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『映画クレヨンしんちゃん』名作の作り手たちが語る裏話

 今月公開される映画『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』(4月15日公開)が劇場版25作目にあたる「クレヨンしんちゃん」。毎年劇場版が公開されるという条件の中、毎回異なるテーマで新たな顔を見せ続け、かつクオリティーを保ち続けつつ、時に名作と呼ばれる作品を生み出すことのいかにハードルが高いことか。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』など過去のクレヨンしんちゃんに関わってきた原恵一氏・湯浅政明氏・中島かずき氏が、今だからこそ話せる「しんちゃん」裏話を語った。(取材・文:編集部・井本早紀)(以下、ネタバレあり)

◆原恵一◆

戦国
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2002

 第1作『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』から演出を担当。監督作『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』はアニメファンの枠を超えて高く評価され、『戦国大合戦』は実写映画化もされた(『BALLAD 名もなき恋のうた』)。『しんちゃん』シリーズのほかにも、『河童のクゥと夏休み』『百日紅~Miss HOKUSAI~』などの作品を手掛けている。

■今だから語れる「クレヨンしんちゃん」裏話

 「しんちゃん」は、シンエイ動画の異端児として好きにさせていただきました。テレビアニメ開始時、監督を担当した本郷みつるさんは「君が作りたいものは知っているが、これを半年だけやってくれ」と頼まれたんです。なので最初のしんのすけは、あまり動かないキャラクターだったんですね。なるべく最小の労力で最大の効果を得ようと。ですが、アニメーターというのは、動かしたくてしょうがない人たちで(笑)。自由に作らせていただいた。劇場版を作る際にもミーティングがあるのですが、最終的に自分たちが好きなものを作っていきました。それこそ今なので言えますが、『映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』ではゲストキャラクターの吹雪丸に入れ込みすぎて、絵コンテを描きながら「なんでしんのすけがメインなんだ!?」「吹雪丸のドラマを作りたいんだ!」と言ってしまったこともありました。ひどいですよね(笑)。

雲黒斎
『映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』 左の馬に乗っている人物が吹雪丸 - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 1995

 しんちゃんの父親のひろしの存在も大きかったです。最初は「行ってきまーす」「ただいま」しかセリフはなかった。でも声優の藤原啓治さんのおかげで、非常に面白いキャラクターになっていったんです。それで「藤原啓治さんが面白いから」とアニメスタッフが、ひろしの出番を増やしていく。キャストとスタッフの間接的なやり取りでどんどん「クレヨンしんちゃん」自体が変わっていきました。作り手だった僕らも、同じ年齢で描きやすいキャラクターだったということもありますが(笑)。

■「クレヨンしんちゃん」でチャレンジしたこと、難しかったこと

 『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』のラストを作ったことは、僕のその後の監督人生を決めました。これまでの『しんちゃん』の流れだと、『オトナ帝国』もラストはおバカな戦いをして終わる予定だったんです。でもしんのすけたちの前に立ちはだかるケンとチャコというキャラクターに、おバカな戦いをさせたくなくて。だけど彼らが野原一家の勝利を認めて終わるわけにもいかない。であれば彼らは死ぬしかないと。でも本気で死のうと思った彼らの死を、キジバトの親子が防ぐということを思いついた時にものすごく興奮したんです。ですがこのストーリーだと、「しんちゃん」ではなくなってしまうとさまざまなところから言われるだろうし、自分自身もそう思ってしばらく悩みました。けれどもこの作品を作って、映画館でお客さんに評価していただけて。「僕が“しんちゃん映画の形”にこだわりすぎていたんだ」とお客さんに教えてもらったんです。僕はこのシーンを作って初めて映画監督になれたと思います。

『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2001

 しんちゃんで、子供を笑わせることは難しかったですね。自分はストーリーとか敵キャラとか、ひろしやみさえの会話のほうに興味がいってしまうんです(笑)。なので、時々ハッと我に返るんですよ。「ギャグシーンが全然ない!」と。そこで「いかんいかん、ここで一発ケツを出すか!」と突発的にしんちゃんのお尻を出したりしていました(笑)。やっぱり主な観客は子供なので。でも子供は遠慮しませんよね。面白くなければ笑わない。笑わせようと思っていなかったシーンで爆笑したりするんです。大人向けの作品を作っていたら、こんなにもわかりやすいリアクションはないんです。非常に勉強になりました。

■これからの作家に伝えたいこと

戦国大合戦
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2002

 自分の中に越えちゃいけない一線を作らないことだと思います。ある時期から死というものを描くことを、子供向けの作品を作る作り手たちが避けるようになったと思うんです。でも自分が子供だった頃の1960~1970年代の子供向けの作品は、最後にヒーローの死が描かれていたんです。「鉄腕アトム」「サイボーグ009」「ウルトラマン」しかり。子供心にショックを受けましたが、正義の味方の死が子供心に刷り込まれていった。でもいつからか子供向けの作品は安心安全のお菓子みたいな作品が望まれるようになっていた。でもだからこそあえて『オトナ帝国の逆襲』は、自分の子供の頃のような死のにおいをただよわせる作品にさせてみたんです。これを作ることで「しんちゃん」チームから外されても、このシーンを作れるなら「それでもいい」と思った。僕は『オトナ帝国』で気付きを得てから、常に新しい作品を作る時には、「この作品はこう」と考えないことが一番大事だと思うようになりました。「とにかく冒険するんだ」という気構えで新しい作品に臨まないといけないと思うようになりましたね。

◆湯浅政明◆

ハイグレ
『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 1993

 第1作『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』から、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズに参加。数々の『しんちゃん』作品で原画や絵コンテ、キャラクターデザイン、設定デザインなどを手掛けている。ビビッドな色彩感覚や独特な画面構成が特徴的。4月には監督作品の映画『夜は短し歩けよ乙女』、5月には映画『夜明け告げるルーのうた』の公開が控えている。

■今だから語れる「クレヨンしんちゃん」裏話

 今でも原画は初回から参加している人がバリバリやってるんじゃないのかな。たぶん4~5人で半分くらい描いた時もあるんじゃないの? 皆さん仕事が早くてうまかった。だから負けじとやらなければと思うんです。原画の描き方もすごく個性豊か。失礼を承知で言えば、大塚正実さんの原画は、結構めちゃくちゃに見える時があるんです(笑)。でも画面になるとすごく面白い! その対極だったのが高倉佳彦さん。ラフ画の一枚一枚が額縁に入れて飾りたくなるほどキレイでした。もちろん画面でもキレイ。林静香さんは一コマで破天荒な動きを描いたりする方で、タイミングも独特で面白かった。いろんな人が新たな動きを開発していくので、自分もそれに乗っかっていこう! という気持ちでやっていました。

■「クレヨンしんちゃん」でチャレンジしたこと、難しかったこと

タマタマ
『映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 1997

 キャラクター自体シンプルなので、いろんな動きに挑戦できて楽しかったです。作品に幅があるので、漫画っぽいデフォルメした動きから、骨を意識したリアル志向のものまでさまざまな動きを試せました。でもしんちゃんの頭の形だけはウソなんです。それを立体的に描こうとして難しくなったりもしました。すごくシンプルなんでけど、真面目に考えすぎると描けなくなる。デザインだけではなく動きも含めて、リアルに考えていくと、どんどんつまらなくなっていくこともあるんですよね。しんちゃんらしくないというか。逆に記憶の断片でシンプルに描くと、いいデザインになったりもする。なので自分で描いたものがリアルすぎてつまんないなと思ったら、一度寝かせてみたりもしました。

■「しんちゃん」で印象に残ったこと

ヘンダー
『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 1996

 『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』では、アクション仮面とハイグレ魔王が建物に上っていくシーンを担当したんですが、その時に初めてアニメーションをやっていてよかったなと思ったんです。自分が思ったように画面が動いていくのが面白くて。そして『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』ではラストでトランプをめぐって追いかけっこするシーンを、絵コンテから任せていただきまして。そのシーンが一番好きなんです。自分も楽しかったんですけれども、劇場でお客さんにウケていたことが何よりうれしかったですね。

 それと(初期からアニメーターとして参加している)末吉裕一郎さんの担当箇所だと思うのですが、『映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』で、車や電車を乗り継いで敵がいるお台場に向かうシーンは、野原一家の表情が劇画的でクレイジーな表情で大好きです。あそこまでキャラクターを描くということはなかなかできない。自分も「こういうふうに描きたい」と思っていたことがあって、面白いと思うと同時に悔しいと思いましたね。

◆中島かずき◆

ロボとーちゃん
『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2014

 以前、「クレヨンしんちゃん」を発行していた双葉社に所属し、原作者である故・臼井儀人氏のデビュー作「だらくやストア物語」の編集を担当。その後「クレヨンしんちゃん」関連書籍などの編集も担当する。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』などではチーフプロデューサーも務めた。2014年公開の『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』では脚本を執筆している。「キルラキル」「天元突破 グレンラガン」などの脚本、劇団☆新感線の座付作家としても知られている。

■今だから語れる「クレヨンしんちゃん」裏話

 『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』のオファーが来た時には、やっぱり来るよね~と思いましたね。プロデューサーの時にシナリオ会議にも出ていたのですが、第1作の時から「しんちゃん」は難しいよな~と思っていたんです。「ドラえもん」的なSF的な設定はないのに、普通の5歳児が地球を救う物語をもう何十回もやっているわけじゃないですか。でもしんのすけは決して真正面から「オラ、やるゾ!」と言うような子供じゃない。動くのは“おねいさん”のためだったり(笑)。自分たちが動いてほしいように動かしてしまうとしんのすけではなくなる可能性がある、相当なテクニックが必要とされる作品だと思うんです。

 『ロボとーちゃん』は、オリジナルストーリーも手掛けてきたシンエイ動画さんのアイデアからスタートしました。いろいろなアイデアをもらっていく中で、最後に高橋渉監督が「ひろしがロボットになるアイデアがあるんですよね……」とぽろっとおっしゃった。それでみんな、「アッ!」と思って。それからプロットを作っていったんです。そのアイデアをちゃんと突き詰めると、あのストーリー展開にならざるを得ないという結論にたどりついたのは早かったですね。でも実は皆さんが僕だからこそと思っている冒頭シーンは、実は僕の脚本とはちょっと違うんですよ(笑)。僕はアニメで以前やっていた「カンタムロボサーガ」の正当続編を考えていたんです。

■「クレヨンしんちゃん」でチャレンジしたこと、難しかったこと

ロボとーちゃん
『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』より - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2014

 自分が一番チャレンジしたシーンはなくなってしまいました(笑)。『ロボとーちゃん』のバトルシーンは巨大ロボ戦だったんです。でもあのクライマックスのナンセンスさを観て、『しんちゃん』ならこれくらいギャグがあってもいいなとは思いました。

 『ロボとーちゃん』では“ひろしを殺した”とも言われますね。劇中では本物(ひろし)と偽物(ひろしの意識&記憶を埋め込まれたロボとーちゃん)がいて、でもどちらも本物のひろしであって。でも結末では、しんのすけが大切な人の消滅を受け入れて成長する姿を描かないといけないと思っていました。この設定をやる限りは、逃げてはいけないなと。デリケートなストーリーですが、作り手の都合で物語をゆがめてはいけないと思うんです。この設定を作った以上は、物語に対して逃げたことになる。でも自由に動くしんのすけの行動を作家の都合のいいように決めてはいけない。その塩梅が難しいんです。

 本当の子供向け作品は大人が観ても面白いわけですから、「子供だまし」という言葉はありますが、子供をだますほうが大人をだますより難しいですよね。子供は素直なので。大人がどれだけ本気で彼らへの作品を作っているか、その態度を見抜くと思っています。

■故・臼井儀人氏との思い出

 理由は忘れたんですが、『映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』の試写は臼井先生と二人で観たんですよ(笑)。まだ会社にいたので、双葉社の担当代理として。帰りに「面白くってよかったですね~」とご飯食べながら話しました。先生は礼儀正しくて頭がよくて、決して威張らないステキな方。でも冷静なところがあって。「クレヨンしんちゃん」の関連本などご自身が関わられていないものにも寛大でしたが、それは信頼されているからだろうと思うと、僕ら双葉社の担当も「質は落とせない」と頑張りましたね。

 双葉社にいた時に、直接先生から聞いたのですが、原作のしんちゃんは靴下をはかないんですよね。アニメでははいていますが。先生は「しんのすけは靴下をはかない昭和の男の子なんですよ」とおっしゃったんです。その時に僕は「しんのすけは野原をはだしで走る男の子」なんだと思いました。もう一つ、「しんのすけは真正面から笑わない。ハードボイルドなんですよ」とおっしゃった。直接お聞きしたこの二つのことが、僕の中の野原しんのすけの核になっています。

取材後記

シリリ
最新作『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』より - (C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2017

 アニメスタジオ側で携わってきた原恵一氏・湯浅政明氏、双葉社そして脚本家側で関わってきた中島かずき氏。インタビューを進めていくうちに、時に越えていくべきもの、また一方で守るべきものとして、それぞれが異なる「しんちゃん」像を有していたことを実感した。本来の設定通りであれば、“普通の5歳児”のしんのすけ。劇場版も25作目まで作られるご長寿作品になったのは、「しんちゃん」の自由さや懐の深さがあるからこそなのだろう。だがその自由さゆえに、しんのすけを真っ白な紙の上に置いたとき、その紙の上に何を描くかはその作家自身に委ねられ、できた作品は最も素直な観客である子供たちによって評価される。だましがきかない場に作家自身が飛び込んでいく「しんちゃん」だからこそ、世代を超えた人々の心を熱くさせているのかもしれない。

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