アカデミー賞作品賞、大本命は最多ノミネートの『オッペンハイマー』!対抗馬は?
第96回アカデミー賞
WHO(世界保健機関)がCOVID-19パンデミックの緊急事態終了を宣言した2023年の映画界は、5月に世界最高峰のカンヌ国際映画祭が完全復活、大盛況のうちに幕を閉じた。サマーシーズンの7月21日には、北米で同日公開された『バービー』と『オッペンハイマー』のメジャー大作2本が“バーベンハイマー”という呼称で世界的な旋風を巻き起こし、それぞれ大ヒットを記録。両作は賞レースも席巻し、アカデミー賞では『オッペンハイマー』が最多13部門にノミネートされた。『バービー』も7部門8ノミネートされ、同作を含め作品賞に女性監督の作品が3本ノミネート。オスカー史上初となる。世界93か国、約9,800人のアカデミー会員が投票する今年の作品賞に輝くのは、一体どの作品だろうか。(文・小林真里)
『オッペンハイマー』
本命はクリストファー・ノーラン監督の、この伝記映画だろう。物理学者J・ロバート・オッペンハイマーは、第二次世界大戦中に原子爆弾開発計画「マンハッタン・プロジェクト」に参加することになり、その能力を買われた彼は原爆の実験を行うロスアラモス研究所の所長に抜てきされるが……。ノーラン12作目の監督作は世界興行収入9億5千万ドル(約1,378億円)突破の大ヒットを記録(2023年度の第3位)。ゴールデン・グローブ賞では作品賞(ドラマ部門)を含む5冠。放送映画批評家協会賞でも作品賞など8部門受賞。英国アカデミー賞でも最多13部門にノミネート。ノーラン監督作が作品賞にノミネートされるのは3度目だが、遂に受賞となるか?(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル145円計算)
『オッペンハイマー』(日本公開3月29日)
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィ、エミリー・ブラント、ロバート・ダウニー・Jr
上映時間:180分
配給会社:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
(C) Universal Pictures. All Rights Reserved.
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『哀れなるものたち』
対抗馬は、11部門にノミネートされたヨルゴス・ランティモス監督の、この独創的な作品だろう。自ら命を絶った若き女性ベラは、天才的なマッドサイエンティスト、ゴッドウィンの手で奇跡的に蘇生。驚異的な回復を見せる彼女は、世界を自分の目で見たいという欲望に駆られ、怪しげな弁護士ダンカンに誘われてヨーロッパ横断の旅に出る。ゴールデン・グローブ賞で作品賞(コメディー/ミュージカル部門)を受賞。ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を獲得している。プロデューサーにはランティモスとともに、主演女優賞にノミネートされているエマ・ストーンも名を連ねている。
『哀れなるものたち』(日本公開1月26日)
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー
上映時間:142分
配給会社:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C) 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
もう一本の対抗馬が、マーティン・スコセッシ監督による1920年代を舞台にした西部劇クライムドラマ。叔父を頼ってオクラホマに移住したアーネストは、先住民オセージ族の女性モリーと恋に落ち結婚する。オセージの居留地で石油が発掘されると不可解な連続殺人事件が起こり、先住民たちが次々と殺されていく。FBI捜査官が調査に乗り出すと、隠された驚がくの真実が明らかになる。デイヴィッド・グランのノンフィクション・ブックを基にした同作は、ナショナル・ボード・オブ・レビューで作品賞を含む4部門で受賞している。アカデミー賞では計10部門にノミネート。スコセッシのプロデューサー兼監督作が作品賞にノミネートされるのはこれが4本目。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(日本公開済み)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン
上映時間:206分
配給会社:東和ピクチャーズ
画像提供 Apple TV+
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『バービー』
昨夏、メガヒットを記録したグレタ・ガーウィグのファンタジーコメディーもノミネート。バービーランドで夢のような毎日を送るバービーの身体に、突如異変が走る。原因を探るために恋人ケンと一緒に人間界を訪れたバービーは、まるっきり異なるその世界に驚き、自分が住むバービーランドと自己の存在に疑問を抱くようになる。世界興行収入14億ドル(約2,030億円)を突破した2023年ナンバーワンのこのヒット作は、ゴールデン・グローブ賞で興行成績賞と歌曲賞を受賞。プロデューサーの一人は主演のマーゴット・ロビーだ。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル145円計算)
『バービー』(日本公開済み)
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、アメリカ・フェレーラ
上映時間:114分
配給会社:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
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『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
アカデミー賞常連のアレクサンダー・ペイン監督の最新作もノミネートされている。舞台は1970年代のニューイングランドの全寮制寄宿学校。気難しい嫌われ者の中年歴史教師ポールは、クリスマス休暇の間、行き場がなくキャンパスに残ることになった、問題を抱えた生徒たちと過ごす羽目になる、というコミカルで感動的なドラマ作品。ペイン監督作が作品賞にノミネートされるのは、監督8作目にあたる本作で4度目。ゴールデン・グローブ賞では男優賞(コメディー/ミュージカル部門)と助演女優賞を受賞している。
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(日本公開6月21日)
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ、ドミニク・セッサ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ
上映時間:133分
Seacia Pavao / (C) 2023 FOCUS FEATURES LLC.
配給会社:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画
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『落下の解剖学』
第76回カンヌ国際映画祭で最高賞・パルムドールを受賞したこの作品もノミネート。小説家のサンドラは、夫サミュエルと息子ダニエルと一緒にアルプス山脈の麓、グルノーブルの別荘に滞在していた。サンドラが女学生のインタビューを終え、ダニエルが散歩から戻ってくると、サミュエルが屋根裏部屋の窓の下に落下して亡くなっていた。サンドラは夫の死は偶発的な事故が原因だと主張するが……。フランス人女性監督ジュスティーヌ・トリエによるこの法廷ドラマは、ゴールデン・グローブ賞では脚本賞と非英語作品賞の2冠。アカデミー賞では監督賞、主演女優賞ほか計5部門にノミネートされている。
『落下の解剖学』(日本公開2月23日)
監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール
上映時間:152分
配給会社:ギャガ
(C) 2023 L.F.P. - Les Films Pelleas / Les Films de Pierre / France 2 Cinema / Auvergne-Rhone-Alpes Cinema
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『関心領域』
同じくカンヌ国際映画祭で話題になったのが、A24が北米配給を手がけたイギリス人監督ジョナサン・グレイザーのこの歴史ドラマ。1943年、アウシュビッツ強制収容所の司令官ルドルフと妻ヘドウィグは、収容所の隣の美しい庭付きの家に住み、夢のような生活を送っていた。しかし庭の壁の外では恐ろしい叫び声や銃声が木霊していた。美しいビジュアルで描くこの異色のホロコースト映画は、第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを含む4冠部門を受賞し話題を呼んだ。アカデミー賞では国際長編映画賞を含む5部門にノミネート。アメリカ・イギリス・ポーランドの合作で、劇中の言語はドイツ語、ポーランド語、イディッシュ語となっている。
『関心領域』(日本公開5月24日)
監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー、ラルフ・ハーフォース
上映時間:105分
配給会社:ハピネットファントム・スタジオ
(C) Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
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『パスト ライブス/再会』
こちらもA24が共同製作と北米配給を担当したロマンス映画。ソウルに暮らす12歳のノラとヘソンはお互いに恋心を抱き、強い絆で結ばれていたが、ノラは家族とともに韓国からカナダに移住してしまう。24年後、大人になりニューヨークの演劇界で働く彼女はヘソンと再会する。韓国系カナダ人監督セリーヌ・ソンのデビュー作であり半自伝的なこの作品は、昨年のサンダンス映画祭で大絶賛され注目された。なお、ソン監督の父親はハン・ソッキュ、ソン・ガンホ出演の韓国のギャングコメディー『ナンバー・スリー NO.3』の監督ソン・ヌンハンだ。
『パスト ライブス/再会』(日本公開4月5日)
監督:セリーヌ・ソン
出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ
上映時間:106分
配給会社:ハピネットファントム・スタジオ
Copyright 2022 (C) Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved
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『マエストロ:その音楽と愛と』
配信系では、このNetflix作品もノミネートされている。1943年にニューヨーク・フィルで指揮者としてデビューを飾ったレナード・バーンスタインは、絶大な評価を得て名声を手にする。女優フェリシアと結婚し子供を授かり、1950年代には数々のオペラやミュージカルの作曲で大成功を収める一方、プライベートでは多くの問題を抱え結婚生活が危機を迎える。20世紀を代表する世界的な作曲家で指揮者、レナード・バーンスタインの伝記映画を監督したのは主演のブラッドリー・クーパー。スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシとともにプロデューサーとしても名を連ねている。
『マエストロ:その音楽と愛と』(日本公開済み・Netflixで配信中)
監督:ブラッドリー・クーパー
出演:ブラッドリー・クーパー、キャリー・マリガン、マット・ボマー
上映時間:131分
配給会社:Netflix
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『アメリカン・フィクション』
最後に、北米で Amazon MGM スタジオが配給したこのコメディードラマもノミネート。本が売れないことに苛立ちを感じていたロサンゼルスの小説家で教授のセロニアスは、ペンネームを使い“典型的な黒人小説”をやけくそで執筆する。なんとか刊行されるが、これが国内で売上1位のベストセラーになり突如彼は名声を得てしまう。コード・ジェファーソンの監督デビュー作で、ジェフリー・ライト主演の本作は、アカデミー賞作品賞の受賞作とかぶることが多い、トロント国際映画祭の観客賞を受賞している。製作総指揮の1人はライアン・ジョンソン(『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の監督)。
『アメリカン・フィクション』(Prime Videoで2月27日より独占配信)
監督:コード・ジェファーソン
出演:ジェフリー・ライト、トレイシー・エリス・ロス、イッサ・レイ
上映時間:117分
配給会社:Amazon Prime Video
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第96回アカデミー賞授賞式は、3月11日(月)午前7時00分よりWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて生中継