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ノーラン&ダウニー・Jrも出席 インディペンデント映画の祭典サンダンス映画祭注目作

20年以上前、『メメント』でサンダンスのウォルド・ソルト脚本賞を受賞したクリストファー・ノーラン監督と『オッペンハイマー』でタッグを組んだロバート・ダウニー・Jrがオープニングに出席 photo by Michael Hurcomb / Shutterstock for Sundance Film Festival.

 第40回サンダンス映画祭が、現地時間1月18日から28日にかけて開催され、多様性とオリジナリティーあふれる作品が多く上映された。ユタ州パークシティにおける対面形式と、オンラインのハイブリッドで開催された映画祭には、昨年の全米脚本家組合と全米映画俳優組合のストライキの影響で公開作が少なくなっていることもあり、新しい才能と、『コーダ あいのうた』や『パスト ライブス/再会』のようにアカデミー賞を狙えるような作品を見つけようとする業界人が押し寄せ、高額で買い付けられた作品も数多く見られた。(吉川優子 / Yuko Yoshikawa)

 開幕を飾るオープニングガラでは、映画祭初のトレイルブレイザー(先駆者)賞がクリストファー・ノーラン監督に授与され、ロバート・ダウニー・Jrがプレゼンターを務めた。ノーランは、23年前『メメント』で同映画祭のウォルド・ソルト脚本賞を受賞。どの配給会社も興味を示さなかった作品をサンダンス映画祭が上映してくれたことが、彼にとってどれほど重要なことだったかを熱く語った。また、今年出演作2本が上映されたクリステン・スチュワートがヴィジョナリー賞を受賞し、ジョディ・フォスターも、パートナーのアレクサンドラ・ヘディソンが監督した短編映画(フォスターが製作総指揮)の応援に駆けつけた。

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スーパーガール役で注目を浴びたサッシャ・カジェも出演する『イン・ザ・サマーズ(原題) / In the Summers』Courtesy of Sundance Institute

 USドラマ部門審査員大賞は、コロンビア系アメリカ人でクィアのアレッサンドラ・ラコラッツァが脚本、監督を手がけた半自伝的ドラマ『イン・ザ・サマーズ(原題) / In the Summers』が受賞。長編初監督のラコラッツァは同部門の監督賞も獲得した。夏ごとに、ニューメキシコに住む父親と一緒に過ごす姉妹の様子を、長年にわたって4つのパートで描く。中毒を抱えた父親と娘たちの関係が、年と共に変化していくところが繊細に描かれ、さまざまな問題がありながらも、変わることのない父娘の絆を感じさせる。ティーンエージャーになってからのクィアの姉ヴィオレッタを、昨年同部門で審査員演技賞を受賞したリオ・メヒエルが、妹のエヴァを『ザ・フラッシュ』のスーパーガール役で注目を浴びたサッシャ・カジェが演じ、グラミー賞受賞歌手レネ・ペレス(ステージ名レジデンテ)が父親役で俳優デビューし、高く評価されている。

『ポーセリン・ウォー(原題) / Porcelain War』Courtesy of Sundance Institute Photo by Slava Leontyev and Andrey Stefanov

 USドキュメンタリー部門審査員大賞は、ブレンダン・ベロモスラヴァ・レオンチェフの初監督作『ポーセリン・ウォー(原題) / Porcelain War』が受賞。ロシアから毎日激しい攻撃を受ける中、ロシアとの国境から40キロの町ハルキウに残って戦うウクライナ人アーティストのスラヴァと妻のアーニャ、彼らの長年の友人アンドレイを追う。スラヴァがさまざまな動物(想像上の動物も)の磁器を焼き、アーニャがそれに絵を描くのだが、劇中にはその絵がアニメーションとなって動く、悲しくも美しいシーンがある。元特殊部隊員でもあるスラヴァは、一般市民に武器の使い方を教えており、彼の部隊がロシア兵をドローンで攻撃したり、負傷した仲間を命がけで助けに行く映像など、緊張感あふれるシーンにハラハラさせられる。「戦争中でも、ときにほほ笑むことはとても重要。そのために私たちの国でアートを作っている」と語るアーニャ。命がけでアートを作り続ける彼らの勇気が深い感動を呼ぶ。

『スーホー(原題) / SUJO』Courtesy of Sundance Institute Photo by Ximena Amann

 ワールド・シネマのドラマ部門審査員大賞は、女性監督デュオ、アストリッド・ロンデロフェルナンダ・ヴァルデスが監督、脚本、製作を手がけた『スーホー(原題) / SUJO』に与えられた。4歳の時にメキシコのカルテルで働く父親を殺された少年スーホーは、叔母に守られて田舎町で育つが、自らも父と同じ道をたどりかけて命を狙われ、メキシコシティに逃げる。真面目に働き始めたスーホーは、親切な女性教師と知り合い勉強を始めるが、兄を殺された幼なじみに助けを求められ……。メキシコに蔓延する腐敗と暴力の悪循環をどうすれば断ち切ることができるのかを、スーホーの苦境を通して掘り下げる抒情的な青春物語だ。

『ア・ニュー・カインド・オブ・ワイルダネス(原題)』Courtesy of Sundance Institute Photo by Maria Gros Vatne

 また、ワールド・シネマのドキュメンタリー部門審査員大賞は、シリヤ・エヴァンスモ・ヤコブソン監督の『ア・ニュー・カインド・オブ・ワイルダネス(原題)/A New Kind of Wilderness』が受賞。ノルウェー人の写真家マリアとイギリス人の夫ニックは「地球を尊重し、自然を愛するように子供たちを教育することで、地球への害をできるだけ少なくする」という考えで、森の中の農場に住んで自給自足の生活をし、子供たちはホームスクーリングで学んでいる。しかし、マリアが亡くなるという悲劇が突然訪れ、一人で子供たちを教育しながら生活することが出来なくなったニックは、農場を売って町に引っ越すことにする。マリアの死を嘆き悲しむニックと4人の子供たちが、どのようにそれを乗り越えていくかを描いた心に響く美しい作品だ。

『ディディ(原題) / DiDi(弟弟)』Courtesy of Sundance Institute

 観客賞は、台湾系アメリカ人ショーン・ウォンの半自伝的な青春ドラマ『ディディ(原題) / DiDi(弟弟)』が、USドラマ部門観客賞と、アンサンブル・キャストの審査員特別賞をダブル受賞。舞台は2008年のサンフランシスコ・ベイエリア。高校生になる前の夏、クリス(アイザック・ウォン)は、好きな女の子にどうアプローチするか悩んだり、背伸びをして年上のスケボー仲間とつるんだり、母(ジョアン・チェン)や姉といつもぶつかっている。

 ウォンは、彼の祖母2人を主人公にした監督作『ナイ・ナイ・アンド・ワイ・ポー(原題) / Nai Nai & Wai Po』で、今年のアカデミー短編ドキュメンタリー賞にノミネートされており、母方の祖母は『ディディ(原題)』にもおばあさん役で出演している。

『ドーターズ(原題) / Daughters』Courtesy of Sundance Institute

 USドキュメンタリー部門の観客賞と、全作品から観客が一番のお気に入りを選ぶフェスティバル・フェイバリット賞をダブル受賞したのは、ナタリー・レイアンジェラ・パットン監督が8年をかけたドキュメンタリー『ドーターズ(原題) / Daughters』。ワシントンD.C.の刑務所に収監中の父親が、娘と1日一緒にすごしてダンスをする「デイト・ウィズ・ダッド」というプログラムを追った作品で、イベントの10週間前からカウンセリングを受ける父親たちや、4人の少女たちが不在の父親に対して持つ愛情や悲しみ、恐れや恨みなど、さまざまな思いをカメラに向けて率直に語る姿がシネマヴェリテ・スタイルで描かれる。このプログラムは、元々パットンがCEOを務める「Girls For A Change」という黒人の少女たちに機会を与える団体が始めたもの。これに参加した父親の95%は、2度と刑務所に戻ってくることがないといい、父娘の絆が更生にどれほど大切かを物語っている。

『ガールズ・ウィル・ビー・ガールズ(原題)』Courtesy of Sundance Institute

 ワールド・シネマのドラマ部門観客賞は、シューチー・タラーチ監督の『ガールズ・ウィル・ビー・ガールズ(原題) / Girls Will Be Girls』が受賞。ヒマラヤの麓にある厳格な寄宿学校に通う16歳の優等生ミアの性の目覚めと、母親との関係を描いた青春ドラマ。ミアの母親は、ミアがつきあっている好青年スリに、勉強の邪魔にならないようにと警告し、厳しく監視しているが、徐々にチャーミングなスリに惹かれていく。ミアを感情豊かに演じたインド人女優プリーティー・パニグラフィの演技に同部門の審査員特別賞が与えられた。

『イベリン(原題)』Courtesy of Sundance Institute Photo by Bjorg Engdahl

 ワールド・シネマのドキュメンタリー部門の観客賞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを患い、2014年に25歳で亡くなったノルウェーのゲーマー、マッツ・“イベリン”スティーンを描いたベンジャミン・リー監督の『イベリン(原題)/Ibelin』が受賞。リーは、同部門の監督賞にも輝いた。友達と遊ぶこともままならないマッツは、両親から長時間ゲームをすることを許可され、1日の大半をゲームをして過ごすことになる。マッツが亡くなった後、父親がマッツのブログのパスワードを思い出し、彼が亡くなったことを書き込むと、ものすごい数の返事が入ってきてとても驚く。マッツはゲーム「World of Warcraft」の中では、イベリン・レッドモアというハンサムな探偵で、多くの他のアバターのキャラクターとやりとりしていたことがわかる。リーは、アーカイブに残されたマッツと友人たちが書いたセリフを使い、マッツが生きていた世界をアニメーションで再構築。両親は「マッツが恋や友情を経験できないのが最大の悲しみ」と思っていたが、ゲームの中で、初恋を経験したり、友情を築いたりしていたことがわかる。涙なしでは見れない作品だ。

『ア・リアル・ペイン(原題)/A Real Pain』Courtesy of Sundance Institute

 ウォルド・ソルト脚本賞は、ジェシー・アイゼンバーグ監督、脚本の『ア・リアル・ペイン(原題)/A Real Pain』が受賞した。ニューヨークに住むユダヤ人のデビッド(アイゼンバーグ)といとこのベンジー(キーラン・カルキン)は、亡くなった祖母を偲ぶためにポーランドに行き、マイダネク強制収容所や、彼女がかつて住んでいた家を訪ねることになる。妻子持ちの神経質なデビッドと、チャーミングで初対面の相手ともすぐに打ち解けるベンジーは、まるで正反対のキャラクター。デビッドはベンジーに優しく接しようとするが、旅行中も場違いな発言を連発する彼に徐々にイライラしてくる。カルキンとアイゼンバーグの演技が非常にリアルで素晴らしく、ユーモアとドラマのバランスが絶妙。監督2作目のアイゼンバーグの才能が光る。フォックス・サーチライトが1,000万ドル(約14億5,000万円・1ドル145円計算)で買い付けた。

 先に発表された短編映画賞では、『蟹から生まれたピスコの恋』の監督、長久允が、審査員監督賞を受賞。カニの父と人間の母から生まれた高校生ピスコが先生に恋をし、卒業してすぐに結婚しようとするが……というユーモアたっぷりの映画だ。

 また、自身の受けた性被害を勇気をもって告発した伊藤詩織が、自らの経験を追った初監督作『ブラック・ボックス・ダイアリー(原題) / Black Box Diaries』がワールド・シネマのドキュメンタリー部門で上映され、LA Times紙やVariety誌の「サンダンス映画祭のベスト作品」の1本に選ばれるなど、高い評価を受けた。

 受賞作を含め、多くの観客に観てもらいたいと思える作品が今年もたくさんあり、サンダンス映画祭健在を印象づけた。過渡期にある映画業界において、多くの人々に見てもらうためには賞レースで話題となるのが重要だが、そういう作品がこの中からどれくらい生まれてくるのか、今から楽しみだ。

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