと思しき描写が多々見られる。未見の方は一度ご覧になれば、筆者がここまで述べてきたことが、単なる冗談やレトリックではないとおわかりになるはずだ。

 子供向けアニメの劇場版で、大人も楽しめるものは、これまでにも数多くあった。「クレヨンしんちゃん」の劇場版はそれ以上に、毎回必ずチャレンジングな要素を持っているから、これだけ長きに渡って、大人にも楽しまれてきたのではないか。

 子供におもねるだけでなく、子供向けアニメの枠から外れて変に大人にこびようとするのでもない、高い志を持ったクリエイティブ上の冒険。それは生誕30周年記念作品でもある今回の作品、『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』にも見て取れる。

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作品にこめられたメッセージ

 空に浮かぶ王国・ラクガキングダム。地上の子供たちの自由なラクガキの持つパワーをエネルギー源にするこの国は、子供のラクガキが街中にはほとんど見かけなくなった今、滅亡の危機に瀕していた。国を憂う防衛大臣(CV:山田裕貴)は、地上の子供たちに無理やり落書きさせるため、指導官リンゴ・イチゴ・メロン(CV:りんごちゃん)らに地上世界の侵攻を命じる。

 それに反対するラクガキング国王(CV:中田譲治)は監禁され、窮地に陥った姫(CV:きゃりーぱみゅぱみゅ)は、侵攻を阻止する最後の手段として、ミラクルクレヨンを地上へと送る。描いたラクガキが具現化するという王国の秘宝だが、王族と選ばれし勇者にしか使うことができない。しんのすけこそ、その選ばれし勇者で……。

防衛大臣らと対峙するしんのすけ
王国・ラクガキングダムを憂う防衛大臣らと対峙するしんのすけ率いる勇者者たち!? 『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者者』より (C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

 監督は、鮮烈な映像感覚で『ラブライブ!』シリーズなどの大ヒット作を飛ばす京極尚彦。彼は真に自由なラクガキを映像で表現するため、実際に春日部の子供たちに描いてもらった絵をアニメーションに組み込んでみせる。普段はテレビアニメと交わる機会の少ない、アートアニメ作家のぬQ姫田真武を起用しているのも、世界観を補強するためのものだろう。シュールレアリスムの雰囲気の漂うラクガキングダムにまつわるデザインには、ぜひとも注目してほしい。

 子供向けアニメ映画としては極めて珍しいと思われる、わが身かわいさに子供たちを罵倒する身勝手な大人たちを痛烈に描いた場面もある。大の大人が幼い子供に対して、自分たちが救われることはないのに希望など説くなと責めるのだ。

 これは、ラクガキングダムの防衛大臣が祖国を救うため、地上の子供たちに「さあ、のびのびと自由に落書きをしろ!」と、真っ白なスケッチブックを押し付けたことの、裏返しのような行為だ。子供を、大人が救われるためだけに存在する便利な道具とみなしている。

 われわれだって子供たちを、子供らしくしろという言葉のもとに、そんな立ち位置に押し込めてしまっているのではないか? この辺りが、本作には大人に向けたメッセージが込められているのではと思ったゆえんだ。

 子供を連れて劇場に訪れた親御さんにも、ひとりで観に来た大人にも、メッセージは必ず伝わるはず。子供たちだって、今はわからなくても、いずれ大人になった時に感じ取るだろう。だから、今は心から楽しんでいるだけでいい。「クレヨンしんちゃん」の劇場版は、まず何よりも、笑って泣ける娯楽大活劇なのだから。その点も、本作は決してぶれることがない。

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しんのすけが勇者に選ばれた理由!?

 それにしてもなぜ、しんのすけがミラクルクレヨンを持つ勇者に選ばれたのか? 筆者には、何となくわかる気がする。彼が大人にとって都合の良い行動をする子供ではない、ただ自然に子供として生きている子供、つまりは良い子ではない子だからだ。純真無垢(むく)かつ健全などという大人の観念とは無関係な存在だからこそ、描いた絵は命を持って動き出すのだろう。「子供の絵は上手下手ではなく、その絵の持つ生命力に目を向けよ」というようなことを説いていた画家・岡本太郎であれば、なるほどそうだと膝を打ってくれるかもしれない。

クレヨンしんちゃんの魅力
「クレヨンしんちゃん」の魅力の1つは子供らしさ!? 『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』より (C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

 野原しんのすけは大人にとっての良い子ではないなのだ。なにしろ、原作となったコミックスも元々、しんのすけに振り回される大人たちの姿を描いた、完全に大人向けのギャグ漫画だった。初期の単行本には、夫婦の夜の営みをしんのすけに見られてしまった父・ひろし(CV:藤原啓治森川智之)と母・みさえ(CV:ならはしみき)が、プロレスごっこをしていたのだと必死にごまかす場面さえある。それを慧眼(けいがん)のプロデューサーがテレビアニメ化するや、「ゾウさん」と下半身を丸出しにするような、しんのすけのお下品なギャグが子供に大ウケし、子供向けとして国民的な作品になっていった。

 しんのすけは周囲の大人をさんざんに振り回すし、両親のひろしとみさえも、完璧な両親とは程遠い。育児に追われ、生活に追われ、それでもわが子をわが子として、ありのままの姿で体を張って愛そうとする。しんのすけのイタズラに本気で怒って追い回したりすれど、大人にとって便利なものわかりの良い子に作り替えようとは決してしない。「さあ、のびのびと自由に落書きをしろ!」と、純白の牢獄のようなスケッチブックを無理やり与えて、大人に都合の良い子供らしさを押し付けたりはしない

 それこそが、「クレヨンしんちゃん」という作品の何よりも優れた点であり、長きに渡ってシリーズが愛される要因であり、しんのすけが本作で勇者として選ばれた理由でもあるのだ。

 彼がミラクルクレヨンで生み出す勇者は、はいたまま二日目になった臭いブリーフ(CV:冨永みーな)、愛しのななこお姉さんっぽいニセななこ(CV:伊藤静)に、誰あろうぶりぶりざえもん。とても勇者らしくは見えないが、勇者はそれらしい見た目をしているはずというのも、大人の勝手なイメージなのかもしれない。

エンドロールのとある箇所も見逃せない
エンドロールのとある箇所も見逃せない!? 『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』より (C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

 今回も、テレビでおなじみの華やかなスターたちがゲスト声優を務めるほか、人気ミュージシャン・レキシによる主題歌も作品を彩る。とはいえ主役はあくまで、しんのすけたちと「クレヨンしんちゃん」を愛する子供たちだ。エンドロールのとある箇所には、ぜひとも拍手を送ってあげてほしい。

 しんのすけや「かすかべ防衛隊」のお友だちをはじめとする、やんちゃ坊主たちに喝采を! 未来は子供たち自身のものだ。

【メインスタッフ】
原作:臼井儀人(らくだ社)
監督:京極尚彦
脚本:高田亮、京極尚彦
キャラクター原案:ぬQ、姫田真武
主題歌:レキシ
製作:シンエイ動画、テレビ朝日、ADKエモーションズ、双葉社

【声の出演】
小林由美子
ならはしみき
森川智之
こおろぎさとみ
神谷浩史
山田裕貴
りんごちゃん
きゃりーぱみゅぱみゅ(ラクガキ応援大使)
冨永みーな
伊藤静
黒沢ともよ
中田譲治
飛田展男
小杉十郎太
井上喜久子
三ツ矢雄二
平田広明
能登麻美子
玄田哲章

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